『高級超有名焼洋菓子専門店』、〜“成芳堂”。
『華月さま』と、店員の女性が上品にほほ笑んだ。うっとりと。
視線の先に、陸を捉えて。
スカウトの男は、息を切らしながらも『彼』を見た。呼吸を忘れた。停まった様な時間の中で、ーー息を呑んだ。『美形』の上は、ーーなんというのだろう?と。
夢の様な『男』に出逢ったーーーー横に『芸能人』が立っていた事には、ーー気付かなかった。滝はそれに気付いた。
××××××××××××××××
「駄目ですね。」
スカウトマンは果敢にも、陸へと挑んだ。そして今敗北した。諦めきれない瞳が、彼を見た。
「………………………駄目ですか?」と。
「駄目ですね。」
陸はもう一度言ったのだった。
「巧、やっぱり『此れ』も買って?」 「どれ?」
「海、いい加減にしろよ。又今度にしろ。巧、駄目だぞ。」
空気を読まない海が言ったが、陸に駄目出しされていた。
「違うの、陸兄ちゃん。此れ『限定』だからね?」
「違わない駄目だ。『今度』にしろ。食べ切れないだろ。それの『期限』は短めなんだ。」
「海、ーー『限定』今月いっぱいだから、又今度買ってやるから。な?」
陸を切れさせたくない、巧は、意外に真剣だった。
「うう……巧と陸兄ちゃんが、『お父さん』みたいだ。…………わかった。」
最近3ミリ程度『大人』に為った『元』末っ子は、渋々納得ーーーーーーしたらしかった。
友人達は眺めながら思った。『既に万単位買ったのに、未だ欲しいの?海君ーー』と。
実際。『外野』が『居なければ』ーー海は買って『貰えた』のだが、陸は誰にも悟られぬ様に、『外野』を視界から外したのだった。
『いらっしゃいませ』と店員が来客を知らせたのは、その時だった。
+ + +
「おっ」 「木ノ下。」 「お〜なつのちゃ〜ん」 「と、おじさん。」
「&紺ちゃん。え?紺ちゃん??」
「何〜?」
「おまえら。俺は『ついで』か?」
《ラスボス》みたいなレベルの《美形》が、そう言った。陸を説得していた男は、茫然とするしかなかった。
『ーー何が起きてるのーー???』と。
陽藍に言わせれば『菓子』の『購入』に来店しただけだ。×××××××××××××××××
気が付いた陽藍に、『何やってんだ?滝?』と問われて、彼は「ーー買い物ですーー」と、答えたのだった。
誰も注目もしていない中で。
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「無理ですね。」
と、華月 陽藍はスカウトの男へとほほ笑んだ。『営業』用の、笑顔で。
「………………高校生の………………息子さんだけでも………………どうか。本当に。…………お願いします。」
しかし、父親は断った。『申し訳無い』と。
「家の息子は既に『所属』タレントでして。」
と。
「ーーーーーーーーーーーー。?。ーーーーーーーーはい?」
スカウトマンは、リアクション出来なかった。そして、
「ーー言わなかったのか?お前達は。」
父親は言った。息子達は答えた。「え、うん。」 「言うと大概余計しつこいって、気が付いた。」
「巧………………、海。多分それは『言い方』だな。」
呆れた兄陸の言葉に、弟ふたりは仲良くハモった。『そうなの?』と。
丁度店員が陸の注文の品を、持って来たのだった。人気商品が『売切れ』だったので、大の『お得意様』陸の為にと態々焼いてくれたのだった。明日の材料分、前倒しで。陸は勿論遠慮したのだが、理に半泣きされて渋々お願いする羽目と為った。
丁度裏で『明日の分』の仕込みが始まっていたので、後は焼くだけだからと『もうすぐ焼けるから』と。クッキーならば冷まさぬと型崩れしてしまうが、クッキーは未だ在庫が在った。が、海の大好物『マフィン』『パウンドケーキ』『マドレーヌ』と、軒並み売切れだったのだ。
海の落胆振りが酷過ぎて、店員が慌てて裏へと走るに至った。直ぐに店主が出て来て対応と成った。そもそも陸が『いた』理由だが。
巧と一緒だった。先日『ディナー』に海を連れて行けなかったので、海の好物『成芳堂』の〜焼菓子〜シリーズを届けようと思ったのだ。予約しようと思った陸だが、仕事が多忙過ぎて、機を逃した。
巧の方は『油断』だった。真逆『売切れ』が『軒並み』だとは予想していなかった。又、今日は巧も『急遽』だった為に、予約し損ねた。本当は今日、実家に顔を出すつもりは無かった。週末ゆっくりと行くつもりだった。予定を変えたのは、来週から海は『テスト』期間だと気付いたからだ。テスト前の週末では、海は勉強漬けだろうから、『お菓子食べさせてる』場合ではないなーーと。餌付と言う無かれ。餌付ではある。思う程、懐かないが。
巧と口も聞かなかった頃を思えば、何でも無い。巧はそう思うが、滝はそんな事は勿論知らなかった。だから思う。
もう大学生の『兄』とは、巧程にもう『高校生』の弟をーーーー『甘やかす』ものなのか?ーーーーーーと。
陸と巧が『我慢』させた理由が『これ』だった。彼等は『視線』に気付いていたのだ。
海も気付いたが、気にしなかった。
+ + +
「お父さん此れーー」
海は駄目元で言ってみた。
× × ×
「おっ、海、それ『限定』じゃん。お父さん『僕』食べたい。」
紺が言った。陽藍は答えた。『何箱迄』、
「制限あるの?」と。
× + ×
「はい、なつのん家の分な。お父さんお母さんによろしくな。」
「じゃ〜ね、なつの。またね。」
「はい!おじさま有難う御座ます!紺ちゃん、うん、またね。」
陽藍は、『木ノ下なつの』を送り届けた。彼女は『訳あり』だった。
元は海の『同級生』なのだが、今の『姿』は、丁度『中学生』位だった。
紺が原因だった。紺のミスーー失敗で、なつのは此の状態だった。が、なつのは紺を恨んだり等は、しなかった。紺は『別の星』の生まれだ。と或る『理由』から、ふらふらと此の『星』に、やって来た。行き場無く行き倒れ寸前に、なつのが助けたのだ。紺を『拾って』、飼い始めたーー。
最もなつのは『迷子の犬』だと思ったのだが、拾ってから『狐だな……』と、獣医に言われて気付いたのだ。『狐なの?!』と。しかし飼った。可愛がった。紺も幸せだった。
『事件』が起きるまでは。その後『解決』されたそれは、ーー今に至る。謎解きは陸がした。
そして紺は、華月の『息子』になった。
その話は又『別の話』なのだがーーそんな経緯で木ノ下なつのは、暫くの間だが、『華月家』に居た。『小学生』の姿に『縮んだ』なつのは、両親と当人の希望で華月家に預けられていたのだった。
目的は『成長』ではーー無く、真逆の『海』ーーだった。なつのは海が『好き』なのだ。
紺はそれを知っていた。応援する気満々で在る。願わくばなつの『居候』中に、くっついて欲しかったのだがーーと。
海が鈍過ぎて無理だった。しかも『海』は、人妻、義姉『友理奈』が好きだった。
『海のお馬鹿サン』ーー紺は思ったが、言わなかった。言えた『立場』では無いのだ。だから言わなかった。『滝』にもーー。紺は気付いていた。みていたからだ。
『ベニバナ姫』は、『滝』を『男性』としてーー『意識』していないと。
× × ×
蓮は『成芳堂』の菓子袋を手にしていた。成るべく期限の長めの菓子を、購入した。焼菓子なのである程度の期限があった。『お土産』、『手土産』向きなのだ。蓮はそれ程『甘い物』は好きではなかった。嫌いな訳でも無い。無くても居られる。甘味より酒の方がよい。ーーそれだけだ。
手にした其れに、ベニバナを思い浮かべた。『よろこぶ』だろうと。先日の『食事デート』。
ベニバナの緊張した顔が綻んだのは、デザートの瞬間だった。
滝の予想以上だった。既に苦い『想い出』だった。つい先日の事なのにーーと。
× − +
「お父さん、此の『限定』の奴、一箱『和希』さんにあげても良い?」
帰宅すると海が言った。陽藍は勿論『和希に?』と聞いたのだった。
和希は成芳堂の焼菓子より、『生菓子』の方が『好物』だった筈だがなと。
陸が連れて帰って来ていた、高校生の愛弟子達が、買って貰った菓子達を至極とばかりに頬張っていたので、考えが何故かーー纏まらなかった。
代わりに『…………………、美味いのか?』ーーと聞いておいた。
後日。
姫の『元』へ届いたのは、『成芳堂』の焼菓子の詰合せだった。




