“敦之”の知らぬ間に。
「は?」
「は?じゃないよ。“和希”だよ。聞いて無いのか?」
佐木 隼人は、美津原 敦之にそう言った。“和希”が『結婚』するんだってさ。
と。
× × ×
或る居酒屋の席だった。テーブルには三人の若者。佐木 隼人、その前に美津原 敦之、それともう一人、敦之が座ろうとした席の横に、伊島 則斉と人物が居た。
伊島は敦之達の高校の同級生だった男だ。和希や“友”とも面識があったが、彼はそのふたりとの交流は余りなかった。卒業してから偶然敦之と同じ店で飲食していて、彼が声を掛けた事で現在偶に連絡して“飲む”間柄になったのだ。其処にその内隼人も加わって、偶に三人で飲むという間柄に為った訳だった。
隼人は最近迄“海外エリア”に修行に出ていた“料理人”だった。ーーが、今彼は“転職”を考えている。故に今仕事は“短期”の仕事ばかりをしていた。つまり“臨時”スタッフの仕事だ。
今は本格的に転職すべく、“思案”中らしい。最近度々敦之に相談していたのだった。今日も“その話”で待ち合わせたのだが、其処へ伊島から連絡が来た。『今日会えないかな?』と。
隼人と約束してあると告げたら“自分も一緒に駄目か?”と言われた訳だ。仕方無いので敦之はそれをそのまま隼人に聞き、今に至る訳である。
そしてーーーー“冒頭”に戻る。ので在った。
× × ×
店の扉の開く音の次に、店員の“らっしゃいませっ”と言った感じの掛け声が聴こえて来たが、敦之は特に気にはしなかった。此の席からは『入口』は見えなかったのでーーだ。
× × ×
美津原 敦之は落ち込んでいた。まさか、“和希”に先を越されるとは考えてはいなかったので在る。親友“隼”に先を越されるより実際ずっと“ショック”であった。ーーーー
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横で何故か、“伊島 則斉”が溜息を吐いたのは“そんな時”だった。
× × ×
そして溜息を吐いたかと思うと、何故か伊島は立ち上がった。
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『?』敦之は其の彼の“行動”を、訝しんだ。手洗いなら先程行ったばかりだから、違うだろうと。
『ちょっと』と言った彼は、敦之の質問も軽く流して、ふらふらと歩き出した。訝しんだ敦之は隼人とも顔を見合わせた。今日“聞いて欲しい事がある。ーー”と言った伊島はその話には触れてはいなかった。促したが言葉を濁したのだった。そして今で在る。やはり不可思議に思った敦之はもう一度隼の顔を見てから、席から立ち上がったのだが。
時間にして五分も経たないその時に、騒ぎは起きたのだった。そして流石に隼人も立ち上がった。
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が、ーーーー席から立ち“様子”を見た時には既に“遅かった”訳だ。渦中には伊島 則斉が居たのだった。隼人と敦之は其の“光景”を見て、再び顔を見合わせる羽目となったのだ。×××××××××××
『彩城 友美』確かーーそんな名前だった筈だ。以前一度だけ“偶然”会った事がある“女”が、其処にはいたのだった。見知らぬ男に、庇われて。
“伊島”から。××××××××××××××××××××××××
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「ーーーーっうわちょっと、」
と、其処へ知った顔が来たので在った。『大丈夫?』と彼女へ聞いた男は、“ジャンピング・スモール・スモール”の、『滝 蓮』だった訳だ。
目を剥いて見た敦之と隼人には気付かずに、彼女は蓮へと小さな其の声で大丈夫だとそう言った。動揺しながらも。
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誤解無き様に、説明するならば、『友美』は『蓮』と『二人』だった訳では無かった。正確には彼女は“ひとり”だった。“お一人様”で在る。しかし、其処に後から、“彼等”が来た訳で。
目聡く“お一人様”友美を見付け、“誘った”のだった。“一緒しませんか?”と。
それで“友美”は、和希に頷いたので在った。和希の後ろに、“ジャンピング・スモール・スモール”の『メンバー』が一緒だったのだ。和希と『ふたりきり』なら断った友美だが、友人と一緒な様だと、思い、了承した。
何故和希とふたりきりは“不味い”のか。ーーーー橋本 和希には、昔から良く“ガチ”の“ファン”ーーーー俗に言う“ストーカー”が付いて居る時が在る。
勘違いされてガチファンから“嫌がらせ”された過去の在る彼女ーーーー友美は、和希とふたりきりは怖かった訳だ。
以来“気を付けて”いた訳だ。だがーーーー和希の方から言わせると、彼女は“自分の”事には、ーーーー。
疎かった。手洗いに立った彼女はその短い間で、“ファン”を得ていた。ーーーー。其れは。
酔っ払った傷心者、伊島 則斉、“其の人”で在った。
敦之達へ“失恋傷心話”をしようと今日来た伊島だったのだが、先に和希の結婚話が出てしまい、言い出しそびれた。更に隼人に敦之は“破談”話を始めたのだった。“先に言っとく”と言った敦之が話し始めて。ーーーーーー。そして何も言えなくなった。ーーーーーー。
其の言えない空気の中で酒だけ進んだ。
そして手洗いに立った先で伊島 則斉は『とても好みの女性ーーーー』を見付けてしまったので在った。それは。
ーーーー失恋の“傷心”を、『忘れて』しまう程の最早、『“衝撃”』で在ったーーーー。
小作りな顔立ち。細い首。華奢な肩。美しいデコルテ。すらりとした長い腕。細身の四肢。真っ直ぐな艶めく髪が肩の辺りで揺れた。酔った鼻に甘い香りがした様な気がした。それは気のせいでもなかった。彼女は昼間“菓子”を焼いていた。其の残り香だった。和希と連れの男にも指摘されたばかりで在った。“バニラ”ぽい香りがするーーーーと。
焼菓子の香料が髪や服へと移っていたので在った。
『其の香りでーーーー居酒屋ーーーー』と、ジャンピング・スモール・スモールの“面々”にも苦笑いされた。其のジャン・スモの皆さんは『掃き溜めに鶴がいるーーーー』と思ったのだったが、勿論言う訳は無かった。
“美人”を眺めながらの“酒”は、不味くないーーーー。
“黙っていれば”等という“余計な一言”も勿論言わない。“眺める分には”美人等とは。
其処は当然で在る。
そして。
× × ×
隼人と敦之の“知らない”男は言ったのだ。
“お前最低な『奴』だな”とーーーー殺意すら得る“眼”で。
勿論。“伊島 則斉”へと。
× × ×
勿論見ていた者達“誰”も、異論や意義を唱える事はなかった。店員が直ぐ来て“事態”は収束したが、周囲は思った。
何なら“自分”が助けたかったーーーーーーと。
“間に合わなかった”様だ。“見ていた者達”ーーーーーーは。
伊島は急に彼女の“肩”を背後から掴んだかと思うと彼女が振り返るのも待たずに抱き着いたので在った。
× × ×
彼女は“席”へ戻る“途中”で在った。手洗いの帰りだった。つまり。
× × ×
伊島は手洗いから“戻る”際に手洗いに“来た”彩城 友美とすれ違っていた訳だ。その時に手洗いの中へ入って行った彼女に見惚れたのだ。ぼお〜とするまま席へは戻った。が、
其の“席”の横を彼女はもう一度通った。『二度目は運命ーーーー』
そんな“フレーズ”が彼の頭の中で流れた。それは皮肉にも『滝 蓮』のソロデビューシングルの“ワンフレーズ”で在った。
此の場合は“運命”ではなく、店内通路は『一本道』故に『必然』だろうが。
伊島は“酔って”いた。だから其処までの事を考えていた訳では無かった。
単に先程の美人に気付いて追い掛けて、肩を掴んで。そして抱き着いた『だけ』だった。抱き着いたのは引き留めたくてそうした。“酔っ払い”とは“怖い”ものだ。思考が狭まる。
× × ×
『好きっ!(※です)』と言う前に、事態に迅速に気付いた“和希の連れの男”が片付けたーーーー訳だが。此の“男”は酔っ払いが『嫌い』で在った。
酒は好きなのだが。
此の“日”は“そんな夜”で在った。××××××××××××××××××
× × ×
「ごめんなさいっ」
と言ったのは少しだけ酔い醒めた勿論伊島 則斉ーーーー其の男で在った。横で溜息の“後”の橋本 和希は言った。“伊島君”ーーーーと。
“次、友美さんに無断で触ったら”ーーーー「命危ないよーーーー」と。
其の横の滝 蓮は、「橋本“君”は“物騒”だね。」と言ったが、和希は否定した。
“僕が”じゃ『無い』よーーーーと。
気に成る言い方だったが、美津原 敦之はそんな橋本 和希へ言った。“そういえば”と。ーーーー、
「“和希”、おまえ、“結婚”すんの?」と。
そんな時だったが、此の“橋本 和希”の携帯電話にはその時“色々”と“指令”やら報告やらが。ーーーー。届いていたので在った。それから、
“和希さまは何時頃帰って来てくださるのですか?”ーーと言う“メッセージ”迄も。
“異世界姫”から。ーーーー。勿論だ。
敦之は全く知らないが、橋本 和希は“別の世界”から来た“友人”や“姫”と、“メッセージ”していたので在った。使い方は勿論和希が“教え”た。
“陽藍”に言われてーーーーだったが。
中々骨折れる作業だったのを、敦之どころか“ジャン・スモ”の“面々”も未だ“知らない”が。
そんなーーーー訳で。
ーーーーーーーーーー。
謝った“伊島”は泣き出したので在った。一同ぎょっとする“中”で。
“堂々”と。
声をあげて、彼は泣き出したのだ。×××××××××××××××××××××
美津原 “敦之”は、思った。“どうした?”と。其の“飲み友”を。ーーーーーーーーーー。
そして“その”夜は更けたのだ。




