43話 仕返し
暗くなりかけたところで町のそばまで戻ってくることが出来た。そのまま完全に暗くなるのを待って再度町への侵入を果たす。こそこそと家に戻った俺は感知する気配が足らないことに気づいた。どうやらやられたようだ。なんで俺がいないのが分かったんだろうか。いないのは案の定オリヴィアとティナだった。
扉を開けると同時にアイラが近づいてくる。
「なにがあった?」
「申し訳ございません!薬を使われたようで全員意識を失い、その隙に二人を攫われてしまいました。罰は如何様にも。ただ願わくば二人を救出するまではお許しください」
アイラは普段のふざけた雰囲気とは違いキリッとした顔をしている。ただ怒りか、屈辱か手は強く握りこまれて白くなり、ぶるぶる震えていた。
「いつ頃?」
「先ほど目を覚ましたところですが、強い毒ではなかったようでそこまで時間はたってないかと思われます」
俺のいるいないじゃなくて薬の準備に手間取ってただけかな?それにしても睡眠系の毒とは・・・俺がいれば効かないから対処が出来たのにタイミングの悪いことだ。
「じゃあ皆はこの家で待機。俺ひとりで行って来る」
「そんな!私も連れて行ってください!」
「アイラはこの家で残ったみんなの守護だ」
「お願いします!二人を攫われた上に何にも出来ないなんて!」
そう言われても二人を助けるために他の人間を危険にさらすわけには行かない。
「救出は俺に任せて残る皆を守ってくれ。じゃあ行ってくる」
アイラはお願いします!と繰り返してたけど今は話し合っている時間はない。リディに後を任せてアーソルドのくそ野郎の家に向かって走り出した。
一応家の場所を調べておいたことが功を奏して、迷うことなくアーソルド家に着く事ができた。家は厳戒態勢のようで回り中にチンピラのような連中がうろうろしている。貴族の家とは思えない光景で、どちらかと言えばヤクザとかそういう関係の家にしか見えない。一応門番だけは兵士の格好をした人間が立っていたが、門から正々堂々入るわけがないのでまったく関係なかった。
塀を軽々飛び越え、その勢いのまま屋根の上に潜む。そこから結界でもって中の人間を把握するとベットに縛られた女性が2人いる部屋を発見した。2人の周りにはデブが2人と中肉中背が3人の合計5人がおり、くそな連中に取り囲まれているみたいだが、どうやら間に合ったようだ。
安堵しつつ部屋に向かおうとすると結界の中の一人がこちらへ振り返る。そして武器を構え、他の人間に指示を出しているようだ。ん?結界に気づかれたのか?どうやら空間魔法に素養のある人間だったようだ。驚きつつもまあばれたならもういいかと思って屋根を突き破る。
「こんばんは、誘拐されたうちの人間を帰してもらいに着たぞ」
部屋に降り立つと動ける二人が女の子たちを人質に取っている。デブ二人はほとんど動けず、いすに座ったままだった。
「ふ、ふごふご!ふごふごごふごふごごふふふふごふふふごごふごおふごふごごごごご!」
(き、きさまぁ!いだいなるあーそるどのいえにおしいるとはぶれいにもほどがあるぞ!)
「・・・え?」
ごめんなんか言ってるんだけどマジでわかんないわ。というか本当に人間の言葉か?
そのあともふごふごいってるんだけどぜんぜん分からなかった。
「ごめん誰か通訳してくんない?俺オークの言葉はちょっと分からなくて・・・」
そういうとより盛り上がってふごふご言うのだが、結局まったく分からなかった。
そんな漫才をしていると中肉中背の男が変わりに話し始めた。
「Bランク冒険者のケンだな?一人で乗り込んでくるとはこの家の防備をなめ過ぎじゃないか?」
「お前がどんな手を使ってうちの連中を寝かせたか分からないから、さすがにちょっと拙策だったかもな。でもオリヴィアとティナをお前らにくれてやるつもりはないから」
「そうか。俺たち3人は冒険者じゃないんで、ランクはついてないが、それでもBランクに負けるほど弱くはない、ぞっ!」
しゃべりながら剣を俺に向かって突き出してくる。さらに左手には毒付きの短剣を構えておりそちらが本命のようだ。剣の方を手でつかみ引き抜き、短剣を足で腕ごとへし折る。
「ぐぎゃっ」
「ランクにとらわれてるのはそっちだろ。BランクだからってBランクの強さだと思わないことだな」
「なっ貴様!人質が見えないのか!」
前の奴がやられたのを見て後ろの連中が騒ぎ出す。
「あほか。俺がやられたらその娘たちの尊厳も命もないんだから、抵抗するに決まってんだろ」
「い、いいのか!やっちまうぞ!」
ぐっと腕に力が入った瞬間には俺がその手を抑えていた。もちろん相手の手の骨を砕きそれ以上の抵抗を許さない。同じ手順でもう一人の方も潰した。
ベットに二人を寝かせ、敵を全員縛り上げる。抵抗した奴は追加でぼこった。特に怪我をしていないデブたちがふごふご暴れようとしたのでデュオニースをぼこぼこにして気絶させた。もう一人のデブは案の定と言うかなんと言うか子爵本人だった。
見た目の不摂生さからまずないとは思うが、この子爵が息子にだまされただけの善人だって可能性もなくはない・・・と思いたい。この国の貴族に対する一縷の望みと言う奴だ。なので交渉を一応してみよう。いらない邪魔が入らないようにドアの前には空間魔法で結界を張っておいた。これで誰も入って来れない。
「子爵さん、お宅の馬鹿息子が俺の家族を誘拐したんで俺が取り返しに来たんだけど、その始末はどうする?」
「平民風情がなにを言っている?わしら貴族の役に立つんだ、平民の女ごとき喜んで捧げるべきだろう。それにもかかわらず貴族の屋敷に無断で侵入したばかりか私への暴力行為。一族郎党、楽に死ねるとは思うなよ!」
うん、知ってた。やっぱりだめだったね。この国の貴族は救いようがないことに決定!
諦めて眼で情報を読み取れば、詐欺、横領、誘拐、殺人教唆、傷害、殺人等々。凶悪犯もびっくりの経歴だった。しかもこの国では、これらの経歴は貴族であると言うだけで無罪らしい。とんでもねえ国だな。
「ふむ、わかった。じゃあ家族の身を守るためお前らを殺していこう。そうすれば犯人が誰かは分からないから、俺たちは安全だろう?」
「な!?子爵であるわしへの暴行だけでも大問題であるのに殺すだと!そんなことが許されるわけないだろうが!!」
この国の法律に照らせばこいつの言っていることは正しいらしい。貴族の目の前を横切ったら鞭打ち、意図せずでも怪我をさせたら死刑、意図して暴力を振るったら死刑が基本だ。
「許す許さないって・・・だれが?」
「く、国!皇帝!神!そのすべてが許さないに決まっているだろうが!」
「なんで?」
「な、なんでってこの国は世界を支配する帝国だぞ!?その帝国の爵位をもつわしを平民ごときが害して言い訳がないだろうが!」
「ふむーつまり子爵さんを殺すなら帝国と戦争するつもりでいろってこと?」
「当たり前だ!」
「でもさ、どうせこのまま帰ってもあなたに狙われて殺されるんだから、どっちにしても死ぬんなら巻き添えにした方が良くない?死ねばもろともでさ」
とまあ無駄な会話を繰り広げていたわけだが、その裏で会話をしていなかった連中には恐怖スキルを食らわせていた。最終的には本気でやったので泡吹いたあげく痙攣を起こしている。発狂しても、壊れてもかまわないと思ってやったので後悔はない。
「こ、今回は特別にみ、見逃してやるからさ、さっさと拘束を解くのだ!」
「お断りします」
子爵の首の左右に転がっていた剣を一本ずつ刺してやる。その上で恐怖スキルをかけ、毒の短剣を体の上につるしてやる。そして紐にくすぶる程度で火をつける。
「じゃあ俺たちは帰るけど、紐が千切れる前に助けが来るといいな。間に合わないとその短剣が刺さるぞ。その短剣はお宅の護衛が持ってたものだから致死の毒が塗ってある。頑張って助かってくれたまえ」
首は動かせず、体は縛られて動かない。さらに俺の恐怖スキルで死の恐怖を倍増してやってるので相当な恐怖を味わっているのだろう。すぐに髪の毛が真っ白になり、その恐怖を感じさせる。
「ひぃ、ひぃいいいいたす、た、た、たすけ、て、ててて」
歯の根が合わずうまくしゃべれないようだ。うーむちょっとやりすぎたか?誘拐の報復にしては過激だったかもしれん。だがまあ前科を考えれば地獄の炎に焼かれたって自業自得なんだから、と言うことで許してもらおう。
子爵たちを放置した俺は二人を抱えてこの家を後にする。何だかんだ言ってやはり人間を殺すのにはためらいがあるな。もうちょっとがんがんやりあっているなら気にせず手を下せるのだが、戦闘能力がない相手に手を下すのは難しい。といいつつ拷問の真似事はしたけど気にしたら負けだ。やられっぱなしは面白くないしね!




