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62. ポーション取替

 護国騎士団のポーションをすべて確認してもらったところ、数十本の取り換え品が見つかった。第一隊だけではなく、他の隊も含めた数だ。

 魔物避けだけではなく、治癒のポーションも同様で、特に悪質なのは上級ポーション瓶の中身に、市販の中級が入っていたことだ。

 もし遠征先で上級ポーションを使おうとし、それが普段使用している中級よりも低質だったとしたら、考えただけでぞっとする。使用する前に分かって本当に良かった。


 リーンはすぐさま他の部署に連絡し、在庫の入れ替えをするという名目で、新しいポーションと引き換えに保管している分をすべて戻してもらった。もちろん国王陛下と近衛師団長に知らせた上でのことだ。


 近衛師団、王宮騎士隊、さらに地方に散らばっている警吏も回収の対象となったが、警吏は五つある支部がそれぞれポーションを保管していたため、大事にならずに回収できたらしい。

 そして残念なことにそちらからも入れ替え品が見つかった。これが示すことはつまり、うちに来る前にポーションが入れ替わっていたということだ。


 余談だが美女がやって来るのを今か今かと待ち構えていた脳筋隊長たちの元へ派遣されて来たのは、ラセット副室長だった。え? 約束と違う? そんな約束はしてませんし、事件と関係のないクレームは受け付けませんが何か。




 既に護国騎士団が動き出していることから、この件は護国騎士団が引き続き捜査を任されることになった。

 宰相を通したらきっと俺たちから情報を吸い上げ、王宮騎士隊辺りに捜査の依頼をしただろうが、リーンが国王に直に確認を取ってくれたおかげだ。

 それには、取り替えられたポーションを作った錬金術師を、俺たちが見つけたことも大きかっただろう。


 ポーションは材料や作り方が細かく定義されているが、技術の練度により効果に変化が現れる。王都で市販されているポーションを片っ端から購入し、副室長がその工程を推測してくれたおかげで、販売店に当たりをつけることができた。


 その販売店からさらに辿っていき、卸商に紹介してもらったのは王都に居を構える錬金術師で、それなりの屋敷に住んでいるので儲かってはいるようだ。


 その錬金術師は、取り替えに使われたポーションを自分が作ったものだと認めたものの、客が何に使うかまでは把握しておらず、個人販売もしていないと証言した。

 犯罪に使われた可能性をちらつかせると、すぐに取引のある卸商を紹介してくれた。行ったり来たりしながら卸商から販売に関わったすべてのルートを調査し、ここ最近の大口客のリストを作った。その中には貴族の名前もある。


「分かった範囲で顧客リストを作成しました」

「うむ、ご苦労だった」


 チリアン隊長がそのリストを一瞥し、ある行で目を止めた。


「なぜこの貴族が?」

「やっぱり気になりますよね」

「しかしポーションを必要とする理由はなんだ。この男爵は領地を持っていないのだから、魔物に困るようなこともないはずだ」

「これまで王宮騎士隊から流れていたポーションが無くなり、不満に思う奴らが少なからずいるはずです。その人たちが誰を頼るかというと相手は決まってきますからね」

「既に家とは縁は切っているということだったが、呼びだしてみるか」

「そうですね、貴族を相手に調べるよりは事情を話してくれそうですし」


 手紙鳥を書いて飛ばした。待つことしばし、部下が一人の男を案内してきた。


「どうぞお座りください」


 さすがに取調室へ連れて行くには証拠が足りないし、立場も立場なので応接間へと通した。


「私の実家のことで話があると伺いましたが、あの家が何か問題を起こしたのでしょうか」


 落ち着かない様子で切り出したのは錬金術室副室長である、ジャスパー・ラセットだ。

 そう、あの顧客リストの中にあった名前こそが、副室長の実家であるラセット男爵家だった。


「まずはこちらを御覧ください。王都内でポーションを大量購入した者のリストです」


 俺が差し出した紙を一瞥し、ラセット副室長は顔をしかめた。


「副室長のご実家は王都内にあり、ポーションを大量に必要とする理由が思いあたりません」


 リストをテーブルに置いて、ラセット副室長は疲れたように首を振った。


「きっと体裁のためでしょう」

「体裁というと?」

「お恥ずかしい話ですが、私は先日、実家と縁を切りました」

「その話は耳にしております。答えられる範囲で構いませんが、縁を切ったというのは、書類の上でも既に他人ということでしょうか」

「ええ、先日正式に実家とはまったく関係がなくなりました。貴族籍も返還し、私は既に貴族ではございません」

「失礼ですが、そのように簡単に貴族籍から抜けられるものなのでしょうか」

「国王陛下にお認めいただければ、離婚よりも簡単に事は済みます。そして先日の貴族議会での出来事もあり、王宮内での錬金術室の発言力は低くなくなりました。副室長の私もその恩恵に預かり、とんとん拍子で進めることができたのです。実家が宰相や資材部長の派閥に属し、兄が王宮騎士隊に所属していたことも良い方面に働いたのでしょう」


 縁を切る好機だったということか。


「これまで私は度々仕事の合間に実家へ呼び戻され、言われるがままにポーションを作ってきました。父や兄たちはそれを使い派閥内での発言力を強めていたようです。しかし私との縁が切れたことで、焦ってポーションを入手しようと動いたのでしょう。まったく愚かなことです」


 その様子からして、好きでポーションを作っていたわけではないのだろう。男爵家の三男が実家のためと考え、命令されるがままに受け入れていたのかもしれない。

 仕事でも実家でも酷使されていたというのは不憫以外の何物でもないな。


「しかし錬金術室副室長であるあなたが作ったものと、市販のポーションでは効果に差が出てしまいますな」

「それはそうでしょう。むしろ同じ効果を得られるのであれば、その錬金術師はこちらへ迎え入れられていたでしょうからな」


 ここからが本題だろうと言わんばかりにラセット副室長の顔が引き締まった。


「護国騎士団では、ラセット男爵家が錬金術室のポーションをどこかで入れ替えたとお考えなのですね」

「最初は参考までに話を聞くつもりでしたが、あなたの事情を伺い、その可能性は高くなりました」


 ラセット副室長は自嘲気味に笑った。


「室長には前から言われておりました。あんな家のためにポーションを作ってもろくな結果を生まないと。まったくその通りでしたな。手に入れられるポーションの質が落ちたことをごまかしようがなく、しかしポーションによって得た派閥内での現在の地位を手放したくないのであれば、どこかから手に入れなくてはいけませんからね。父や兄たちであればやりかねません」


 吐き捨てるような言い方にこれまでの関係性が窺える。言い方は悪いが、家族のいなかったリーンの方が、まだ自由に行動できていた部分があったのかもしれない。


「ポーションの横流しが公になり、錬金術室と繋がりのある貴族ということで、より優位に立てるチャンスでしょうからな」


 意を決したようにラセット副室長が強い視線を向けてきた。


「実家へ行っても長居はしたくないので、なるべく早く帰るようにしていましたが、遅くなったり疲れが溜まっている時などは泊ることもありました。鍵は肌身離さず持っておりましたが、唯一風呂へ入る時だけは外したので、その隙を狙われたのかもしれません」


 風呂は仕方がないんじゃないだろうか。鍵が錆びたら困るもんな。


「しかしいつ鍵の複製を作られたのか、申し訳ありませんが分かりかねます」

「縁を切る前ならば、足りなければ作らせるという考えでしたでしょうしね。むしろ何のために複製なんてしたのか謎ですね」

「コルク副隊長、これはあくまで我々の推測でそうと決まったわけではない」

「はい。失礼いたしました」


 チリアン隊長のお叱りに、ラセット副室長は力なく笑った。


「お気遣い痛み入ります。ですが動機も機会もあの家には揃っています。疑って掛かっていただいて構いません」

「いえ、確証を得られるまでは断定できません。ですから我々は確証を得るために動きます」


 チリアン隊長の断言に、ラセット副室長は決心を固めたかのように拳を握った。


「もし私にお手伝いできることがありましたら遠慮なくお申しつけください」

「それでは錬金術室長にも話を通し、一つ罠をしかけてみたいのですが」


 チリアン隊長の案を聞いた副室長は、すぐさまリーンに相談すると言って執務室から出て行った。




 今回の調査に関わった者たちには極秘調査だと口止めをしたので、ポーションについて護国騎士団が調べていることは、王宮内にも市井にも広まっていないはずだ。

 犯人たちは、一度は取り替えが上手く行ったのだから、味を占めていることだろう。近い内に犯行を繰り返すとみて間違いない。


「引っ掛かりますかねえ」

「掛かるだろう。取り替えられていた数を考えると、そろそろポーションが無くなってもおかしくはない頃合いだ。我々は気長に待てばよい」

「そういえばこの件については、チリアン隊長が仕切ることになったんですか?」


 ふと気になったので聞いてみた。あれだけ揉めていたのに話は落ち着いたのだろうか。


「美人が出て来る機会があれば声をかけろと言っていたな」


 ぶれない人たちだなあ。まあ副隊長たちが動いてくれているからこその言葉だろうけど。


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