二十二話
ドアを開けるにいたってジェラートは問題児対策を一計した。ブラウスを一歩下がらせる。これだけだ。迷宮は狭い。いくらブラウスの脚力が秀でているといっても大の男二人を押しのけて突出することは難しい。
ジェラートはパーティーに目を配る。皆の準備は整ったようだ。
「よし派手にかましてくれ、としあきっ!」
ドガッ。としあき がドアを蹴り開けた!
空中に召喚陣が現れ赤く輝く。モゾモゾとうごめく人あらざるものが現れる。
それは一体の巨大な蟻だった。固そうな外骨格には得物の返り血が張り付き、複眼は攻撃色の赤がギラついている。六本の足で床を鳴らしながらこちらに近づいてくる。
ジェラートの指示が飛ぶ。
「キンコは【マギ】を唱えて攻撃。呪文の着弾を合図に前衛は斬りかかりなさい。敵は一匹。包囲してかかれば怖くはない」
指示を受けキンコは呪文詠唱に入る。手に汗握る。戦闘民族であるギガンテス族なのだから戦いの機会はいくらでもあった。しかし初の呪文使いとしての実戦であり、知恵と魔力が物言う世界なのだ。
慎重に、一言一句神経を入魂し詠唱する。脳に記された呪文領域を解き放ち火の初級攻撃呪文【マギ】を唱える。
無事にやりとげたようで魔力を媒介する太い杖の先に力が宿る。後は発動するのみ。
「原初を打ち開く炎よ。我が敵を撃てっ! マギ!」
火球が一直線に巨大蟻に伸び、突き刺さる。見事に命中した。敵を炭と化す、とまではいかないが巨大蟻の頭部から右前足にかけてを火に包む。
巨大蟻はギチギチと悲鳴を漏らす。強靭そうな大あごの右半分は焼き溶けて使い物にならなくなっていた。好機を逃さず前衛陣が勇躍する。
まもる としあき ブラウスは弱った単騎の敵を包囲してタコ殴りにする。ブラウスは昆虫相手では気分がのらないのか己に与えられた仕事だけをきっちりこなしている。
最大の武器である大あごを失い、数の上でも負けている巨大蟻に勝機はまったくなかった。残った足を斬られ殴られ動きが鈍った所を正面に陣取っていたまもる の一撃が神経の集合たる頭部を両断する。
特にピンチもなくHDクラッシャーズは二戦目も勝利を飾った。キンコが珍妙な発音の勝利の雄叫びを上げている。言っては悪いが蛮族っぽい。
キンコは初の呪文に興奮しているようで盛んに口を回し握りこぶしを胸の前でブンブンと振って心情を表わしている。とても嬉しそうだ。
「やった、やったよー、これから知恵あるギガンテスの時代が始まるのだ~」
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【マギ】は炎属性の攻撃呪文で敵一体にダメージを与える。最弱の攻撃呪文で序盤すらろくに使う機会はない。しかし知恵の特性値がギリギリしかないキンコはこの呪文しか覚えなかったので使わざるをえない。
脳筋種族を魔法使いにするという趣向にちょっと後悔。さっさとレベル2になって【ブラーヌ】を覚えてほしい。




