認識阻害
私は今、国境にあるサイノスと言う町にいる。
本当はこの国から逃げて、隣国アタナスタへ行こうとした。
国境警備兵の検問を躱し隣国へと踏み込もうと一歩、歩み出したら見えない壁に弾かれた。何度やっても私だけが壁に弾かれる。警備兵にはゲラゲラと笑われた。
「嬢ちゃん。大道芸人か何かか?上手いがこちとら仕事だからよ。他の人の邪魔しちゃダメだよ。大道芸をやりたかったら広場へ行きな。」
いや、いや、私も通りたいんですよ!
何これ?誰かに邪魔されてんの?
仕方なく、町に戻り宿屋を借りて3日過ごした。今後を考えながら。
3日いると女将さんとも仲良くなり、食後に話しをする様になった。仕事を探している話しをすると、市場の中にある食堂を営んでいる若夫婦の奥さんが出産を控えて、人を探していた。と聞き向かった。
流石に見た目そのままはバレてしまう。認識阻害の魔法は魔法の痕跡や魔法式でバレてしまうので、使えない。宿屋で、誰かが
「バレない様にするのには、記憶封印魔法を使うと自分の隠したい記憶を隠せるから便利だ。拷問も躱せる。でも、解除用の言葉を用意して置く必要もある。」
と話していた。拷問と言う怪しい文言があるのだから、多分疾しいお仕事の方ではあると思うが、逃げたい私も対して代わりは無い。
宿屋で自分の姿形を変える。
髪は黒、瞳はアメジスト。
その上に認識阻害の魔法を施す。
あー名前どうしようかな。流石にエリーは無理だ。
エメラディアなんか以ての外。使われている名前の文字なら使える。
エメ?エディ?エア?
エディ。よし!エディにしよう!
宿屋を出て直ぐに認識阻害の魔法を解除する。
名前は忘れない様にして、あとはこれから向かう食堂も忘れない様に。出身地や家族は封印しよう。裏通りに逃げ込み自分に封印魔法を施す。解除用の言葉も忘れずに。そこに封印を強くするNGワードを織り込む
花嫁
王太子
精霊王
家族
アレクサンダー
ディアナ
エメラディア
魔法痕跡も辿れない様に三重に阻害を施す。
私は家族や出身地を忘れてしまったエディと言う女の子になった。
食堂に行き、仕事を探している事を告げると、歓迎された。その晩から働かせて貰った。
食堂を営む若夫婦の名前はご主人がファボさんで奥さんかシーナさん。ファボさんは焦茶色の髪にトパーズの様な黄色い瞳で明るいお人好しな感じの人。奥さんのシーナさんはピンクゴールドの髪に藍色の様な深いネイビーの瞳で可愛らしい外見と同じくおっとりとした愛らしい人だった。
家が解らないので、ご夫婦の知人が経営しているアパートに入れて貰えた。クローゼットと机とベッドが置いてある一間で、バス、トイレは共同。
歩いて直ぐの場所なので助かる。
朝は、薄暗い内から食堂へ行き掃除をして、分かる範囲の仕込みをした。玉葱の皮剥き等簡単な事だけど、ファボさんは大袈裟な位に喜んでくれた。
仕事にも慣れて来て、2ヶ月程経つと簡単なメニューも作る様になった。シーナさんが臨月でそろそろ赤ちゃんが産まれる。ファボさん達には初めてのお子さんだから、出産の時には側に居てあげられる様に教わっていた。私はどうも料理が好きだったらしい。
作る事が楽しくて仕方がない。
今日はやたらと店が混んでいる。何かと思って常連さんのカヌアさんに聞いたら
「王都から王太子が、探し物に来るらしいよ。花嫁候補かね?それとも重罪人かね?」
カヌアさんの言葉に皆んなが、ザワザワし始めた。
入り口に立っていた人が声高に叫んだ。
「王太子は聖女である私を探しに来たのよ。」
髪はボサボサで俯き顔を隠している。彼女は聖女様なのね。と見ていると、
「貴女に祝福をあげましょうか?」
と私に近寄って来た。キッチンに居たファボさんが飛んで出て来て、帰る様に促した。ファボさんにしては珍しい。と見ていたらカヌアさんが、
「あれは偽聖女で本物を虐めて殺そうとした悪女だよ。人様の名前を盗んで生活していたんだよ。だから今は名無しだし、前にシーナちゃんが妊娠していると聞いて、広場で突き飛ばしたんだよ。性格悪いったらありゃしない。」
だからファボさんは追い返したんだ。
余り関わりたくない人だ。
そしてその夜はお店は忙しかった。
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