夢はなあに?
伯爵家の掃除、洗濯、お昼ご飯の提供を終えて、買い出しと言う名のアテナ家訪問へ向かう。前回今迄見た事が無い男の子が居たけど、また居るのかな?
アテナじゃないけど、性格悪そうだし…会いたくないなあ。ドアの前迄行くと、ドアが開いた。
「いらっしゃい。五度目のやり直しにようこそ。」
ニッコリと微笑んでいるけど、怖い。アテナを巻き込んでいるのは紛れも無く私で。アテナからしたら良い迷惑だよね。
「ごめんなさい。またやって来ました。」
深々と腰を折った。
「ミートパイ持って来たの?」
私は腕に下げて居る籠をポンポンと叩いた。
家の中に入りテーブルに着くとパンとスープやサラダが出て来た。遅いお昼ご飯を一緒に取ってくれるらしい。
有り難や。有り難や。ボッチ飯じゃ無いわ。
4回目に出て来た異なる事をアテナに説明した。
アテナはミートパイを咀嚼しながら何かを考えているのか目線が合わず遠い所を見て居た。
「前回私が助けに行こうとしたら、邪魔が入って現場に行けなくて悪かったわ。一巡目から考えると似ている様で違うわね。一度目は伯爵の娘に殺されて、2回目は婚約者?でもコイツは他では、出て来ない。3回と4回目は王太子絡み。ほぼ王太子だけどね。そして4回目は助けた騎士が、夢としてだけど、3回目を覚えている。」
私は首を縦にブンブンと振った。口の中にはアテナが焼いた柔らかいパンがあり、時間を掛けて咀嚼している。今迄殆ど食べ物を取っていない私は良く噛まないと胃もたれを起こしてしまう。情け無い。
「今迄、貴女が生き残る事しか視野に入れて居なかったけど、本当は違うんじゃない?貴女の名前を取り返して、貴女が楽しいと思える人生へと繋がる様に持っていく事かもね。生き残ったとしても、名無しは奴隷にしかなれない。伯爵家からは、名前を取り返したら出ていくしかないわ。でも仕事に就けるのは安い賃金で過酷な労働のみ。先が見えないわ。先ずは名前を取り返して、その後何がしたい?」
伯爵家を出て何がしたいかなんて考えた事なかった。
名前を取り返したら伯爵家には居られないなんて考えてもいなかったし。
でも食事作るのは楽しいな。お茶も美味しく淹れられる様になったし。
「食事を作ったり、お茶を淹れたり、人と話しがしたい。」
「カフェかな?庶民なら入り易いから話しもし易いよね。カフェかぁ。良いね。じゃあカフェの場所や何を提供するか考えないとね。名前を取り返したら直ぐに逃げられる様に。そうすると時間が足りないわね。資金は…貴女ジェシカの着ないドレスを持って来なさい。ドレスはオーダーメイドやオートクチュールでも高く売れるから。どうせ1回位しか着てないんでしょ。数枚売れば中古の家が買えるわ」
えっ?泥棒するの?一度考えた事あるけど。売ってお金に換えようとしたけど。それはヤバいのでは?
「あのね。貴女はタダで今仕事をして居るけど、本来はあり得ないのよ。仕事は自分の時間を売ってお金に換えて生活しているのよ。だから退職金を前払いで、給金を纏めて後払いて頂くだけよ。正当な等価交換です。奴らにお金が無いなら、換金出来るもので支払うのは世界の常識ですよ。」
言われてみたらそうかも知れない。メイドの皆さんも伯爵のカフスやジェシカ様とエメラディア様のイヤリングやネックレスで使っていない解らない程度の物を持って逃げていた。世の中そう言う仕組みになっていたのか。私はコクコクと頷いた。
ジェシカ様のドレスは王宮で夜会や舞踏会がある度に新調していたしジェシカ様はクローゼットを見もしないから解らない。
「名前を取り返す方法は任せて。後は、出来れば貴女が助けた騎士に会いたいわね。強力な助っ人になる筈よ。うーん。それは追々考えよう。先ずはドレスよ。」
翌日からアテナの家へ行く前に転移魔法でジェシカ様の部屋へ行き着て居ないドレスを転移魔法を使ってアテナの家へ持って行った。魔法の痕跡を残さずの移動はちょっと身体が疲れた。
アテナは着実にお金に換えて、小さなお店と自宅がが一緒の家を王都の隣街に購入してくれた。
伝手を辿って年老いた老夫婦が営んでいた食堂兼自宅をご主人が身体を悪くした事で通院が余儀なくされ、王都の娘夫婦の所へ移り住むと言うので、破格で譲り受けたらしい。家の購入後は私物を移動したり、調理器具や食器を購入したりで気が付くと7月10日だった。
「騎士の事は大丈夫よ。後は明日前倒しで湖を浄化して来てね。但し、私が提案した魔法を掛ける事を忘れないで。明後日一度顔を見せに来なさいね。」
翌日湖へ行き浄化を行った。
人差し指を目の位置迄掲げて、ヒールを唱える。指先が白く光るそのまま湖面に触れると湖面は光り出して綺麗に輝き始めた。続けて呪文を唱える
「心清き者には癒しを。心醜き者には罰を。過去に人を殺めた者には、苦痛を与えよ。」
湖面はまた波立つ様に光りが広がり消えた。名無しは周りを見回して誰も見て居ないかを確認してから走り帰った。
ただ一人木に隠れていた人物には全く気が付かなかった。
「何だ今のは?」
後ろに控えていた者達も誰も答えなかった。男は湖に近寄って水を手で掬いあげようとしたが、後ろに控えていた者達に止められた。先程の様子を見る限り湖に何かをしたのは明らかだった。一人の腹心の様な男が水を掬い飲むと身体が光り輝き何がフワッと身体が出て楽になった。
「ギルバート殿下これは聖水だと思います。」
男は振り返り報告した。ギルバートはこの国の王太子。
「聖水?それは可笑しいな。聖女は伯爵家の娘だと聞いている。」
「いえ、噂では伯爵令嬢は土地を浄化する際には必ず汚らしい身なりの者を連れているとも聞いております。」
王太子は、拳を顎に乗せて湖を見つめた。
「本来の聖女はあの見窄らしい者で、伯爵令嬢は嘘を付いているのか?と、言う事は伯爵家の使用人か。不可侵の森へ偶然にも入る事が出来て、聖水も手に入れられたのは、奇跡としか言いようが無いな。」
着いて来た者達は湖の水を飲み出した。一度光り輝き皆んなが明るい顔になる。王太子以外は全員が水を飲んだ。そして森から出て小競り合い中の国境へ向かった。
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