260 新人ローテーション研修 攻略サポート編34
作ったダンジョンの難易度調整を、サポート側にぶん投げるとはどういうことか。
今回は、ゴブリンを例に簡単に説明しよう。
たとえば、先日の顧客の考えたようなゴブリンダンジョンがあったとしよう。
前回は、顧客の要望が『初心者向けダンジョン』ということだったが、顧客が頭を捻って作り出してしまった内容が、あまりにも『初心者向け』とはかけ離れていた。
故に、攻略サポート部が出す意見としては『モンスターがゴブリンなのは良いが、初心者向けとしては色々と調整する必要がある』といったところで落ち着いた。
アドバイスは投げたが、具体的な実装についてはそちらで考えてくれという、保守サポート部の回答にも通じる対応になる。
だが、これが今回の要注意顧客であればどうだろう。
実際に、かつてカワセミが体験した要注意顧客の依頼だと、こんな感じだ。
まず、要注意顧客の作るダンジョンは、先日のダンジョンほど頭を捻って作られるような、高度なものにはならない。
部屋が二つと、通路が二本、それにゴブリンを部屋に一体ずつポンと配置する。
これを五階層までひたすら繰り返す。
そうして出来上がった、ゲーセン黎明期の2Dアクションですらもうちょっと凝ってたよ、みたいなダンジョンをお出しして、言うのだ。
『これを初心者向けの良い感じのダンジョンにするには、どうすればいい?』
「んなもん、テメーで考えるか開発設計サポート雇えっちゅう話なんですよ」
淡々と、己の感情を律するように気を付けながら話をしていたカワセミが、我慢できずという風にぶちまけた。
それを聞いていた新人達は、本当にそんなことが有り得るのか? と半信半疑の顔でカワセミを見る。
「あの、先輩。それはつまり、ほぼ未完成のダンジョンを見せられて、攻略サポートしろと言われたってことですよね?」
「端的に言うとそうなりますね」
「許されるんですか?」
許されるのか、という問いかけにドラ子の本心も見える。
それはそうだろう。
一回目の研修先は、難易度こそおかしかったが、その込めた熱意はしっかり伝わってくるものだった。
自分たちで考え抜いたダンジョンを作る。
そういう思いだけは、随所から感じ取れるものだった。
まぁ、その思いが行き過ぎて新人達に著しい不評を買っていたが、逆に言えば新人にそう思わせる程度には、凝った作りだったのだ。
だが、その後に例に出て来たダンジョンは、あまりにも、お粗末である。
「その辺りに、私達とは違う、顧客側の事情があるわけなの」
カワセミとて、そんな顧客にはあまり寄り添いたくはない。
だが、そういう話があるという点は、新人達に伝えるべきことだろう。
そもそも、この『世界』には、多種多様な異世界があり、そこを管理している者も、管理している理由も、同様に多種多様だ。
ダンジョンを作るというのも、世界の管理者の目的による業務の一形態に過ぎず、そこには管理者なりの理由が存在する。
だが、理由はどうあれ、言える事もある。
それは『作ろう』と思ってから実際に『出来上がる』までには、様々な行程があるということだ。
ダンジョンを作る理由が世界それぞれなら、ダンジョン製作の現場もまた世界それぞれ。
Solomonも、ダンジョンを作る理由がある相手に、総合ダンジョン管理術式という形で提供される『手段』の一つに過ぎない。
そして、目的があり、現場があり、予算があり、手段があるなら。
当然、ダンジョンの製作にも、納期というものがつきものだ。
この世界には、好きなだけ予算を使って好きなだけ時間を掛けても良いという、天国が一周して終わりの見えない地獄みたいな現場も存在はしているらしい。
だが、そんな現場を実際に見たことはない。
大抵はプロジェクトが計画された段階で『いついつまでにこれをやって、いついつまでに形にせよ』というロードマップが引かれることになる。
よっぽどのことがなければ、今ある予算と人員でなんとか形にできるくらいの納期が設定されるものだろう。
少なくとも、最初は。
「でも、想定の段階では問題無かったはずのプロジェクトが、様々な要因で停滞し、上からせっつかれるも人員も足りず、ダンジョンの製作は遅々として進まず、徒に金と時間だけを浪費していくという悲劇も、この世には存在するんです」
順調に製作が進むダンジョンも存在すれば、当然そうじゃないダンジョンも存在する。
特に、こういうダンジョンが作りたいという熱意こそあれど、それを形にする具体的なビジョンが存在しない場合、計画は頓挫しやすい。
Solomon的には、そういう顧客向けに『開発設計サポート』が用意されていて、熱意を言語化しながら、Solomonのできる範囲でビジョンを鮮明にしていくお手伝いをしている。
だが、まぁ、分かるだろう。
当然サポートは有料なれば、そんなものは要らぬ、予算が勿体無い、と突っぱねるところも、それなりに存在するのだ。
もちろん、突っぱねたところ全てに問題があるかと言われれば、そんなことはない。
いくつもダンジョンを作った上でノウハウを蓄積し、サポートを入れずとも立派なダンジョンを作る世界も、数え切れぬほどたくさんある。
そういう所からすれば、やや割高な『開発設計サポート』は本当に必要ないのだ。
しかし、そうじゃないところになるとだ。
「かけた時間の割に、進捗は雀の涙。されど納期は目前。そんな制作現場が、目を付けるんですよ。開発設計サポートよりも割安で、かつ『サポートは入れた』と上に言い訳も立つ体の良いサポートが存在すると」
「……つまり?」
「攻略サポートを頼んで、ダンジョンのバランス確認という名目で、設計並みのアドバイスを欲してくる、要注意顧客の誕生というわけです」
「おうふ」
もちろん、そんな顧客ばかりではない。
もともとの攻略サポートの理念を理解し、正しい意味でサポートを求めてくるダンジョンもちゃんとある。当然、そういう方が多数派だ。
仮に、一度でもそういう問題を犯した顧客には、こちらとしても契約の範疇外ということで厳しく接することもある。
そういう意味で、本来の攻略サポートはそれなりに上手く回る仕組みではあったのだ。
だが、そういう顧客ばかりを相手にするには、攻略サポート側の問題も大きかった。
「ただ、攻略サポートのアホ共が、そういう問題があるダンジョンにも、適当なお墨付きだの、下らないアドバイスだのを投げて行くこともありまして」
「もしかしてですけど、それが?」
「はい。保守サポート部が受ける『攻略サポート案件』の火種にもなります」
さっきのゴブリンダンジョンの件は極端な例だが、実際のダンジョンでは、突貫工事で形だけは作ったみたいな現場もままある。
バランスは確かにクソだが、ダンジョンに入ってからゴールするまでは、出来ている、みたいな。
そしてそういうダンジョンを正しい目線で批評するには、ある程度のダンジョンを見る『目』が必要になってくる。
そこにあんぽんたんが一人混じり、的外れな意見を投げるとする。
それを真に受けたダンジョン側が、的外れな意見を採用してダンジョンを正式稼働する。
当然、的外れな意見のため、それが原因でダンジョン運営に悪影響が出る。
で、ダンジョン側が『攻略サポートはちゃんと入れてアドバイス通りにしたのに、問題が起きているのだがなんとかしろ』というお問い合わせを投げる。
結果として、攻略サポートが作ったお問い合わせに、保守サポート部が苦心しながら対応する悲しい世界の出来上がりである。
当然、そういう苦情は保守サポート部だけに留まらない。
顧客満足度の低下や、製品に対する不平不満、開発への無茶な要望といった、ありとあらゆる負の影響が、バタフライエフェクトのように広がって行くのだ。
「とまぁ、こういう形で、攻略サポート部は様々な問題を引き起こしては、他の部署に影響を与え続けているわけですね」
「あの先輩。これ本当に、ローテーション研修の内容で合ってますか?」
「……少し、熱が入り過ぎたようです。失礼しました。うふふ」
思わずと言った形でドラ子が尋ねたところで、カワセミはまたいつもの穏やかな顔に戻った。それまでは目が死んでいた。
少なくとも新人三人は、目の前の先輩が攻略サポート部に大して相当憤懣やるかたない思いを抱えているのだと理解できたのだった。
(まぁ、それだけだったら、まだマシなんだけどな)
その様子を見ながら、メガネは一人自分の仕事について思いを馳せる。
今回の顧客はもしかしたら、もっと悪質な何かを隠しているかもしれない。
例えば『サポートを頼む予算をちょろまかし』、それをこちらに一部流すことで『サポートしたという結果だけを渡す』ような。
そういう、真っ黒の業務上横領を──下手すれば会社ぐるみで行っている可能性だって存在しているのだ。
その真偽を確かめる程度には、仕事をせねばならないだろう。
この会社あらゆるところに横領の影があるな……
とりあえず、なんとかキャンペーンで毎週更新頑張ってましたけどキャンペーン自体は今日で終わりですかね。
一応、週一くらい更新は継続予定ですので、今後も読んでもらえたら嬉しいです。




