64話 呪い耐性
ぺちぺちと頬を叩かれて目を覚ます。皆が俺を覗き込んでいた。
「っと、すまん気絶していたか」
慌てて起き上がろうとするもオリヴィアに押さえられてしまう。
「急に起きない方がいいと思いますよ。どこか体におかしいところはないですか?」
・・・。
特に違和感は感じない。自分の体を鑑定してみても特に異常はなかった。
「いや、大丈夫なようだ。急激に負荷がかかったんで気絶しただけだろう。セルブロ助かったよ」
「いえ、返事すら出来なくなるとは思わなかったので焦りました。ご無事でよかったです」
保険をかけておいて本当に良かった。一人でやってたらそのまま死んでいたかもしれない。
「具体的にどうなったんですか?」
「声出せなくなって、呼吸も出来なくなった。ドラゴンが呪いで直接死なないのは、ドラゴンの体あってのことだってのが分かったよ。俺達の体だと呪いに負けて生命活動まで止まってしまうな」
「それは・・・死ぬのでは?」
「そうだな、呪いに晒され続ければそのまま死ぬだろう」
じっとこっちをアイラが見てる。さっきみたいにパニックを起こすでもなく、騒ぐでもない。ただじっとこちらを見ている。
「それで、どうされるんですか?」
オリヴィアがアイラをちらりと確認した後にこっちへ話を振ってくる。配慮した話をしろってことか?だが、この呪いの俺達への危険性を再認識いた以上、俺に引く選択肢はないぞ。
「もちろん続けるよ。これの危険性を考えたら、止める選択肢はない。それと呪いの影響も分かったから今度からはセルブロに刀を抜いてもらって、すぐにしまってもらう。それを繰り返してスキルを得るしかないな」
じっと俺を見続けていたアイラが、やっと口を開く。
「もう、止めません。代わりに一回やるごとに必ず自分を見てください。それで異常が起きてないことを確認してから、続きをやってください。万が一異常が見られるようなら即中止にしてください。お願いします」
「分かった。約束しよう」
他の皆も心配そうな顔をしていたが、一応見守ってくれるようだ。影響範囲から俺達以外が出たところでスキルの取得を再開する。
「ケンさんのお役に立てるならと志願させてもらいましたが、実際やってみると恩人を拷問しているようなものですね。これは」
「あー、悪いな。嫌な役を頼んで」
「いえいえ、自分で手を上げたのです。最後までお付き合いしますよ」
それから俺は呪いを自分の身に受け、ひっくり返りそうになりながら耐える。小休止をはさみながら自分の体に異常がないことを確かめる。そしてまた呪いを食らう、という作業を繰り返した。セルブロにも皆にもかなり嫌な時間を味合わせたと思う。目の前でぐうぅ!と苦鳴が上がるのを見せ続けるという嫌がらせだからな。
だがその成果はあった。30回ほど繰り返したところでやっと”呪耐性”がついたのだ。他の耐性スキルに比べてかなりつきにくかった。しかしその恩恵は大きかった。刀を抜かれても衝撃は小さく、倒れそうになることもない。疲労感はすさまじいが、感じるのはそれぐらいだ。呼吸が苦しくなることもない。嬉しい変化だ!
調子に乗ってスキル上げを続けようとしたのだが、アイラからも、他の人からもストップがかかった。体に強い負担をかけているのだから、やりすぎだと。スキルを手に入れることが出来たのだから、それ以上は明日にしろと怒られてしまった。
皆には言ってないが、呼吸が苦しくなるということは内臓にも負担がかかっていると言うことだろう。どこまで影響が有るか分からない以上、確かに無理は禁物だ。今日は大人しくしておこう。
長老も、他のドラゴン達も、竜殺しへの対策が確立したことをとても喜んでくれた。スキル上げの効率的な手法は考えないといけないが、俺がいる以上皆にスキルを取得させることは可能だろう。俺が死んだ後のことを考えるとかなり厳しいが、それまでには違う対策を考えてもらうしかない。とりあえず自分のスキルを上げて、呪いをはじけるようにしなくては。
翌日は体調を崩したため、耐性の取得は止めておいた。鑑定結果によればただの風邪ということで、皆には心配しないように告げて一日寝て過ごした。実際にただの風邪だったし、一日寝ただけで治ったのだが、俺はこの世界に来てから一度も風邪を引いたことがなかった。それを考えるとなかなか侮れないダメージが体にあったのだと思われる。ステータス上のHPなどは満タンだし、特に風邪以外の状態異常はないのが面白くもあり、難点でもあった。
その7日後には”竜切”からの呪いを完全に無効化できるようになった。耐性レベルは6で、最後の方は微弱な気だるさを感じながら刀を一日中振り続けるという、忙しいのか、暇なのかよく分からない特訓方法となった。別に刀を振る必要はないのだが、歩き回ることは迷惑だし、せっかく抜き身の刀のそばにいなくてはいけないのだからと、刀の稽古をしていた。おかげで刀剣術が4まであがるというおまけがついたよ。
それとこの刀に頼らなくても俺自身で呪いの魔法を使えるようになった。闇魔法の有効活用が出来るようになった。だがこの魔法は竜殺しが持つような便利さはなく、訓練以外の扱いに困るものだった。
相手の能力を一時的に減らしたり、行動を阻害するのは同じ。ただ2割ほどしか能力を減らせない上に接触が必要だった。つまり呪いたい相手に触れ続けないとだめなのだ。これはなんていうか本末転倒だ。触り続けられる相手の能力を落としてもしょうがない。そんな相手ならそもそも実力で勝てるのだから。闇魔法の習熟に伴ってもっと便利な魔法になることを祈るしかない。
ん?こんな危険な魔法便利に使えるようになる必要はないな。みんなの修行用だからこれで良いのだ。
それから俺は毎日ドラゴン一匹と一人の人間の訓練に付き合う日々を送った。片手ずつ触って微弱な呪いをかけるのだ。ひとまず全員に耐性のレベル1を取得させるところまで繰り返したのだが・・・正直、暇だった。両手はふさがってるし、その場から動けないし、ドラゴンも人間もひたすら耐えてるから、おしゃべりもなかなか出来ないし。まったく出来ないわけじゃないよ?でも雑談してる途中でちょいちょい深呼吸が入ったり、脂汗かいてたりと楽しくおしゃべりって感じではなかった。元々話術が得意な方でもないしね。
次第にうちの連中のレベル1取得が終わってドラゴンだけになり、ドラゴンも全員終わると修行の方法が変わった。人族は家で夜にやるようになり、ドラゴン達は俺と一緒に竜殺しを浴び続けるという団体でのレベル上げにシフトした。ドラゴンの方は読書しながら出来たので楽だったな。経験値10倍要因として座ってただけだからね。ただ、うなり声があちらこちらから聞こえてきて、いい環境ではなかった。あいつらときたら気を紛らわすために、途中でののしりあいを始める始末。おまけにあとで本気で喧嘩を始めて、長老にぼこぼこにされていた。長生きしているくせに困った連中だ。
竜切は俺の修行が終わると同時に解呪した。解呪の仕方なんてまったく分からなかったので、眼によるサポートを受けながら光魔法をぶつけた。面白かったのはこのぐらいの出力で、と思って竜切を見ると解呪確立が出るところだね。失敗するとその解呪に使ったエネルギー分強くなるらしい。呪いとは恐ろしいものだ。




