二十四話
薄暗い通路の奥から殺気の主が現れる。
見窄らしいボロを纏った追い剥ぎ共だ。目の奥に狂気が宿っている。
彼らは当初、町外れを根城にする無法者にすぎなかった。まだ迷宮は出来たてで入場制限がなかったころ、刀折れ矢尽きた冒険者達を迷宮表層で狩り周り、その身にそぐわぬ財物を手にしていた。
しかし迷宮に長居しすぎたのだろう。今では迷宮の瘴気に精神を侵され迷宮の傀儡と化していた。
武器は錆びた曲刀。防具はない。しかし背にはためく継ぎ接ぎだらけのボロを左手に巻きつけ盾代わりとしていた。
ボロを纏った追い剥ぎは四体いる。さらにその背後に地べたを這い回る物体が二体見えた。計2グループ。だが危険度は比較にならない。ジェラートは追い剥ぎに全力攻撃をパーティーに指示した。
「キンコは【マギ】、 ムーニャは【ブラーヌ】を追い剥ぎへ! 私も【ロギ】で援護します! 前衛は守りに徹し呪文発動後一斉攻撃に移りなさい!」
言うやいなやジェラートは呪文詠唱にはいる。信仰力により神々の奇跡を顕現させる僧侶呪文だ。呪文の完成が近づき疾風がジェラートの杖に集まっていく。
風属性の攻撃呪文【ロギ】が発動し真空のかまいたちが追い剥ぎ襲いかかる。見た目は派手であった。しかしその内の一体の肩口を軽く切り裂いただけで終わってしまった。カス当たりというやつだ。
巻き起った一陣の風を合図に戦端が開く。喚声もなく四体の追い剥ぎの突貫が前衛三人の壁にぶち当たる。振り落とされた曲刀がガリガリと頑丈とは言えぬ革の盾を削っていく。
前衛が稼いだ時間を糧にキンコが【マギ】を撃つがこれもカス当たり、ムーニャが唱えた【ブラーヌ】も誰をも盲目状態にすることなくその効果を失った。
この結果を舌打ちで評しつつブラウスが前に出る。遠心力をたっぷりと乗せたメイスの一撃が円を描く。しかし腕に巻いたボロに防がれてしまう。ゴシャリと腕が割れる音が響く。常人ならば痛みであえぐところだが狂気に浸された彼奴らは意に介さない。
まもる としあき の攻撃も凌がれてしまい、前線は膠着状態に陥る。防具を削る剣戟音だけが木霊する。
再び後衛の順番が巡ってきた。
ジェラートは間接攻撃武器を購入しておけばよかったと思いながら貴重な魔力を消費し、【ロギ】を放つ。追い剥ぎの一体の胸を深くえぐる。だが倒れない。――くそったれめ、とジェラートは普段ならば控えるだろう下品なスラングを思わず口にする。切羽詰まっているのだ。
青肌の娘は止めを刺そうと最後の魔力を消費して【マギ】唱える。しかし足を軽く焦がしただけで終わる。これで打ち止めだ。もはや前衛が倒れない限り立ってみていることしか出来ない。
旗色は悪い。だが燃える。ブラウスは昔を思い出していた。
幼少の内から神官戦士であった義兄に厳しい訓練を受けてきた。このような逆境をいかに乗り越えるかも身を持って教えられてきたのだ。
手は二つ。一つ、別方面からの攻勢に切り替える。二つ、己の我道を貫き通してゴリ押し通る。
ブラウスの性行からして取りうる手段は後者に決まっていた。会心の一撃をメイスに込める。狙いは盾となるボロを包んだ腕だ。
ブラウスは おいはぎを はげしく たたいた!
バキリという音と共に追い剥ぎの腕がへし折れブラリと垂れ下がった。返す鈍器でなぎ払う。追い剥ぎの額が陥没する。輝くゴールデンブロンドをたなびかせブラウスは楽しそうに口角を引き上げた。
そして油断した。ブラウスは、いや他の五人もだが、戦場の端で意味なく彷徨いていた思わぬ伏兵について完全に頭のすみから存在を忘れていた。
二体の地べたを這い回る物体だ。その一体が大きく踏み込んだ体勢のブラウスの足元に忍び寄る。
ガクン! 何者かに足を掴まれる。いや性格には足が床に張りついようだ。ブラウスは堪らず転倒し己の足元を確認する。
――こいつッ!? スライムじゃないっ!
地べたを這い回る物体は、はたして最初の部屋で遭遇し苦もなく討ち果たしたプチスライムではなかった。正体は解らない。枯れ草を丸めたような外見だ。
その何者かが床と左足のくるぶしにはりつき、ブラウスを縫いつけていた。
そしてさらなる危機が忍び寄る。転倒し両手をついたブラウスの無防備な背後に狙いをつける。ブラウスが身につけている革の胸当ては背部を防護していない。
曲刀の切っ先を突き立つ。トサと軽い音をたてブラウスの全身が地に横たわった。
当人の代りのように非常なる現実を目にしたジェラートは悲鳴を上げた。
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三戦目で追い剥ぎに遭遇した。ついに登場した盗賊系モンスターだ。このゲームには最序盤の強敵は盗賊というお約束があるのだ。心してかかろう。
前衛は普通になぐり、後衛は呪文を全開だ。ジェラートも【ロギ】で攻撃だ。回復呪文の使える回数が一回減るがまず敵の頭数を減らすのが重要なのだ。
1ターン目。
呪文が盛大に空振る。攻撃呪文はカス当たり、【ブラーヌ】は効果が無い。前衛はどうやら技量が拮抗しているらしく。一進一退だ。としあき が1ダメージ食らったのみ。
2ターン目。
あ、やばい。
雑魚敵とあなどっていた地べたを這いずる物体が強敵だった。不確定グラフィックがプチスライムと同じとかいかんでしょこれ。
設定メモで調べてみたがどうやらこいつの正体はローリングブッシュ。見た目は西部劇映画でよく転がってる枯れ草の塊だ。
こいつの生態は小動物の死骸に張り付き、中心部にある種を植え付けるというものらしい。タンポポの種みたいな奴だ。なぜか冒険者の足を死骸と勘違いして張り付き身動きを取れなくして1ターンの間行動不能にしてしまう。
ドラクーエドリィで行動不能は原作と同じで、回避力が0になり、通常攻撃ダメージが二倍になってしまう。HPが一桁の最序盤ではまさに致命的な特殊攻撃だ。名称がブッシュとあるので初代シリーズⅠのあいつを意識しているのだろう。
案の定、行動不能になったブラウスが追い剥ぎから一発貰い、HPが0になってしまった




