一話 二日目
「気をつけろ! オークではないらしい!」
利明の警告が飛ぶ。オークそっくりのシルエットは迷宮の罠であり、闇の奥から現れたのは鼻の突き出た豚ではなく悪相の猿だった。
ゴブリンだ。悪鬼とも称されるモンスターで、焦げ茶色の肌を持つハゲ猿のような容姿だ。鋭く歯並びの悪いむき出しの牙が醜悪な顔面を飾っている。柄の短い斧槍を大きく振りかぶって突進してきた。
三体のゴブリン突撃部隊をHDクラッシャーズの前衛三人の盾壁が押し止める。甲高い剣戟音が戦場に響く。オークより強いがバンディットには劣る、それが利明の戦力評価であった。この程度の圧では実戦をへて連携が合わさるようになった真守、利明、ブラウスの肉壁を押しのけるには足りなすぎる。
利明達からすれば無理に前に出る必要はない。ムーニャの呪文が完成する。盲目の呪文【ブラーヌ】だ。
怪しげな光と共にゴブリン達の視界が霞がかる。こうなればもう恐れることはない。一転攻勢にうつりハゲ頭に得物をぶちかます。ハゲ死すべし!。敵は全滅した。
HDクラッシャーズは今日――パーティー結成二日目の戦いで必勝法を編み出しつつあった。前衛が守りを固め、その隙にムーニャが【ブラーヌ】が唱え敵の視界を奪い、その後殲滅。この戦法で朝から迷宮にもぐり無傷ですんでいる。まあこれはバンディットと遭遇していないせいもあるが。
「いやーしかし、【ブラーヌ】様様だな。こりゃあ楽だ」
「フフーン。偉いのは呪文じゃなくてそれを唱えてるニャンニャーだってことを忘れないでよねンニャー」
真守のつぶやきにムーニャの自慢がかぶさる。それを聞いてキンコが嘆いた。
「……うう、すいませんすいません」
まだ単体攻撃呪文しか覚えていないキンコは今のところあまり戦力になっていない。ひどく恐縮している。
キンコを皆で慰めつつ、今日のところは街に帰還することにした。疲れはないが、ムーニャの魔力が尽きてしまっては心許ない。
真守の提案でゴブリンの武器を持って帰ることにした。ガラクタ同然だったオーク、バンディットのものと比べゴブリンの斧槍は金属を豊富につかっており売り物になりそうだ。
斧槍三本はキンコが申し出で全て彼女が背負うことになった。かなりの重量で帰り道は長い上り階段もあるが楽々持ち運んでいる。キンコの申し出は少しでも役に立ちたいという善意によるものだが、他の仲間達はますます彼女の魔法使いとして存在意義を疑問視する結果となった。
迷宮より帰還し、戦利品を商店で売り払う。ゴブリンの斧槍は二束三文だった。やはりこの手の数打ちの類いは市場に飽和しているようだ。
0よりはましと言えるが、地下一階入り口付近を彷徨いている今はともかく、これから奥深くに潜って行くことを考えると、あまりいい金策とはいえないようだ。
換金したゴールドを前にリーダーであるジェラートはパーティーの共有金創設を提案した。半分をパーティー全体の共有金としてプールしておき装備の更新などに使う。残りの半分を六人で分けるというものだ。
妥当な提案だったが異議が出た。案の定ブラウスだ。ブラウスの考えは1ゴールドでも多く金をくれ、という直裁的で欲望に忠実な案である。
「ウガ~。この馬鹿ッ! お前みたいな刹那に生きている奴のための共有金だ。どうせまたろくでも無い用途に使うつもりだろっ!」
ジェラートの言は最もだったが、残念ながら意気込みだけでブラウスに口喧嘩に勝てる訳でもなく負けた。結局言い争いの末、共有金から前衛三人に食費手当が出ることになった。
ブラウスによれば前衛は体が資本。だから肉食って体力を付けねばならぬそうだ。一利あるが、実際の所ブラウスがただ食い意地はっているだけである。
「おーし真守、利明。 大通りの屋台によって行こうよ。早く!」
真守と利明は棚ぼたで晩飯に一品増えることになった。言い負かされたジェラートがこちらを睨んでいて少し気が引けるが鳴る腹は正直だ。二人は小走りにブラウスの後を追った。
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これより当分、レベルが最低でも3にあがるまでは入り口付近の玄室をいったりきたりで過ごす。デンジャラスな冒険とは程遠いがこのゲームはそうでもしないと全滅するバランスで成り立っているのでしゃーない
「まもる」と「としあき」の表記を「真守」「利明」に変更しました。
ひら仮名だと8ビットな感じが醸しだされて良いんじゃない?、と思いたち今まで無理矢理使って来ましたがやっぱどう考えてもデメリットが勝つと結論が出ました。
読者の方も読みにくかったと思いますが、書く方も書きにくいんですよね。まったく誰得だったのか。




