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宿屋での騒動

後半は三人称視点からお送りしております



「カミさん部屋は空いてるか!?」


その宿は南通りから少し外れた場所に建っていた。

一階部分は飯屋も営んでいるらしく、丁度昼時ということもあり、がやがやと騒がしい中ほぼ全てのテーブルが埋まっている。

ジャックさんが中に入った時は視線を一身に集めたが直ぐに元の喧騒を取り戻した。


「ああん?誰だい、私を呼んだのは!」


その声に応じて厨房から出て来たのはジャックさんよりもさらに大柄な女性だった。

存在感という言葉がよく似合うその女性の太鼓腹の上には白いエプロンが掛かっており、片手に特大のお玉を持っている。

扉の方に視線を向け、僕達を見つけた。


「なんだい、ジャックじゃないか!どうしたんだい?」

「部屋が空いてたらこいつらをこの宿に泊めてやって欲しくてな。どうだ?」


その女性はジロッと僕達の方に目を向ける。


「……あんた、名前は?」

「私はマヒロ・ハヅキと申します。こっちの彼女はヒルデ、この子たちは……」

「黙りな!そんな言葉遣いで自分を隠すやつはうちには泊められないね!もう一回聞くよ。あんたの名前は?!」


途中で遮られた挙句にその存在感を全面に押し出してくる。

周りをチラッと見るも特に気にした様子はない。

流石に少しイラっとした僕は、普段通りの口調で応えた。


「僕はマヒロ・ハヅキ。で、ヒルデに男の子がルドル、女の子がサーシャだ。商人だったけど、さっき冒険者にも登録して来た」

「ふぅん?ちゃんと喋れるじゃないの。金はあるのかい?」


認められた、なんて簡単に言うつもりはないが及第点は貰えたようだ。


「ああ、すまん。こいつらの宿泊代は俺持ちで頼む」

「なんだい、訳ありかい?」

「詳しくは言えないけどな」


ふん、と息を吐き再び僕達の方に向き直る。


「そっちに名乗らせてあたしが名乗らないのは良くないからね。この宿屋『朝駆けの狼』の女主人のカミヤだよ。通称カミさん。あたしにはさっきの変な敬語は要らないからね!」

「分かったよ、カミさん」

「宿代はジャック持ちってことだけど飯は毎食銀貨1枚だよ!少し高いけど絶対満足するから食べたい時は下で言いな!」

「じゃあ今から食べたいな。みんなもそれで良いよね?」


それぞれが頷いたのを見て銀貨4枚をカミさんに渡すと、ちょっと座って待ってな!と厨房に戻っていった。


「あー、すまんな。カミさんはいつもあんな感じだ。つかその敬語辞めれるなら俺にもやめろよ。いちいち変な感じがしてたんだよな」

「あー、考えときますね」

「おい!?」

「冗談だよ」


冗談が言えるくらいにはジャックさんとも仲良くなった頃、カミさんがトレイを持ってきた。

みんなの前に熱された特大のステーキが置かれた。

ジュージューと音を立てているその肉の匂いに思わず腹の虫がなる。


「パンとサラダはあそこに置いてあるから自由に取りな!ジャックは飯はいいのかい?」

「ああ、俺はこの後も用事があるからな。じゃ、そろそろお暇するわ。マヒロ達もまたな」

「案内有難うね」

「ジャック、この子達の宿代は後で請求しておくからね!」


きっちりと念を押されたジャックさんは肩を少し落としながら宿屋を後にした。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



カミさんとこの宿屋を出たジャックは一直線に都市の中心に向かった。

勿論マヒロ達の事を領主様に伝える為だ。


エピドールの中心部にあるのは領主様の館で、どの門からでも直ぐに連絡が取れるようになっている。

門の外でマヒロ達が待っている間に連絡はして置いたから特に待たされる事なく領主様の前に辿り着くことができた。


「ジャック、ようやく来たか。火急の件という知らせだけあったからお前が来るまで気が気でなかったぞ」


領主様の部屋に通されると、書類が重なった山が3つほど作られた机の奥からそう声を掛けられた。


「申し訳ありません、バルダー様」

「おう。で、一体どうしたと言うんだ?今日は南門での勤務だったろ。もしや氾濫が起こる可能性があるのか?時期的にはそろそろかもしれんがそれだとお前がわざわざ知らせる必要もないだろうしな」


矢継ぎ早に聞いてくるのは四十代ほどの男性であり、この自治都市の領主を務めているバルダー・エピドールだ。

その顔はどちらかと言えば強面の印象を与える方で実際に戦場では自ら先頭に立つ事もあったと言う。

最近の生活の中には戦闘行為は組み込まれていないが、袖から覗ける二の腕の筋力は力を入れずしてなおその力量が推し量れるほどの物だ。

そんな武闘派であるバルダーであるが故に、自分よりも強いと認めているジャックの報告を聞いて驚きを隠せなかった。


「ええ。本日の朝11時ごろ、南門に4名の者が来ました。商人とその従者を名乗る者、奴隷が2名。いずれもこの近くには見ない格好をした者達です」

「ほう。確かにそれだけでも怪しいところはあるな」

「エピドールの南には魔素の森しかありませんしね。報告したかったことですが、その四名のうちの従者が私でも対処することは難しいと判断しました」

「なんだと?」


自分の威圧を全く気にかけていなかった、長身の女性をジャックは思い出しながら語る。


「知っての通りですが、私はこれでもこの都市における最大戦力です。ダイアモンド級冒険者にも引けは取らぬと言えるだけの自負もあります。

レベルも65を超え、幾度となく魔物の氾濫の対処もして来ましたが彼女とだけは戦いたく思いませんでした」

「彼女?女性なのかその人物は」

「私はその女性を見た瞬間、ドラゴンに首を掻っ切られるかのような威圧を受けました。あのような人物がいるなら世ですでに有名になっていてもおかしくないと思うのですが……」


その例えがヒルデの正体の真実であるなど露にも思わない。


「そいつらの人となりは?」

「暫く一緒に行動していたのですが、商人を名乗った少年は暫くすれば言葉遣いを解いてもらえる程度には。恐らく商人というのはでまかせでしょう。従者の方は特に何も分からなかったです。奴隷だった二人も気さくに商人に話しかけており短期間で作られる関係とは思えませんでした」


ジャックはマヒロと出会った時の印象、その後の対処を含めここにくるまでの小一時間のことを全てバルダーに話した。

バルダーは黙りきり、暫くは部屋に置いてある時計の針の音だけが響いた。


「よし、ジャック治安警備隊隊長。お前の判断はその時においては最善だっただろう。そいつらが冒険者登録をしたって事は当分この都市にいるつもりらしいな。今後の動向は俺の方でも探らせるから、お前はそいつらを気にかけていてくれ。何か変な動きを見せたらすぐに連絡を取るように」

「了解しました。では、失礼します」


ジャックは深く礼をしながら部屋を出る。

再び部屋に静寂が戻り、


「只でさえ連合(ウチ)にちょっかい出してきたクソ皇子(ガキ)の相手で面倒だってのに、なんでこのタイミングで面倒ごとが増えるんだ。……こんな時お前がいてくれたら良かったんだが……どこに行っちまったんだカズヤ」


バルダーは更に増えた問題にしばらく頭を悩ませることとなった。


次の投稿は日曜日の予定です。

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