261 新人ローテーション研修 攻略サポート編35
『
中級者向け現代ダンジョン(仮)
出現モンスター:なんか強い奴
階層数:不明
その他情報:情報は全て不明。それを前提にそう簡単に攻略できない感じ
』
「この依頼主は仕事舐めてるんですか?」
今回の顧客から提供されたダンジョン情報を見て、相変わらず我慢できないドラ子が吠えた。
とはいえ、今回に限ってはドラ子以外の新人も、声には出さずとも同じような顔をしている。
前回のゴブリンダンジョンも情報は少なかったが、それでも相手が何を求めているのかはそれなりに分かる条件だった。
だが今回の条件はどうだろう。
とにかく、手強そうなダンジョンであること以外は、何一つわからない。
なんなら『現代ダンジョン』って、それは、ダンジョンの種類ではないのではないだろうか。
洞窟とか、山岳とか、遺跡とか、森とか、そういう類の情報さえ何も持っていない。
強いてあげるなら、それで分かるのは世界観がファンタジー寄りではなく、テクノロジー寄りなのかなってことくらいだ。
ダンジョンのことは良く分からない。
「……まぁ、今回は研修なので。こういう顧客もいますよ、ということだけ分かってもらえれば……いいんじゃないかなぁ……って」
「カワセミ先輩。自分で言ってて苦しいなら、無理に言わなくても良いんですよ?」
「……うふふ」
言葉にはせず、カワセミは笑顔だけを返した。
まぁ、そういうことだ。
難易度のバグこそあれど、前回の研修先は概ね研修に協力的な優良顧客。
対して今回のところは、なんらかの大きな力が働いたらしい要注意顧客。
顧客のレベルを比べるのも烏滸がましいというもの。
「中級者向けって言ってますけど、そもそも何もかも不明なら、いったい誰が中級者向けって判定に下したんですかね?」
「大いなる世界の意思かしらね」
「それで許されるなら、世界に斥候は要らないじゃないですか」
カワセミとて、ドラ子の言う事も本当に分からないではないのだ。
そもそも、世界観が中世風だろうと現代風だろうと、近未来風だろうと古代都市だろうと、そこに住む人間は馬鹿じゃない。
ダンジョン攻略を生業とする世界であるなら、ダンジョンの調査というのは、ダンジョン攻略の前にされるものだ。
特に、攻略中に命を落とす危険のある世界なら、まずは未知のダンジョンの調査が行える実力者を集め、調査隊を組むのが一般的だろう。
予算の問題や人員の問題もあるので調査隊がどこまで潜るかはそれぞれだろうが、それでも誰もが突入する前には、何らかの情報は得られるだろう。
先のゴブリンダンジョンも『出てくるのがゴブリン』という情報を得たからこそ、初心者パーティの行き先に選ばれるというもの。
調査隊も途中までゴブリンしか出なかったら『ゴブリンが出るダンジョンではある』と判断して帰ってくるだろう。
とはいえ、言ったようにどこまで調査するのかは調査隊次第。
その辺りは世界観にもよるので、どこまでが一般的と断ずるのも難しい。
だが、なんの情報も無いのに難易度だけは『中級』と分かることは、まぁ、まずない。
「でも今回は大いなる力で、難易度が分かってしまっているのだから仕方ありません。私達はそれに合わせた装備をするだけです」
「納得いかない……」
ドラ子が納得いかずとも、ここは納得するしかない。
相手に完璧を求めることはできない。それが攻略サポート部というものだ。
こちらは粛々と、与えられた情報で準備するしかないのだ。
「でもこれ、初心者向けダンジョンじゃないんですよね? そしたら属性の偏りとかあるかもしれないですし、地形的な難所とかもあるかもしれないですよね。いえ、私がドラゴンパワー使って良いなら気にしないんですけど」
「うん、使って良い訳ないよね」
使って良い訳はなかった。
だが、ドラ子の懸念はもっともだ。
「確かに。前回も明かりが必須と明記されていたので、松明を持って行きましたもんね」
「何も分かってない状況で、満足な攻略サポートが出来るとは思えないな。中級者向けダンジョンならなおさらだ」
最初に意見を出す係のドラ子に続いて、マイマイとビッグ天丼も懸念を口にした。
とりあえず適当に初心者用の装備を選んだ先日とは違って、能力を中級者くらいに抑えるのなら、中級ダンジョン攻略には結構真剣に、ダンジョンに合わせた装備を選択する必要があるだろう。
装備とは、武器防具だけでなく、持って行くべきアイテムとかも含まれる。
簡単に言えば、火山に雪山向けの装備で行く奴はいないし、逆もまた然りである。
考えれば考える程、今回の条件はこちらに優しくない。
どんな状況でもある程度対応できる装備を用意する、というのも中級者に求められる条件と言われたらそうかもしれないが、研修で要求されるレベルと言えるかどうか。
新人達が難しい顔をし始めたのを見かねて、メガネがそっと口を出した。
「そんなに気になるなら、初日を調査に当てるというのもあるだろう」
「おっとメガネ先輩。いきなり経験者気取りですか?」
「そういうお前はどこの立場からの発言だよ」
ドラ子の謎の返しに呆れつつ、メガネはホワイトボードに書かれた今回の研修の日程を指差す。
──────
四日目:もう一つの研修受け入れダンジョンへ向かう。
五日目〜六日目:泊まりでの仕事を体験(中級者向けダンジョン)
七日目:攻略後のフィードバックや反省など。
──────
「見ての通り、本格的な攻略は明日と明後日で泊まり込みの予定だろ。ということは、初日に様子見の時間をちゃんと確保してあるってこと。もともと、相手が信頼できない想定で、そういった部分のバッファをちゃんと確保してあるんだよ」
「お、おお。言われてみると確かに」
「なるほど、これなら初日は調査重点でも良いですね」
「考えられたスケジュールだったというわけだ」
今回の研修日程を読み直すと、確かにそう思えると新人達は納得する。
スケジュールを手放しで褒められる形になったカワセミは、いまいち喜んで良いものかどうか、悩んだ。
(良く考えられたというか、常習的な問題だから、安全策としてそういうスケジュール組むことが基本ってだけなんだけどなぁ。あんまり褒められた話じゃないよね)
つまりは、営業と顧客の間でこちらが求めるものがちゃんと伝わっていないという、仕事上の問題から来た防御策であった。
もちろん、何も無ければ何もないで、予行練習的に時間を使うだけなので、問題はないのだが。
ここは下手なことは言わない方が良い、とカワセミは思った。
「とにかく、想定としてはそんな感じです。初日は調査に使うということで、なるべく対応の幅が広い装備で行きましょう。そして情報を集めて、ある程度ダンジョンの見通しができたら、改めて対策装備を組んで攻略を目指します」
攻略サポート部としての問題をうまく包み隠しながら、カワセミは結論を出す。
あとは、前回と同じようにカワセミが役割を振って、備品の装備を装着し、研修先へと向かうだけ。
一同がそう思った所で、ピンと高く伸びた手があった。
「はい!」
ドラ子が、質問がありますと強く自己主張する。
このタイミングでなんだろう、と思いつつカワセミは先を促す。
「ええと、ドラ子ちゃんどうぞ」
質問権を獲得したドラ子は、ぐりっと首を回してメガネを見てから言った。
「冷静に考えたら、私達が頑張って情報収集しないで、メガネ先輩を適当に突っ込んだ方が早くないですか? というかぶっちゃけ新人要らなくないですか?」
「……………………それは、まぁ」
それを言ったらおしまいだろうが、という空気が流れる。
そんな中で、頭痛を感じるように頭を押さえたメガネは、ドラ子に聞いた。
「それでお前は、研修として何を学ぶつもりだ?」
「……攻略サポート流のサボるコツとか?」
「ゴーレム部長に報告しておくね」
「それは反則ですよ!?」
ドラ子が狼狽えたが、こればっかりは看過できぬという責任感が、メガネの中には生まれているのだった。
相変わらず、変な所で怠惰なドラゴンである。
研修ということを抜きにしたら最適解ではあるんですよね。
ということで、ずっと前にカクヨムで書き始めて、その内こっちにも移植すると言っていた新作をようやく移植連載しはじめました。
相変わらずこう、死ぬほど読まれてないので、良かったら応援してやってください。
カクヨムの方で読んでる方も『せっかくだから最初から読み直すか』となったらどうぞ。
ダンジョンサバイバルinゾンビワールド
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