お母さん
後ろから誰かが抱きつき、腰に手が回って来た。細く白い綺麗な手だ。自分の荒れた手と見比べてしまった。
「やっと会えたわ。私のエメラディアちゃん。」
背中に頬ずりの感触がする。困惑して相手を見ようと身体を動かすと、相手も動くのでコントの様な動きになる。アテナが私の方に歩いて来て、引き離した。
「エリーが困ってるから離れなさい。エリーゼ。」
振り返り相手を確認すると、私と同じシルバーヘアでアメジストの瞳をした美人が頬を膨らませている。
美人は何をやっても綺麗だわ。
「アテナ。酷いわ。私やっと会えたのに。エメラディアちゃん。ママ助けてあげられなくてごめんね。何回も辛かったね。でも大丈夫よ。これからはママがずっと一緒にいてあげるからね。」
頭をなでながら眼を潤ませている。私の事を育ててくれたメイドさん達が話していたお母さん?
「エリーゼ!」
振り返ると精霊王が立っている。その後にアレクサンダーがやって来た。お前も来たのか!瞬時に睨んでしまった。でも仕方がないと思う。
ただアレクサンダーは、以前とは違って顔を伏せた。その表情は何処か苦しそうな感じで生意気な感じでは無い。
「お父様…あら、アレクサンダー。」
アレクサンダーを見る目には若干の怒りを感じる。
「アレクサンダー。母は悲しいわ。妹を虐めるなんて!」
「お母様違うんです!」
「違わないわよ!私知っているのよ。ずっと皆んなを見ていたんだから!途中からはエメラディアちゃんが心配でエメラディアちゃんだけを見ていたわ。」
アレクサンダーは下唇を噛んだ。言い訳も聞いて貰えないんだ。
「エリーゼ。まだ目覚めたばかりだから、一度帰ってから出直そうか。さあ。」
精霊王が手を差し出すと、お母さんはその手を弾き落とした。精霊王は弾かれた手を見詰めている。
驚いたんだろうな。そんな事されるなんて思わなかったんだろう。
「お父様なんか大嫌いよ。私とエメラディアちゃんを離そうとするなんて!私はもうエメラディアちゃんから離れません!」
この人駄々っ子だわ。お嬢様の典型的な人だわ。
「私アパート住まいだし、ここもファボさんのお店だし…困ります。」
精霊王は、チャンスとばかりにアレクサンダーの肩を持って前に出す。
「お前の子供はアレクサンダーも同じだろう。アレクサンダーとも話しをしてあげてはどうだろう。だから今日は帰ろう。な?」
刺激しない様に諭す様に様子を伺いながら話す精霊王に若干引いてしまった。威厳は何処?
「だって!アレクは皆んなが可愛い。可愛いとチヤホヤして、眠る私にも毎日会っていたじゃない。でも、エメラディアちゃんは、ずっと1人で奴隷扱いされていたのよ!」
「それもお前の見る目の無さのせいたがな。」
精霊王の呟きもお母さんは全く聞いて居ない。
でも、そもそも伯爵なんか選んだお母さんが元凶では無いのだろうか?とは私も思う。
「エメラディアちゃん嬉しい?ママがこれからはありずっと一緒よ。」
微笑むお母さんから視線をアテナに移して助けを求める。アテナは溜息を吐いて、お母さんの肩に手を置いて
「エメラディアが困惑しているから、考える時間をあげたら?その間に精霊王とアレクとま話しをしたら?」
「アテナは、ずっとエメラディアちゃんと一緒に居たのよね?酷いわ。助けてくれたのは嬉しいけど、私だって子供の成長見たかったわ!」
「ずっと側に幽体で着いていたなら見ていたんでしょ?私は一時じゃ無い。誰かさんの術のフォロー要員。」
アテナは自分を指差して、1号と言い、ラルクアン様を指差して2号と言った。
お母さんはまた頬を膨らませた。
「触ってないモン!」
自分の親が、『モン!』はちょっとキツイ。
貴女は幾つですか?
問いたくなってしまう。
全く帰るつもりがないお母さんに
「お母さんが私のアパートに泊まるなら、まだ身体が完全では無いお母さんがベッドを使う事になります。そうすると、私は床若しくはソファで寝るしかありません。お母さん…今日は……ベッドで寝たいです。」
その言葉に思案したお母さんは俯いて、考えてから私に視線を戻して
「解ったわ。今日は仕方がないから行くけど、明日は準備して帰ってくるからね。」
頬を優しく撫でて来た。その後寂しそうに精霊王達と帰って行ったが、お母さんは気になるフレーズを落とした事が残った。
明日は準備して来るからね。
アテナを見ると、首をゆっくりと左右に振っている。
嫌な予感しかしない。
「えっと…何も出来なくてごめんね。」
ずっと黙って見ていたラルクアン様が、ボソリと呟いた。
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