42話 救助
あれから三日たったが、アーソルド子爵家側には特に動きがない。面子をつぶされた!と言って猛然と攻めてくるかと思ったんだが、有形無形問わず何の動きもない。すぐに次の手を打ってくるかと思っただけに、肩透かしの感があるな。
俺と言えば家から離れられないので暇つぶしに防具を作ったりしているのだが、全員軽装が主だし、個人の力で何とかしてしまうのであまりやることは多くない。篭手を作ったり短剣を作ったりしていた。こっちに着てからこんなに引きこもったのは初めてだから暇でしょうがない。鍛冶を一生懸命していた期間だったらいくらでも暇がつぶせたのだが・・・。
俺たちには情報源が冒険者ギルドの酒場ぐらいしかないので貴族関係に関してはほとんど情報が入らない。なので彼らの次の手がまったく分からない。何もしてこないことが返って不安を呼んでいる。
このまま何もなしと言うのはないと思うのだが・・・。
うちに侵入してきた連中は案の定ただの物取りとして処理された。一応衛兵隊からアーソルド家に確認はしたらしいのだが、当家には一切のかかわりのないこと、と言われて詰んでしまったそうだ。俺がもっと立場のある人間だったらもっと追及できたかもしれないが、平民の身の上では残念ながらそこまでだった。人間族に対する誘拐は重罪とのことで、彼らはみんな奴隷落ちとなった。しかも一番ひどい扱いの奴隷で鉱山に行かされるか、戦争で使いつぶされるかとのことだ。実質死刑みたいなもので因果応報だとは思うけど生きて帰る予定がないというのは可愛そうだな。
それからさらに4日間、何も起きずに過ごしていたのだが、予想していたこととは別の問題が発生した。
冒険者ギルドに顔を出したオリヴィアによれば竜の森の浅いところで子どもの竜の発見報告が出たと言うのだ。
「あの子に違いありません!私たちが戻ってこないから寂しがって探しに来たんだと思います」
「人間には気をつけろと言っておいたから捕まってはいないみたいだけど・・・ギルドはどういう方針何だ?」
「生きていれば白金貨10枚、死体なら2枚だそうです」
「その値段だと大勢が動くだろうから・・・速攻で捕まりそうだな。生かして捕まえたら実験の材料か?」
「恐らくは・・・。竜の因子の研究に用いられるかと」
むざむざとひどい目にあわせたくはないけど、俺たちで助けに行くのはあまりよろしくない。そんなことをすればこの家はたちまち襲撃にあうだろう。俺たちが自由に動けないタイミングで出てくるなんて・・・。いや、安易にまた来るなんて告げた俺が悪かったのか。
チビドラゴンのほうは一刻を争うだろうが、困った!
3人で話し合った結果、俺一人でチビドラゴンの元へ行くことになる。ただし俺が外出したことを悟られないよう、闇夜にまぎれて壁を飛び越えるつもりだ。俺が素直に門をくぐってしまうと必ずアーソルド家が動くだろうと言う判断だ。
頼むから俺が行くまで見つからないでいてくれよ!
夜、真っ暗な町並みの中を気配を消して走る。向こうの世界と違って深夜になればほとんど月明かりぐらいしかないのが幸いだ。あとは家の明かりがぽつぽつ、衛兵が持つ松明が少し。
結界を使って、見張りの兵がいないところを探し、そこめがけてジャンプ!20mほどある壁を一跳びで越え、誰にも見られていないことを確かめながら森の中へ飛び込んだ。
森の中は相変わらず真っ暗でほんの少ししか見えないが、結界の力でもって前へ前へ進む。一応結界を最大限広げてチビドラゴンを探しながら走っているが、なかなか見つからない。森のサイズを考えれば当たり前のことなのだが、気が急いてしょうがない。しばらく探しても見つからないのでとりあえず今夜の捜索は諦め、木の上で休むことにした。
夜が明けて明るくなった頃からまた捜索を開始する。しばらく探し続けるうちに竜の形を見つけたのだが、悪いことに周りを人間が固めている。頼むから生きていてくれよっ。
そばにいる人間への対処が決まらないまま集団のそばまでついてしまった。
気配を消したまま覗き込んでみるとチビドラゴンは体に傷を負って倒れている。まさか殺された!?と思って鑑定してみると一応生きてはいるようだ。ただ頭に衝撃でも受けたのか気絶しているらしい。
周りを囲んでいるのはCランクの冒険者でまだこの森に入るのは早そうだが、一攫千金を夢見て入ってきたのだろう。犯罪歴とかもないので俺の罪悪感を誤魔化す要素がない。むしろこれからすることを考えるだけで罪悪感でいっぱいだ。彼らにはとっても悪いけど殺させるわけにも、実験材料にさせるわけにもいかない!
覚悟を決めた俺は、炎の魔法と水の魔法を使って爆発を起こす。もちろん彼らに当たらない上空で、だ。
「な、なんだ!?爆発?」
彼らが驚いて上を見上げた瞬間に高速で近寄り、チビドラゴンを担いで走り出す。全員をかわしてというスマートなことは出来なかったので何人か弾き飛ばしたけど許して欲しい。
うわっ、とかぐはっとかそんな声を上げていたが彼らが振り返る頃には俺もチビドラゴンもその場にはいない。全力疾走で森の奥へと姿をくらませた。
3時間ほど走り続け、俺たちが作った拠点へたどり着いた。正確に言えば足跡を残さないために木と木の間をぴょんぴょんとびながら移動していたので跳び続けた、かな。あと本当はもっと早くついたんだろうけど迷ったせいで無駄に時間がかかった。俺よりチビドラゴンのほうが移動先を理解していたことにちょっとショックを受けた。く、悔しくなんかないんだからね!
チビドラゴンの傷は走りながら治療しておいたのでもう元気になっている。俺の背中の上で目を覚ますとあまりの速さに驚いたのかギャーギャー騒いでいたが、静かにするよう声をかけると俺だとわかったのか大人しくなった。
「だめじゃないか!人間のいるほうへ近づいちゃ!お前はもうちょっとで素材として殺されるところだったんだぞ!アイラも俺もめちゃくちゃ心配したんだからな!」
伝わっているのかは知らないがとりあえず叱ってみる。すると気まずそうに顔を横に向けたままくーんくーんと泣く。犬かこいつは。
「もう!俺たちに会えなくて寂しかったのか?なんだよこくこく首振って、お前やっぱり俺の言ってること分かってるのか?」
そう言ってみるとやはり首を縦に振る。言葉として理解しているのかは分からないが、とりあえず伝わっているようだ。
「まあ無事でよかったよ。今ちょっとオリヴィアが、アイラじゃないほうの女性な、その子が大変何だ。俺はもう帰るけどお前しばらくここにいろよ。必ずアイラと尋ねて来るから。また森の浅いほうへ近づいたら今度こそ命がないぞ!わかったな!?」
俺がそう脅すと一応頷いて返事はしたけど・・・心配だなぁ。でもいつまでもここにはいられない。心配だった俺はマジックバックから途中倒した獲物を出してあげた。その上で拠点の周りに物理的に干渉できる結界を張って誰も入れないようにする。ここまですれば数日は何とかなるだろう・・・たぶん。後ろ髪を引かれつつも猛烈な勢いで町のほうへ戻るのだった。




