三話 キンコ×金庫
「アンニュ~イな気分だニャー」
ムーニャが誰ともなしにつぶやいた。
後衛三人組はトボトボと定宿となった町外れの灰色の虹亭を目指していた。ムーニャは尻尾を力なくたらしてしょんぼりしている。
ジェラートがつぶやきに答えた。
「どうした猫殿。元気がないな」
「えー、だって向こうの三人が美味しいもん食ってるだろうに内らは腹空かしてチンピラ宿番が陣取る掃き溜めに帰らなきゃならないなんて理不尽すぎニャ」
ムーニャはひとしきり愚痴った後何かを閃いたようでピコーンと尻尾を突き上げた。
「むむっ! いいこと思いついた! 前衛手当があるなら他の功績でも手当てを作るべきだニャ。MVP手当をつくろうよジェラート! その日一番活躍した人は共有金から手当が貰えるの! もっちろん今日のMVPは【ブラーヌ】連発で大活躍のこの大魔法使いムーニャで決定だニャ」
ムーニャは自分の思いつきに興奮してフンフン鼻をならしている。
ジェラートはどう誤魔化して件のMVP手当を潰し共有金を守るか胸の内で画策していたが、ふともう一人の同行人に目を向けると何やら深刻な面持ちをしている。気遣うべきはこちらだったようだ。
「キンコ。表情が暗いぞ。青い顔をしている」
青い顔のくだりは一応ジェラートなりのジョークだったがキンコは無視して自己の心情をせつらら語った。それによると、自分は役に立っていない。自分勝手な職業適性を無視した二流魔法使い。その上でかい図体しているのに後衛に下がり体力の無駄遣いを続けている。みんなに忍びない。
これを受けたジェラートはそんなことはない、とはっきりと否定しムーニャはそうそう、と適当に相槌を打った。
「呪文なら経験をつめばすぐに覚える。今日だって炎の呪文を使ったろう? それに重い戦利品を一人で背負って商店まで運んだ。私達では到底できん」
「うう、でもあの斧槍も結局買い叩かれて黒パン一個分くらいにしかなりませんでした」
グダグタ自縄自縛するキンコにジェラートはふむと口元を指でなぞると一つ助け舟を思いついた。キンコのマイナス思考のスパイラルを払拭するように少し強い語調でジェラートは尋ねた
「――キンコ。ところで君は算術は出来たか?」
「えっ!? えーと足し算引き算なら少し。両手を使えばですけど……」
「ニャンニャーは掛け算割り算も出来るよ!」
ジェラートは手でどかす仕草をして、ムーニャは少し黙っててくれと言って突き放した。
「ではキンコ。明日からパーティーの軍資金諸々の金勘定をやってくれないか? 今はリーダーの私がやっているが、別に他の人間がやってもかまわんだろう」
「ええっ、で、でも私の算術はちょっと怪しいかな~なんてそのぉ……」
「そこら辺は私が教師となり教えよう。どうかね?」
キンコの目はウルウルと涙をためている。ジェラートのやさしさにギガンテス族の乙女の傷心は包まれた。その配慮を無下にできようはずがない。
「はいはいはいはい!、お願いしますジェラート、いや先生。私お勉強大好きです。一生懸命やってみせます!」
どうやら一件落着のようだ。MVP手当ての案はドサクサのうちに立ち消えになった。
3Dダンジョンゲーには某国民ゲーのようなあずかり所の類はなく、訓練所で作った仲間に現金やアイテムを預けてその代用とする。
迷宮にはいかせないのでみんな適当なネーミングとキャラメイキングをするので全国のプレイヤーの間で「きんこ」や「そうこ」と名づけた冒険者が氾濫することになりました。
3Dダンジョンゲー界隈ではよく知られたネタで、自分が中古で買った外伝2でも「きんこ」が0が数えられないくらい大金蓄えてたなー




