偽聖女
昨日ファボさんとシーナさんの赤ちゃんが生まれた。
だからファボさんは今日はシーナさんと赤ちゃんの側に居る為にお休み。お店はファボさんのレシピを見て、私が代理で作っている。常連さん達は解っているから通ってくれている。
昼の営業時間が終わりお店を閉める準備を始めると、カヌアさん達常連さんが手伝ってくれる。
申し訳ないので、飲み物をサービスで出す準備をしていると、名無しの偽聖女様がやって来た。
テーブルに私が作ったレモネードソーダを置いておいたら、皆んなが席に着く前に全て空にしてしまった。
炭酸を3つも一気に飲んだの?
そこに驚いた。看板を片付けたり、食器を洗ってくれたりして終わったカヌアさん達がテーブルに戻って来て驚いた。
「何であんたが此処にいるのよ。あっ!エディちゃんが作ってくれたレモネードソーダ飲んじゃったの?何してくれてんのよ!偽物!」
「偽物じゃないわよ!私は聖女なんだから。」
胸に手を当てて堂々と胸を張る。名無しさんは威厳だけは凄い。
「だったらその聖女の力で自分の爛れた口元を治したらどうだい?せ・い・じょ・さ・ま」
「今は力が使えないのよ。名無しにされたせいで。名前が戻ればこんなのはあっと言う間に治るわよ。」
カヌアさん達は胡乱な目を向ける。私でも名前が無くても
力があるなら今でも治せるのでは?
と思ってしまうから、皆さんもそう思っているんだろう。
「申し訳ない。少し尋ねたいのだが。」
ドアを開けて騎士らしき服装の男性が覗き込んで来た。何故か私は2、3歩後退してしまった。それを見たカヌアさんが、前に出て話しを聞きに行ってくれた。
「今ここの店主は奥さんが出産で留守なんだよ。店は最近入った娘さんが、回してくれてるってるから、解る事は少ないと思うよ。私らで良ければ話し聞くけど。」
「あの娘さんの名前はなんて言うんだい?」
えっ?私?何で私?記憶無くす前の私何かやらかしたのかな?嫌な汗が背中を伝い、寒気がする。カヌアさんは私をチラッと見ると
「エディちゃんだよ。ただ彼女はここに来る迄の記憶は無いよ。だから何か彼女がやらかしていたとしても解らないよ。」
カヌアさんの言葉に震えが出て来た。だって私は記憶が無くなる前に犯罪を犯していたかも知れないって事だから。
「いや違うんだ。悪い事をした訳じゃないんだ。王太子が探している女性が居るんだ。結婚相手に望んでいる方なんだが、突然居なくなってしまって。国境で兵士が見かけたらしいんだが。足取りが消えてしまって。最近この町に現れた女性を探して居るんだ。」
全員が名無し偽聖女を見た。どうやら彼女も最近この辺りに流れ着いたらしい。本人が、王太子の相手だって公言していたしね。これは申告すべき事だと思うわ。カヌアさん達も偽聖女を見た。
「あの娘が最近この町に来た子で…本人曰く王太子の婚約者らしいけど。違うのかい?」
騎士は、失礼します。と入って来た。偽聖女の前に行くと髪で隠している顔を覗き込んで悲鳴をあげた。
その悲鳴を聞いた外で待機していた兵士と騎士が入って来た。
ガタイが良いから、お店の中狭くなるわね。
「こいつは伯爵家の名無しじゃないか!何で此処にいるんだ!牢に入れたんじゃないのか!」
あっ。彼女は牢屋案件の人なんだ。何をしたんだろう?兵士と騎士達は丸くなって話し合いを始めた。聞こえるワードは
王太子が来た時ヤバイ
王太子がキレる
なんで野放しなんだ
本当に貴女何したの?
「何?やっと迎えに来たの?遅かったじゃないの。王太子は何方?」
胸を張り口元に手を添えて大仰な物言いに騎士も兵士も呆れた顔を向ける。
多分…迎えは迎えでも、お城じゃなくて牢屋じゃね?
兵士達が彼女の前に出ると、スルスルと縄で縛り上げた。彼女は縛られて少ししてから
「何をしているのよ!」
と叫んだ。気がつくのおっそ。
鈍くない?
そのまま喚く彼女を兵士達が連れて行った。
「残る貴女には王太子に会って頂きたいのですが。」
「嫌です。お断りします。記憶が無くても、私は身の程を知って居ますし、何より恩人であるファボさんやシーナさんが大変な時に離れる事は出来ません。大体私じゃないと思っいますよ。しっかり調べて他を当たって下さい。お店閉めますから。さようなら。」
と押してお店から追出した。
カヌアさん達は
「やっぱりあの女はヤバイ奴だったのね。被害が増える前にしょっ引かれて良かったよね。」
と偽聖女の話題に釘付けだった。
彼女が空にしたグラスを片して、また新しいレモネードソーダを皆んなに振る舞って、偽聖女の話しに花を咲かせた。
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