二十六話 生還
ブラウスは苦痛に歪もうとする表情を無理矢理抑えこみ立ち上がった。このまま歩いて迷宮から脱出する心算である。背の裂傷の治療は半端だ。ジェラートのMPはつき、ブラウスはまだ回復呪文を覚えていなかったからである。
キンコが背負うと申し出てくれたが、――ジェラートが前衛じゃ心配だし、と断られてしまった。
行かせまいと立ちふさがるジェラートの肩を掴み、楽々押しのけて前衛に舞い戻る。まもる、としあきの中央に陣取りどうだと言わんばかりに鼻息をフンスッとあげた。重度の見栄っ張りである。
としあき はニッと笑い軽口を叩いた。
「強がりで前に出るのはいいがそんな様で自慢の脚力を出せるのかい?」
「へへん! 言ってろい。ちょびっとくらい動きが鈍ったってこのパーティーのエースの座は私で揺るがないのだよ」
強がりに強がりを重ね鼻で笑い飛ばすブラウス。としあき はやれやれといった調子で苦笑すると一人歩きだした。ブラウスもそれに続く。まもる も二人に続きながら後衛を振り返った。
「ジェラート。気持ちはわかるが行こう。ここでグズグズして徘徊モンスターにかち合ったら今度こそ全滅してしまう」
ジェラートはしぶしぶと言った様子で、キンコ・ムーニャと共に行軍に続く。六人は慎重にゆっくりと進んだ。まだ開けていないドアは当然無視して突き当りを左折して通路を進む。誰も喋らない。各人の足音と荒くなりつつあるブラウスの呼吸とが迷宮に響く。
程なくして眼前に迷宮の出入口である青銅の扉眼が入った。皆ホッと息をつく。道順が既知である帰り道だったが状況が状況だけに神経がすり減っていたのだ。
事前に教えられた通りに剣の柄で扉をガンガンと5回叩く。開門の合図だ。内側からは決して開けられない。
地上への出口が開いていく。扉の下部が地面を擦るザリザリという不快な音も今では心地よく感じる。皆が扉が開けきるのを待っている中、一人いや一匹が――みんなぁ~と、間の抜けた声を出して注目を集めた。ムーニャだ。口元のふぐりが言葉を紡ぐ。
「始めての冒険を終えた今、ニャンニャーからみんなに言っておきたいことがあるニャ」
小さい背丈で精一杯胸をそって尊大にムーニャはスピーチを始めた。
「えー、我らHDクラッシャーズは結成したばっかで信頼もクソもなかったニャ。勿論連携もグタグタな感じでハリボテパーティーだったのニャー。でもでもー、迷宮探索と三回の戦闘を経ていっちょ前に戦えるようになって試行錯誤で連携も割かし取れるようになったニャ。
最後で怪我人が出て、パーティーの雰囲気が敗走したみたいなくらーいものになっちゃったけどそれは誤解ニャのです。最初の冒険で死者が出ないだけですごく立派ですごい事なんだにゃ。
だからニャンニャーは冒険者の先輩としてこう言いたい。みんなグッジョブ!!!」
片目をつぶり、親指の肉球をビシッと見せつけてやり終えた満足感たっぷり顔のムーニャはスピーチを終えた。ただ残念なことにありがたいムーニャのお話は疲れのたまった五人の情感に感動を呼び起こさず――何様だこいつうぜぇ、という感想しかもたらさなかったようだ。
地面をこする音が消え青銅の扉が開いた。といっても人一人分がやっと通過出来る程度のものだ。
向こう側に偉そうな意匠の兜の兵士が腕組みをしてこちらをうかがっている。むさ苦しいひげ面の中年男性の出迎えではあるが、地上世界への架け橋たる彼のご尊顔は六人に死の底からの生還を強く実感させた。
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ブラウスのHPは0になったがまだ死亡はしていない。ドラクーエドリィではLPというシステムがあるのだ。これはライフポイントといい、この数値が0にならないかぎり冒険者は死なないのだ。
どういうシステムかというと、まずHPが0になっても瀕死として処理され、行動不能になるだけだ。この状態ならば薬草や呪文等のHP回復手段ですぐさま復帰出来る。
この瀕死状態から、さらにとどめの一撃を食らうとLPが1減る。LPが0になると死亡となる。戦士を除きレベル1はLP1。レベルが上がれば増えていく。
おそらくこのシステムのキモは、冒険者を一撃死させるような理不尽な戦闘力を持つモンスターを出現させてもゲームバランス崩壊をそれなりに防ぐ事ができる、という事だろう。
ゲーム後半でそういうモンスター出しますよ、と今から宣告しているようなもんだなこれ。
ちなみにこのLPシステムは原作の類似作品でよく登場する「食いしばり」というスキルが元ネタだろうたぶん。このスキルはHPが0になっても一定確率で生き残れる便利なスキルだ。




