70話 戦いの狼煙
最近の俺はぐーたらした日々を過ごしている。一応戦闘訓練だけは欠かさず毎日行い、レベル上げにもいそしんでいる。長老やイレーネさんとの戦いは非常に効率よく経験値が稼げる上、命の危機も少ないのでとてもありがたい。よけ損ねて死にかけたことがない訳じゃないが、治療手段も豊富にあり、即死以外なら何とかなる環境でレベル上げが出来るのは贅沢だろう。
だがそれ以外は本当にぐーたらしていると言って間違いない。なんせこの間ゴルラドに、
「お主は我らよりのんびりした生活をして送っておるな」
と言われてしまったのだから。ドラゴンも認めるぐーたら具合!やったね!
元々この世界に来てからのレベル上げの日々は自分の身を守るためのものだった。今では武装の面でも、個人の力でも俺の敵はドラゴン意外にはたぶんいないだろう。ドラゴン達と今更敵対することはないだろうし、安全を買う以上の戦いは望むところではないのでのんびりしているのだ。ただ、いい加減飽きてきたなという思いもある。この世界・・・娯楽が少ないのだ。テレビもなければゲームもない。ゲーム以前に電気がない。スポーツもろくなものがない。・・・暇だ。
そんな風に俺がのんびりとした日常を過ごしていると、心安らぐ日常とはかけ離れた情報が飛び込んできてしまった。
「イラとフィードが人間の町に攻め込んだ?」
「はい、一部の獣人を乗せて攻め込んだそうです」
「・・・。長老か誰か諌めなかったのか?」
「長老には無断だったそうで、フィードさんが後押ししたそうです」
むう。ドラゴン達も主戦派に乗ってしまったか。
「それでどうなったんだ?」
「獣人の方もイラさん達も無事だそうです。そして人間の軍事施設を焼き払ったとか」
まあ特別な施設でもなきゃ空から攻撃するだけだしな。強力な竜殺しなんかがなくてよかった。だがこれで調子づき、より戦争に傾くことは間違いないな・・・。
俺の予想通り国は対人間との戦争へ一気に方針転換をした。ドラゴンの中でも恨みを残していた若い奴らがその動きに呼応。最初の件からわずか10日で8つの町の軍事施設に攻撃を加えた。毎晩が戦勝祝いの宴会となっており、反戦派も黙らざる負えない状況となる。
それからさらに10日、25の軍事施設を落としたところでついに攻撃が失敗する。調子づく若いドラゴン達のうちの一頭、イラの弟であるガラが落とされ、乗っていた獣人とともに捕らえられたらしい。
普段の攻撃は朝出発し昼には戻ってくるのだが、ガラが向かったところは森から遠かったため、夕方の帰還が予定されていた。しかし翌日になってもガラ達だけが戻ってこないため、偵察としてベテランのドラゴンが出発。上空から捕らえられたガラの姿を確認したとの事だった。重傷を負っているようには見えない上に、拘束されているすらなかったことから竜殺しが有ると判断し、急いで戻ってきたとのことだった。危惧していた効果の強い竜殺しがあったのだろう。
俺達が代表会議の場に押しかけると、そこは議論の真っ最中だった。
「そもそも竜殺しの危険はあの方達より示唆されていただろうが!」
どうも、名前すら出してもらえないあの方です。あれ、これって反戦派からも嫌われてる?
「あんな怪しい人間の言うことを真に受けろというのか!?」
「受けなかったからこそこうなってるんじゃないか!取り返しのつかないことをしてしまって、どう責任を取ると言うのだ」
「せ、責任の話はまず救助が終わってからだろう?」
「そもそもドラゴンの方々にお手伝いいただかねば現場にすらたどり着けない我らが、どうやって救助するというのだ?」
「それは、その・・・あの人間に手伝わせればいいのだ!人間がやったことなのだから!」
「お前達が推し進めた戦争だろうが!俺はもう戦いはこりごりだったんだ!なのにお前らが暴走するからこんなことになって!!」
と言う感じで激論?がかわされていた。途中途中で罵詈雑言や俺への悪口が飛び交っていたがそれだけの事態ということだろう。俺達じゃ無理、という結論がほとんどであまり生産的な議論にはなっていなかったが。
「救助には私達が行くのでご心配なく。ただ今までの報復に人間が攻め込んでくることは覚悟してくださいよ」
「なっ!?」
「ど、どこから!?」
気配を隠していた俺がしゃべったことで、全員が俺の存在に気づき驚愕の表情を向けてくる。
「ドラゴン達が戦えるなら戦争にはなりませんが、だめになる可能性もあります。無理にチャレンジして彼らを犠牲にするのは勘弁してもらいたいので、覚悟だけは決めておいてくださいよ」
驚いたまま固まった連中に一方的に言いつけて部屋を出る。長老だけは俺に頭を下げる余裕があった。そのままゴルラドに乗って件の町へ向かう。事が起こってから偵察したドラゴンが戻るまでに一日半かかっている。今から町にまっすぐ向かっても到着するのは朝だろう。それから情報収集をして獣人たちに接触しないといけないな。
「悪いな、まかせっきりで」
「いやいや、ガラを助けるために働いてもらうのだ。移動ぐらいは任せよ」
起きてゴルラドに捕まっていてもすることはないので、それだったらとかばんを持ってもらって俺達はかばんの中で寝ることにしたのだ。夜出発して寝ているうちに到着している。さながら便利な飛行機のようだ。
「それで、町はどっちだ?」
まだ朝とは言えない時間、暗い森の中でかばんから出る。
「あちらの方角にしばらくいくと城壁が見えるだろう。我はこの辺にいるから成功したらここまで逃げてきてくれ」
ゴルラドとアイラはここでお留守番だ。呪いの強さが分からない以上これはしかたのない措置。アイラも今回は無茶を言わず素直に従ってくれた。口に反して目はすごく文句を言っていたが。
そして万が一に備えてオリヴィアも置いていく。つまり俺一人での潜入となる。
「もしこちらに来た敵が手におえなかったら上空で爆発でもさせてくれ。すぐに戻るから」
「はい。ケンさんこそお気をつけて」
皆と別れて町へ猛ダッシュ。明るくなると目に付きやすくなるため、今のうちに侵入を果たすつもりだ。
町には無事に進入することが出来た。警備はかなり厳重だったが、闇の中で俺の動きを捉えるのは普通の人間には到底無理なので見つかりそうになることすらなかった。獣人はともかくガラの居場所はすぐに知れた。領主が住んでいると思われる大きな屋敷の庭に、番犬よろしく突っ立って警戒していたのだ。裏切るなんてあるのか?と思って鑑定してみると、どうやら奴隷の首輪をつけられているようだ。竜殺しで落とされた後にでも嵌められたのだろう。人間を殺しに来てその手先になるなんて、なんてあほな結末。
しかしこれでは救助することが大変難しくなった。首輪をはずすにはガラを(物理的に)大人しくさせる必要があるが、ガラの首に嵌っているのはどうやら特別性のようだ。
”狂化の首輪”と言う名前の物で、ステータスを増加させる代わりに主人の言うことにしたがうだけの人形となる。そしてある程度以上のダメージを負うと暴走して暴れだすそうだ。
ガラ自体はそこまで強くないのでなんとかなるが、目立たずに抑えるのは不可能で、どうやっても人を呼んでしまうだろう。ガラのそばに竜殺しが刺さっているとかだったら楽だったのだが。ひとまず先に獣人達を探すしかないな。




