包囲
――1940年7月20日 オーステンデ、白海軍第2艦隊旗艦バーデン(元)
「この数日ブリュッセル=ヘント間の鉄道の活動が活発化しています。ヘント方面の塹壕線での動きも見られ、なんらかの攻勢を企図しているものと思われます」
「規模は」
「小規模な部隊による浸透から、師団規模の突破を図る可能性があります」
「こちらの前線の状況は」
「最前線は配置も薄いので容易に突破されるでしょう。本格的防衛戦は艦隊の射程に入ってからということになります」
「射撃中に敵機が来るとまずいね」
「各砲塔内のホイスト上にある40発を発射するには10分程度かかりますので、GL Mk. Iレーダーの最大探知距離である40kmで発見しても、爆撃が着弾する4分後には砲塔内に20発以上が残ることになります。敵機発見3分後の砲塔内の弾を1発以下に抑えるなら、各砲6発以下の即応弾、以後8分に1発の発射となります。この場合、敵機来襲時には即応弾すべてを発射する必要があります。この設定でも艦隊全体で主砲64門稼働可能ですので即応384発、以後毎分8発発射可能です。即応弾だけでも数個師団規模の攻勢は制圧できますが、それを大きく超える規模ですと効果に限界があります」
「15個師団が40個師団に包囲されていることを考えると不安があるが、全力での攻勢となれば、隠蔽や陽動はできんだろうから、全力で揚弾して毎分128発を発射すれば、毎分1個師団制圧できるということか。航空偵察の強化と情報提供者の確保を進めよう。低空侵入に備え、見張り員と聴音機の増強も必要だね」
――1940年7月21日 第2航空艦隊司令部
「長官、戦線後方への機動誘導灯の配置が終了しました。Knickebeinビームによりヘント東方の誘導灯群まで誘導、誘導灯により目標に向け旋回したのち、爆撃時機指示灯1を通過後、指示灯2通過までの時間を測定、爆撃時機を算出することになっています」
「いいね。浸透攻撃のほうは」
「順調にすすんでおり、イーペル北方では白艦隊まで31Km、想定される射程内に入っています。敵の抵抗が強固になってきておりBEFの部隊が確認されています」
「浸透攻撃に合わせ夜間の散発的高高度爆撃を開始する」
――1940年7月22日 オーステンデ、白海軍第2艦隊旗艦バーデン(元)
「昨夜の被害は」
「高高度少数機による散発的爆撃ですので今のところ大きな被害はありませんが、着弾精度は高く、いずれ被害がでるでしょう。侵入コースは攻撃ごとに変化しますので、主砲による迎撃は不可能です。GL Mk. Iレーダーの管制による、QF 3.7インチ高射砲による対空射撃も試みていますが、発見が遅く高度6000m近くで侵入するため、各砲数発しか撃てず撃墜はできていません。爆撃が散発的かつ長時間にわたりますので、レーダー誘導による夜間戦闘機の、艦隊上空での迎撃が有効と考えます」
「重砲のほうは」
「28cm列車砲1門でヘント=ブルージュ線の側線から射撃したと思われます。5分間隔で3発だけ射撃を受けました。被害はありません。何らかの問題が発生して射撃を中止したものと考えられます。射程外ですので、本格化するようなら、列車砲あるいは鉄道に対する航空攻撃が必要です」
――1940年6月
「Freyaレーダーに10機程度の感あり、オーステンデに向かっています。夜間戦闘機と推定」
「Ju88Cにより迎撃」
「Wurzburgレーダーで捕捉、襲撃します」
「Blenheimと確認、8機撃破2機逃走」
――1940年7月23日 Downing 10
「首相、白では現状、敵の圧力によりゆっくりと戦線が後退しております。白艦隊が顕在であるかぎり戦線の崩壊はしませんが、特に夜間の防空に限界があり、艦隊の戦力は低下していっています。一時的にでも艦隊の戦力が失われれば、戦線の崩壊、地上部隊の壊滅も考えられます。艦隊が戦力を維持しているうちに、BEF部隊を撤退させるべきです。撤退自体にも危険は伴いますが、現状なら白軍だけでも数日なら戦線を維持できると」
「白を見捨てて、BEFを脱出させるということはできない。仏を失った今、英連邦外最後の同盟国を失うというのは非常に大きな損害なのだよ。白艦隊にも非常に大きな価値がある。もし独陸軍主力の攻勢にたいして30分射撃できれば、この戦争はそこで終わる。独軍の数が多いのは動員が進んでいるからであって、今後いくらでも動員が効くわけではないのだよ」
「白の価値については了解いたしましたが、あまりに多くをそこに賭けるのは」
「本土が比較的安全なのは、独が白を目標としているからではないかね。ロンドンや工場群が夜間爆撃の目標になって、これに対抗できないということになればより大きな問題だろう。防空が問題ならChain Homeレーダーや夜間戦闘機の大規模な投入でも改善するのではないかね」
「Chain Homeレーダーは設置に時間がかかります。beaufighterも少数機が完成しているだけですし、現在のAIレーダーでは接敵が困難で敵夜間戦闘機に対抗できません。AI Mk IVの実戦配備は最優先で進めていますがまだ数カ月かかります」
「鉄塔も電源もあるのだから、単に載せるだけだろう。Chain Home Lowだけでも進めたまえ。敵は地上のレーダーで誘導しているのだろう。こちらも地上レーダーでの誘導を進めるべきだ。全体に空軍はもっと積極的になるべきだと考える。昼間の制空権が維持できているなら、列車砲や独空軍基地の攻撃も可能ではないかね」
「昼間戦闘機部隊はフランスでの消耗から回復中で、積極的使用はできません。機体の生産も工場の夜間爆撃によって遅れがでていますし、搭乗員の訓練には時間がかかります。このため今後陸上部隊が本格的に動いたとき、白上空に戦闘機を出すのは不可能です。実のところ、昼も制空権をとっているというより、単に独が攻勢を避けているので、現状投入している少数のHurricaneで抵抗できているというだけのことです」
「それでは本土上空に爆撃機が現れたときにはどうするというのだね。それでも戦闘機部隊の温存を図る必要があるというのなら、何機あっても意味がないだろう」
「それはもちろん防空にでます。たとえ撃墜されても搭乗員の生還が期待できますから」
「では、白上空にもSpitfireを出したまえ。爆撃機部隊に消耗を強いれば、こちらの航空機工場への爆撃も減るだろう。そもそも白艦隊が100機撃破していなければ、状況はさらに悪化していたはずなのだ。搭乗員が足りないというならポーランドやチェコの義勇兵もいるし、支配地域の上空だけでもかまわん」




