二十五話
悲鳴と嗚咽が入り混じった唸り声を上げ、ジェラートが突撃し抜けた前衛を埋める。マジックユーザー向けの華奢な杖を棍棒がわりにがむしゃらに振り回している。武の冴えのかけらもない素人の動きだがブラウスに致命の一撃を与えた追い剥ぎをバックステップさせさらなる攻撃を防いだ。
だが司教の生兵法では一時の時間稼ぎにしかならぬ。このままではジェラートまで曲刀の錆にされてしまう。まもる、としあき の技量では目の前の敵を抑えるのに手一杯だ。
この危機を打破するすべは呪文しかない。ムーニャの【ブラーヌ】が満を持して発動した。
「ん゛にゃー」
ムーニャの必死の掛け声らしい鳴き声を乗せて紫の雲が追い剥ぎ3体の顔面を覆う。まもる は祈った。としあき は歯を食いしばり、キンコは片目をつぶった。
おいはぎは まぼろしにつつまれた!
おいはぎは まぼろしにつつまれた!
おいはぎは まぼろしにつつまれた!
としあき は機を逃すまいと体ごと前にグググイッと押し出し全体重をかけて無防備となった追い剥ぎを突く。ロングソードの先端が心臓にねじ込まれる。
まもる と正対していた盲目状態の追い剥ぎの首を薙ぐ。覆面が宙に舞った。
ジェラートは己の命を顧みずブラウスにかけより回復呪文【ホミィ】をかけていた。背中に押し付けた両の手のひらよりあわい光があふれ出る。
まったくの隙だらけであったが盲目呪文の効果は劇的であった。最後の追い剥ぎの一撃はあらぬ方向に空振りする。
後は掃討にすぎない。戦士二人の攻撃により死を振り撒いた追い剥ぎ――バンディットは全滅。残った正体不明の枯れ草も剣で突かれて動きを止めた。
HDクラッシャーズは勝利した。
ジェラートは泣きじゃくっている。嬉し涙だ。ブラウスの傷は完全ではないが塞がれ、流血は止まった。ジェラートは鼻声で馬鹿馬鹿馬鹿と連呼してブラウスを罵倒している。
意識を取り戻したブラウスは青い顔だ。さすがに堪えたようだ
「はは…、かっこわるいなあもう。」
「馬鹿馬鹿馬鹿、だから前に出過ぎるなってあれほど、ヒック、うぅ」
ブラウスはジェラートの献身に照れている。
しかし彼女のちゃらい精神はそのようなしんみりとしたムードにを耐えられなかった。ブラウスは倒れたまま手をジェラートの顔に伸ばし人差し指で涙でぬぐった、りはせず赤いほっぺをぷにっと突っついた。ブラウスはいつもどおりにニカッと笑った。
他の人間には馬鹿っぽく見えるだけの面だったが、ジェラートにはそれが夏の太陽のように感じたのだ。濡れた双眸は乾いた。




