二十三話
動かなくなった巨大蟻――フレッシュアントを切っ先で小突く。どうやらきっちり死んでくれたようだ。まもる は一息をついた。
やはりオークのような人型の敵より、この蟻のようなモンスター然とした敵を相手取った方が心情が楽かもしれない。死体を見聞しても罪悪の意識はそれほどでもなかった。
剣にこびりついた乳白色の体液を振って落とす。さきほどの剣越しに伝わった感触が思い出されてきた。固い外殻、中はドロリとしていて…
としあき が歩み寄り話しかけてきた。
「やったな。いい太刀筋だった」
拳をこちらに向けてきたので、まもる も拳を向けてコツンと突き合わせ二人は笑い合う。少し気分が晴れた気がする。うん余計な事を考えるのは帰還してからにしようか。まもる は賞賛に謙遜で答えた。
「いやあ、俺のはそれほどでもない。位置がよかったみたいだ。キンコの呪文で殻が弱くなった部位を狙えたし」
キンコが目をキラッキラさせながら目ざとく聞きつけてやってきた。相変わらず足音がドスドスとうるさい。かなり興奮していて鼻で息をしている。さらにうるさい。
「ムハハー。そうでしょう。そうでしょう。なにせ私の必殺呪文の威力ですからね。これからはドンと任せてください! 天才頭脳派魔法使いキンコさんをよろしくっ!」
満面の笑みで存分に調子に乗っている。ドヤ顔うざいなあ、と二人は思いつつ適当に褒めておいた。
ドアの先は前と同じく何もない玄室であった。六人はマナメタルを回収、宝箱を放置し玄室を出た。
前衛三人は無傷。僧侶呪文六回。魔法使い呪文が四回残っている。余力は充分。探索続行だ。行き止まりだった通路を出て右、再び北の道へ進路をとる。
しばらく歩くと東へと続く曲がり角にぶつかった。右折して一歩進むと左の壁にドアがあった。今は右手法で探索しているのでそのまま通路を進む。
最初に気づいたいのはブラウスだった。迷宮特有のよどんだ空気がすこーし綺麗になったと述べた。五人にも通路前方の雰囲気が変わるのがわかる。
警戒しつつ進むと一行は広い空間に出た。夜光石の淡い光も互いに反射しあい強まっている。すこしだけ通路より明るい。少し辺りを探索してみると床にゴミが散乱している。内容を見てみると他の冒険者が捨てていった消費アイテムの残りカスのようだ。価値はない。
マッピングしてみると縦に長い空間らしい。マッパーのムーニャによるとこの空間は地下一階中央を南北に両断し、西と東のエリアに分断しているようだ。
新たに三つのドア。二つの通路を発見した。リーダーであるジェラートは今日の探索の中止を提案した。――これ以上は深追いだろう。さきほど通り過ぎたドアを開けて戦闘したら帰還しよう、と。
特に反対する意見も出ず、真っ当な提案であったのでそのようになった。
来た道を戻るだけだからだろうか、一行の気の張りようは緩まった。その油断を見透かしたように、そして罰するかのごとく広間を一歩出ると向こう側から敵意に満ちた集団が現れた。
正体は不確定だ。しかし纏う殺気はオークや蟻とは比べ物にならぬ。




