63話 呪いの対策
結局お説教はそこまで時間をかけずに終わってくれた。ただあんまり喜べない終わり方ではあった。なんと怒ってる途中で感情があふれてしまったようで泣かれる羽目に。心配したんですから!と言われて涙を流されるとこう・・・心が痛いよね。とにかく平謝りしたけど、今度危ないことをする時は一緒に連れて行くことをと約束させられてしまった。断ろうとするとじわっと泣きかけるのは卑怯だと思う。実は本気で泣いてないんじゃないかと思わないでもなかったが、そんなこと言ってまた泣かれたらたまらないのでs素直に返事をしておいた。
翌朝、ゴルラドは出かけており今日は顔を見せないだろうとイレーネさんに言われた。絶対嘘だ。イレーネさんの折檻で寝込んでいるに違いない・・・。懸命な俺は余計なことは言わずにそっと目を逸らしておいた。
食後に皆を集めて”竜切”を見せる。その上で人間が作り出した竜殺しがもつ”呪い”の解説、そしてそれとは別にこの武器が帯びている”呪い”についての説明をした。
「その武器がドラゴンだけではなく、私達にも脅威であるということは分かりました。それで、その武器はどうされるのですか?」
「出来れば有効活用したいと思っている」
「つまりご主人様は毒などと同じように呪いにも耐性をつけたいということです・・・か?」
ぱっと俺の考えにいたってくれたのは嬉しいのだが、なんでそんなお通夜みたいな雰囲気を醸し出しているんだろう。ひどくないだろうか。まあ確かにこれからする提案はひどい内容もあるのだが。
「その通りだ。正直この刀や他の竜殺しが持つ呪いは半端じゃない。かかった時点でほとんどの抵抗を封じられてしまう。あれだけ強い竜が苦もなく討ち取られるのも納得できる強さの呪いだった。だが耐性をつけることができれば少しはましになるだろう。その少しがあればドラゴンなら逃げられる」
「我々は逃げられないから完璧に耐性をつけろって話ですか?」
「まあ・・・そうなるな」
皆して天を仰いでいる。恐怖耐性を取得した時の思い出でも回想しているのだろうか。
「えっとそもそも耐性ってつくんですか?どなたもお持ちじゃないんですよね?」
「そう、俺が見た限りでは呪いに対する耐性を持っている人間、ドラゴンはいないんだ。だから俺が実験台になるから、獣人の皆に補助を頼みたいんだ」
「ご主人様!危険なことをしないでくださいと昨日言ったばかりじゃないですか!!!」
自分を実験台にする、と言ったところでアイラが爆発した。皆も仰け反る位ビビッている。俺も正直怖い。恐怖耐性君仕事して!!
「竜殺しの呪いでドラゴンが死なないことは昨日聞きましたが、その刀は特別なのでしょう!?抜いた瞬間にご主人様の命を奪ったらどうするんです!!昨日反省したと言った言葉は嘘だったんですか!?聞いてるんですか!?ご主人様!!」
その可能性に気づくとは、やるな!とかふざけてる場合じゃないですね。はい。呪いの前に俺の胸倉を掴んでぶんぶんふってるアイラのせいで首が絞まりそうです。
女の子達はアイラが泣いたことでも知っているのか、誰も俺を助けようとしない。ピンチ俺。しょうがなく男連中に目線で助けを求めるも、全員目を逸らしやがった。なんてひどい連中だ!
なんとか引き剥がして呼吸を取り戻す。
「ごほっごほ。そうは言ったって耐性スキルを得やすいのが俺のスキルの力なんだからしょうがないだろう?それにこの実験が成功すればジークの安全も確保できるんだぞ?」
ジークの名前を出したことでぐっとアイラが詰まる。次に出てくる言葉を予想するのは簡単だった。
「じゃあ私が実験台になります!」
ほらね。だからこそ俺の返事も決まっていた。
「絶対にだめだ。お前だけはなにがあってもこの実験から遠ざけるし、耐性を得るのも万全の準備が整ってからだ」
「なんで!?」
「言っておくが、アイラを疎んでのことじゃない。だがお前は人間とドラゴンの混血だ。呪いの効果が倍になって襲い掛かり、死ぬ可能性がある。今までの関係から他のやつは命にかかわることはないと思うが、お前だけは保障できない」
そう、アイラたち竜人族のルーツは人間とドラゴンで間違いない。ということは両方に効くこの刀はアイラを含めた竜人族全体に対してとんでもない毒となりうる。これだけは試してみるなんてことは出来ない。経験上状態異常は耐えることが出来ればいずれ、耐性を得られる。だがこの刀の呪いにを二重で受けて耐えられるかどうか試してみることなんてさせられる訳がないのだ。
「アイラさん、私も止めたほうがいいと思います。ご主人様のお話が間違っているとは思えません。今すぐアイラさんが耐性を取得しないといけない訳ではないのですから、止めましょう?」
「でも、だって、昨日一人で危ないことはしないって約束したのに・・・!」
くっ、またじわっと泣き始めてしまった。
「そ、そうだ!それならドラゴンの人に実験してもらえばいいんですよ!命に問題ないことは分かっているんですから、他の竜殺しの武器で実験すれば!」
「いや、俺が発案者だ。耐性が確認できればそれもしてもらうが、自分の案で人にリスクを負わせる気はない」
その後もなかなかアイラは納得しなかったが、オリヴィアや、他の女性人の取り成しで一応我慢してくれた。それにしてもここまで反発されるとは予想外だった。昨日危ないことをしたってのがまだ抜けてなかったようだ。でも呪いに対する対処は必要だからここは意地を通させてもらおう。
「それでなんだけど、この刀には獣人やエルフに対する呪いはかかっていないんだ。だから人間族でない誰かに俺がやばくなった時に刀をしまうのをお願いしたい。眼によれば危険はないはずだだから頼まれてくれないかな?」
「では、私が」
名乗り出てくれたのは鍛冶師のセルブロだ。
「ありがとう、頼むよ」
これで俺が動けなくなったときの対策はOKだ。周りへの被害が起こらない所にしたいということで長老に場所の確保をお願いした。
「我らがためにお主を危険に晒してしまってすまぬ。お穣ちゃんにも辛い思いをさせてしまった。あいすまぬ」
「いえ、私がわがままを言ってしまっただけす。それに・・・ご主人様が危ない思いをするのは嫌ですけど、こういう時に人任せにする人じゃないのは分かってましたから」
無謀な人だと言われている気がするが、褒められたと思っておこう。長老の案内で周りに人もドラゴンもいないところへ移動する。剣の呪いには有効範囲300mとなっていたのでそれ以上離れてもらう。俺のそばにはセルブロがいるだけだ。
ちなみに普通の竜殺しの有効範囲は50mほどだからこの刀の呪いはめちゃくちゃ範囲が広いことが分かる。
「よし、いくぞ」
気合をいれて柄を持つ。
「ふっ」
抜き放つと同時にすさまじいだるさが襲ってくる。姿勢を維持できずに倒れ込んでしまう。
「だ、大丈夫ですか!?」
心配したセルブロが声をかけてくるが、返事をする気力も出ない。これを戦闘中に食らったら本当に何も出来ないな。ってやべえ、呼吸もうまくできない!?
「返事がないので戻しますよ!」
焦りながらもセルブロが俺の手を掴み、刀を鞘に戻してくれる。ふっと体が軽くなるのと同時に、俺の意識は飛んだ。




