二十八話 冒険者の宿
都市の西部、商業施設が多くそろったアッティラ大通りでも特に交通の便がよい立地にその馬車宿はあった。
金獅子のしっぽ亭。
シャトランゼの木材を惜しみなく使った豪華な宿舎が評判の宿だ。馬匹を所有する比較的裕福な旅人達の定宿である。なにしろ馬というは高級品であり、終始馬泥棒に狙われている。世話も合わせて馬小屋には常時幾人かの馬丁を揃えておかねばならず、これを行えるのはそれだけの規模がある宿でなくてはならない。HDクラッシャーズ一行はここに訪れていた。
ただし、お客としてではない。馬小屋を借りるためだ。迷宮出現後、王宮からお触れが出ており都市全ての宿は冒険者に可能な限り馬小屋やら軒先やらを開放してタダで泊めねばならないのだ。
そうした情報を聞き及んで来訪したのだがあえなく門前払いされた。
なんと昨夜のこと馬小屋を借りた冒険者達がこともあろうに飼葉を燃料に煮炊きをしたあげく失火、馬小屋を炎上させ、お客から預かっていた全ての馬匹も焼死してしまったのだという。当然、件の冒険者達は近衛にひっ捕らえられ監獄で処刑を待つ身だ。
その上タダ宿泊のお触れも撤回されてしまったそうである。以前から冒険者達が馬小屋にしか泊まらないなどの問題が山積しており、これが最後のひと押しとなったらしい。
季節は初冬。このままではめっきり気温を下がってきた寒空の下、野宿で凍死しかねない。金獅子のしっぽ亭受付から聞き出した所、町外れに格安の木賃宿があるらしい。
HDクラッシャーズは町外れへととんぼ返りせねばならなくなった。まったくもって無駄な移動時間ほど人生の浪費はないものだ。
ブラウスとムーニャは近々行われるという不届き者の公開処刑に是非とも見物にいって野次の一つも飛ばしてやると息巻いている。二人の不穏な物言いを誰も咎めはしなかった。




