72話 戦争への備え
無事救助を終えてゴルラド達と共に国へ帰る。朝と言っていい時間には救助を終え、昼過ぎには到着できた。我ながらなかなかのスピード解決だったであろう。
今回の事で捕まった連中の家族は、祈るようにして帰りを待っていたそうだ。自分達の意思で勝手に戦争をしに行ったのだからどんな目にあおうと本人達の自業自得だが、家族の喜びを目の当たりにすると、無事救助できて良かったと思う。今回捕まった3人はほとんど年も同じ若者で、ほとんど怪我をすることもなく帰ってきたのだが、母親の一撃により負傷していた。愛の鞭と言うことで周りの人間は苦笑していた。
本人達を含め、今回の件の当事者達は俺が人間であることに拘泥せず感謝を述べていた。今まで辛く当たったことを詫びると共に、人間憎しの風潮を覆す努力をすると約束してくれた。若干現金な気がしないでもないが、彼らの努力が実を結ぶことを願っておこう。実際に自分達が疎外していた俺に助けられたという事実を、この国の人が全員知っているのだから、今までの村長達の言葉より通りやすくはなるだろう。
ガラには竜殺しを受けた時の詳細と、狂化の首をつけた時の状態をこと細かに報告させた。それによれば、新型竜殺しはやはり呪いを強化した物であったようだ。耐性を得る修行をした時と同じ状態になり、なすすべなく墜落してしまったとのことだ。ここで唯一ガラが頑張った所は、墜落しながらも乗り手が怪我をしないように庇って落ちたと言うところだろう。息子の墜落に動転して、俺を放り出したどっかのあほよりは評価できる所だ(恨み節)。ガラは長老達真面目組のように、耐性スキルが完璧(現状において)にはなっていないという点を踏まえても、やはり新たな脅威となるだろう。
狂化の首輪の方だが、つけられていても自分の意識は残っているそうだ。ただし体はまったく思い通りに動かず、自分達の情報をぺらぺらしゃべるのをなんとか止めようと思ってはいても、何も出来ず、内心で絶望するばかりだったと教えてくれた。物を見て、聞いて、考えることは逆に出来てしまうためその絶望は大きかったようだ。俺に殴りかかるように命令された獣人達も、ガラも、内心で
「(やめろおおおおおお!!死ぬぅぅぅううううう!!!)」
と悲鳴を上げていたそうな。死なずにすんで良かったね!
あの貴族達は意識が残っていることを知っていたのだろう。奴らのしていた下種な提案からそれが伺える。本当に困った権力者達である。
不真面目組は今回の件を受けて俺が全員名前を公表したので、長老達にばっちりしぼられていた。修行の前に物理的にお説教されるというなかなか大変な目にあっていたが、命に比べれば安いものだろう。その後は竜殺しのそばでひたすら耐える訓練になった。こいつらのせいで俺の貴重な時間(暇だった)が浪費されるのだ。前回しっかりと耐性を取得しきってくれていれば二度手間にならなかったものを。刀剣術の修行が捗ってしょうがないぜ!
しばらくかかったが、全員の耐性をレベル6まであげることが出来た。これでひとまず旧型に悩まされることはないだろう。今回のレベル上げの前に長老達がレベル6だったのに対して、一番サボってたやつは3だった。ひどいものである。長時間の苦痛に耐えかねてこっそり修行にこなかったり、効果範囲の外側でやってる振りをしていたらしい。確かに完全に効かなくなる6まであげるにはひたすら苦痛に耐えるしかないので、嫌気がさすのは分かる。だがそれで自分達の命を危険に晒しているんだから、アホだとしか言いようがない。
俺がドラゴン達の修行を手伝っている間に、国の戦争ムードはほとんど収まったそうだ。やはり人間に対する恨みはあるが、平和に暮らしていく方がいいと言う人が多くなったのだ。それとドラゴンの強さも完璧でないと言うことが知れ渡ったと言うのも大きい。彼らはドラゴンの強さをあてにしていたし、頼りきりだった、と言う現実にやっと気づいたようだ。
そのため、戦争ムードは収まったが、防備に対する意識は格段に跳ね上がった。国の周りに大きな堀や城壁を作り、軍隊を正式に組織し、戦闘訓練を始めた。今までは魔物の対処もほとんどドラゴンに出張ってもらうばかりだったのが、自分達で倒そうとし始めた。正直そこまで強くないので苦戦することも多いのだが、そこはうちの連中やドラゴンの一部がサポートに回って自分達で勝てるように頑張っている。ドラゴン達の一部としたのには戦いは出来るが細かいサポートは苦手という奴が一定数いるからだ。ドラゴンに守ってもらうことが前提の国から、自分達で守る国へと転換を開始したのだ。
また俺達に対する認識も徐々に改めてくれるようになった。人間だけど、あんた達は別だ!と彼らによく言われるようになった。この調子で人間族という種族的なくくりではなく、中にはいい奴もいるというのが広まってくれると嬉しい。ただそのためには人間族の宗教の方を先にどうにかしないといけないのだが・・・。
それからしばらく、俺は戦闘訓練の教官のようなことをしている。まず議会からの正式な謝罪と感謝の言葉を貰った。人間のせいなのだからと言っていたおじさんからもしっかりとした謝罪があった。こうして一歩ずつでもしっかりと前に進むのは嬉しいことだ。
それと同時に俺の強さでもって軍隊を鍛えてくれないかという要請があった。俺はこれを快諾し、教官に就任。これにより俺のあだ名が”笑顔の鬼”となった。解せぬ。
メイド達の特訓を思い出してもらえば分かるとおり、俺の訓練は安全第一だ。その証拠に軍隊の訓練でも誰一人として死人を出していない。けが人も普通の軍隊に比べたらはるかに少ないと自負している。その少ないけが人も魔法で回復させるので0と言っていいだろう。これで鬼というあだ名をつけるなんてひどいと思わないだろうか。ちなみにこのあだ名、なぜ発覚したかと言うと俺の称号欄にある日突然載っていた。なんだこの無駄機能。大きなお世話だよ!
眼によるサポートとスキルによる補助・保護をかけて1対1の戦闘訓練に始まり、多対多、多対1などの戦いをばしばしと行った。俺のスキルによって訓練だけでも普通の人間よりはるかに効率よくレベルが上がるし、魔物を狩りに行けばそれもまたよい経験値となった。かなりの人数がいるので定期的に順番に全員を見て、スキルが上がってない奴にはスキル上げを命じるなど、穴のない様に勤めた。
もちろんサボった奴には罰として走り回らせたり、より厳しい訓練を課したりしたが、軍隊である以上当たり前のことだと思う。たまにお腹が痛いと言う奴がいたのでそれも全部魔法で治してやった。泣いて感謝されたよ!不思議なことにしばらくすると腹痛や頭痛を訴えてくる奴がいなくなったんだよね。皆俺のおかげで健康になったのかな?
☆
「訓練で怪我しないって不幸なことだったんだな」
「そうだな。おかげで一日たりとも休めないもんな」
「休息が欲しい。かなりマジデ」
「俺この間魔物の一撃食らって吹っ飛んでさ、これでしばらくのんびりした生活が送れるかと思ったのよ」
「それ普通は永眠じゃね?」
「まあ、その可能性もあったけど」
「それで?」
「そのはずだったんだが、吹っ飛んだ先で教官に引っ張り起こされてさ、さっさと戦いに戻れって言われた訳。あの笑顔で」
「一瞬で治されたって事か?」
「いや、そもそも魔物の攻撃にあわせて障壁をはってくれたらしいよ。後で聞いた。怪我しなかったのはいいんだけど、ぶっ飛ばされた衝撃から立ち直る時間は与えてくれなかったよ」
「こえーもんなぁ。魔物より後ろの教官が」
「あの人怪我とかには優しいんだが、治せちゃうもんだからそのあとが容赦ないんだよね」
「だなぁ。ほら治った。これでまた戦えますね?とかひどすぎるよな」
「俺、あの人がニコッて笑った時は諦めることにしたわ」
怪我も疲労も癒せてしまう故の弊害であった。
次回の投稿はお休みさせていただきます。




