74話 方針転換
軍隊の動きとして、森に無理やり分け入ってくることを想定していた。というのもこの森で軍隊が通れるような道を整備するとなると年単位で作業せねばならず、とてつもない遠大な計画になってしまうからだ。たびたび魔物からの邪魔も入るであろうし、その間の収入はゼロ。軍人達の維持費ばかりがかさむ上に訓練は出来ない。利益どころか無駄ばかり支出がとんでもないことになるのは目に見えているからだ。しかし冒険者達が一グループも戻ってこなかったからなのか、その遠大な計画が通ったみたいだ。そもそも国の明確な場所は分かっていないはずなのだが・・・本気なのだろうか?
わざわざ遠くの方で汗水たらして働いているだけなので、まあこちらから軍事行動に出ることもないだろうということでほとんど俺達は手を出さなかった。唯一手出ししたのが、兵糧。つまり食料だ。地味な森の開拓とはいえ戦争の準備段階。軍人達が働いているため個々で食料を準備するのではなく、軍がとりまとめた食料を配給する形をとっていた。しかも結構な量が次から次へと運び込まれていた。これは今後の軍事活動を見越しての物資ではないかと思われた。
・・・。
普通に考えて、俺達のいるところまで開通する頃には間違いなく腐っていると思うのだが、たぶん上が馬鹿なんだろう。腐らせてしまうのは惜しいと言うことで夜中に全部盗むと言うことを何回かやった。食料が無くなってしまえば普通は撤退するしかないはずなのだが、それでもしばらく休むだけでまた工事が再開されるのだから、どれだけの金をつぎ込んでいるのか大いに不思議であった。
食料以外にもいくつかの障害が彼らに襲い掛かる。
ひとつは当然魔物だ。彼らの領土に大勢で踏み込んできたのだ。それが気に入らない魔物たちは容赦なく襲い掛かっていった。当然のように見張りはいるのだが、それで楽に対処できるほど、この森の魔物は甘くない。魔物のご飯になった軍人も、軍人の獲物になった魔物もいた。双方共、わりと馬鹿にならない被害を出したのではないだろうか。
もうひとつは水だ。この森は一部に大きな川が流れているものの、そうそう近場に川があるわけではない。毎日の水の確保がなかなかの課題だったようだ。もちろん川の近くを工事するという手もあったのだろうが、川の近くはそれこそ強い魔物のナワバリだ。そんな所で堂々と工事を始めたなら他の場所の比ではない襲われ方をするだろう。
そんな様子なので道の敷設をしている兵士達の士気はものすごーく低かった。すぐそばの木の上で寛ぎながら様子を伺っていたのだが、聞こえてくるのは愚痴ばかり。こんな作戦を立てた将軍は死ねだとか、いや作戦参謀の何とかって奴が立てたらしいからあいつが死ねだとか、両方とも死んでしまえとか。まあそんな感じの愚痴を延々と話していた。
うん、まあそうだよね。魔物に怯えながら終わりの見えない道路の敷設。食料は満足じゃないし、水すら絞られることもある。一応水魔法が使える魔法使いが何人かいるのだが、戦闘が主目的で、兵士達に水を配ることなんてない。そのくせ上司はさっさと作業を進めろとか、お前達がだらしないから魔物に殺されるんだという。反乱が起きないだけましなのではって感じだ。
そんな無謀な道路の敷設事業だが、夏に差し掛かり暑くなって来たある日、突然中止となった。ついに諦めて撤退するのかと思いきや、なんと陣地を広げ始めたのだ。調べたところ、無駄金の使いすぎで今回の道路工事を主導していた貴族と将軍が失脚。工事は中止となったが、後任の将軍が陣地をそのまま使って攻め込むことを決定。今までの比ではない大量の軍人を使って一気に攻め込んでしまおうということになったらしい。
そこからの展開は非常に速かった。といっても大規模な軍としては、だが。
帝国のあちらこちらから軍勢が集結するのに2ヶ月。当然その総数が最初の陣地に収まりきるはずもなく、揃ったグループから順次森の奥へ進み始めた。帝国の軍隊に詳しければなんとか伯爵の何とか軍団という名前でも分かるのだろうが、生憎人間は平民の奴隷しかいないし、あとは獣人やらエルフやらで人間の軍団に詳しい者は皆無だ。自慢げにはためかせている旗を見ても紋章がどこのだれだが良く分からないし・・・。めんどくさがらずに人間側の協力者でも作っておくべきだったか。
どこから持ってきたのかというぐらいの物資、食料などを俺達と同じような空間魔法のバッグで管理。それを一つのグループに一つずつ持たせる大盤振る舞い振り。またその一グループに所属する軍人の数がおかしい。数千か、数万か多すぎてよく分からないがとりあえず大量にいる。この世界の軍人の何%かが、一つの森の中に入っているかのようで、数えるのを早々に諦めたほどだ。あまりの人間の数に森の魔物も襲い掛かる物はほとんどおらず早々に撤退。むしろ食料として積極的に狩られる対象となってしまった。おかげで人間に追われた魔物が国のほうまでやってきてこちらに被害を出す始末だ。そんな状態なので軍はほとんど人数を減らすこともなく森を進撃し続けている。
「どうします?」
「どうしますっていったって・・・」
得られる物も大してないというのにここまでの戦力をつぎ込んでくるとは正直想定していなかった。その前の道路事業がどう見てもあほな行いで油断していた感も否めないが、軍事国家の本気を甘く見ていたと言えよう。その工事にだってかなりの金を使い込んでいるというのに、それ以上の軍隊を一気に送り込んでくるなんて思いもしなかった。ここでドラゴンを大量に刈り取ることができれば十分な黒字という判断なのだろうか。それとも俺達が気づかないうちにスパイが潜り込んでいて、その他でも採算が取れる見込みがあるとでも言うのだろうか?
「とりあえずドラゴンが戦えない前提で準備をするしかないんじゃないか?」
「私は!またっ!!」
アイラは自分もまた戦力にならないと言うことが分かってしまっている。ドラゴンが戦えないということは竜人であるアイラもまた戦いには出せないということだからだ。竜殺しが出てくる前であればアイラは戦力として非常に頼りになった。失敗することだってあったけれども二人だけだった時も、人数が増えてからもアイラを頼みにしていた部分は多い。
しかし竜殺しが身近になってしまったため、大事にはお留守番ということがほとんどになってしまった。今回の戦いだって新型で捕らえられてしまうことを考えるととてもじゃないが怖くて出せない。解決策自体は簡単だ。今より呪い耐性をあげるだけ。ただ完全耐性を得ようと思ったら時間がどうしてもかかってしまう。それと俺がまったく行動できなくなってしまうため、集中してレベル上げをする暇がなかった。
だが、今回はさすがにアイラの力も借りないと追い返せないだろう。ここはひとつ、アイラの耐性を完璧にしてみるか!




