突飛な要求
まだ慣れない目を眇めながら、相手を確認した。
エドが飛ばしてくれた場所を何故この人が解ったのか。疑問が残る。この歳まで色々な人を見てきた。その中で、どうしたってこんな怪しい助け方をする人を信用出来る訳が無い。
彼は箱から出る様に私の方へと手を差し出して来た。
怪しい手を取る事は出来ない。絶対に。自力で腰を上げて屈みながら箱から出た。
「あれ?手を取ってくれると思ったのに。」
差し出した手を自分の頭に持っていき髪を撫で始めた。
「私、オムレット屋さんの事良く知らないし。いきなり箱から出してくれても…。なんで私が箱に入っていたのかも知らないのに、可笑しいじゃない。そんな人の手何か取れないわよ。」
周りを見渡すと、部屋の中だった。考えてみたら夜なのに、明るい事自体が可笑しかった。エドは何処に飛ばす気だったんだろう。エドがこの人の所へ飛ばす筈が無い。だとすると、お母さんが待つアパートか、精霊王の森が座標だったんじゃない?それを歪めて此処へ連れて来られた?
この人思いっきり怪しいじゃない。だから、精霊王もエドも警戒したんだ。
決して安くはないであろう。アクセサリーを寄越してまで。
「エディ!」
エドの声と共に後ろへ引き寄せられた。
「おや。この前の人だね。」
エドは強く抱きしめて、オムレット屋さんを睨んでいる。
「どうやった?お前は誰だ?」
いつも聞く優しく少し高めの声とは真逆の低い怒気を孕んだ声に身震いした。
「あっ。そうだね。自己紹介がまだだったよ。ごめんね。僕はグレッドだよ。」
「お名前家名がありませんよ。グレッド・ステファン・フォン・アタナスタ殿下。」
殿下?家名に国名が来るから、隣国のアタナスタ国の王子?
「勘弁して欲しいな。僕はお嬢さんと友人になりたくて、名前を伝えたのに。家名言われたら洒落にならないじゃないか。シエル・エドワード・ド・キースライン。魔法省の元副長官殿。」
えっ?エドが魔法省の副長官だった事は、長官が呼び戻しに来て知っていたけど、名前…エドじゃなかったんだ。
「この状況でエディが何を考えているのか、何となく解るけど、今はそこじゃないからね。エリーゼ様に君を無傷で届けないと、僕減点されちゃうから。」
グレッドが私に手を伸ばそうとして、弾かれた。
「へぇ。此処迄防御魔法を施して、良く耐えているね。その魔石。」
「精霊王達と魔力を込めて作った物だからね。この世に二つと無いよ。貴方には絶対に触らせない。」
あら、何エドカッコいい。緊張感しかないこの場で不謹慎な事を思ってしまった。
「そうなんだ。でもね。これなら、少しは変わるよね。」
カチッと何かを留める音がした。グレッドに掴まれたエドの手首には色とりどりの石が埋め込まれたバングルが嵌まっていた。エドの顔が歪んだ。
「それはね。君の魔力を封じて時間と共に魔力を吸っていく、魔道具だよ。魔力が少ない魔法使いが魔力を分けて貰うのに使ったりするらしいけど、君用にちょっと変えてあるだ。さあエメラディア。彼を解放する条件なんだけどね。僕に食事を作ってくれないかな?」
「食事?」
有無を言わせない様な状況下では作れと命令されている様なものだわ。
「作ってくれたらシエル君のそれを外して二人を返してあげるよ。あっ。実は護衛に食べさせてあげたから沢山作ってくれると有難いな。ほら、護衛って疲れるじゃない?ラルクアン君が一時期そうであった様に。」
ラルクアン様が王太子の護衛に就いた時を思い出した。休みも休息も思う様に取れてはいなかった。
そう!王家はブラック会社だった。今思い出しても何故あんな酷いことが出来るのか理解に苦しむ。
宜しい!ならば彼らが元気になる様な食事を作りましょう!
「作り終えたら、エドを解放して私達を返してくださるんですね。」
「勿論。約束するよ。絶対に違えない。」
「解りました。ある材料で作らせて頂きます。」
高らかに宣言した。エド。少し待っててね。
一緒にアパートへ帰ってご飯一緒に食べようね。
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