緊急事態
8月15日 0時
壁掛けTVからは、男女の迫真の喘ぎ声と、荒い息遣い、そして二人の営みに揺すぶられたベッドがギシギシと軋む音が聞こえている。
そんな環境音が流れる中、私はソファの上に髪を乱して仰向けに倒れこんで、突如肩を押して覆い被さって来た男の子の様子に目を見開いていた。
その顔は真剣なだけでなく、何か凄く…誤解を恐れずに言ってしまえば『怖い』ものだ。
その時初めて、耳に届いていた荒い息遣いがTVの男性俳優さんからのものではなくて、目の前の男の子からのものであるのを理解した。
彼に「ぎゅ!」ってしてもらおうと考えて、バスタオル一枚でお出迎えしていたはずなのに、私の表情は硬くなり、怯えを滲ませる態度を見せてしまう。
海斗くんは、ブルブルと震えていた…。
16歳の男の子は、ゴクリとつばを飲み込んだ後でタオル越しに私の胸に掌を添えて、瞬時に私の肌が燃える。
「あ…」
強く激しくおっぱいを揉みしだかれ出すのだろう…と思っていたら、彼は苦しそうに呻き、表情を引きつらせてすこし静止したあとで、ぎゅ!と乳房を包んでいたタオルだけを握り、私の身体が浮くくらいの強さで一気に引っ張った。
♠
雫さんの顔から少女性を漂わせていた小悪魔的な笑顔が消えていたのは分かっていた。
恐怖に凍り付いて大きく見開かれているその琥珀色の瞳の中に、ギラギラとした目つきをしている男の姿がある。
今の僕が親の仇を睨むかのような酷い形相になっている事は自覚していた。
彼女を怯えさせる気はないが、でも僕はもう止まれない。
彼女を『少しは懲らしめてやろう』と思っていた。
わかっている。
雫さんを見て欲情に駆られた男が、悪意を持って近づいたら、彼女一人で抵抗できる範囲は知れている。
今回の件でも、彼女は最初から加納省吾を危険視していたし、愛嬌を振りまいて彼を呼び込んだわけでもない。
まさしく危険な男の方が彼女を見つけて近づき、卑劣な罠にかけた事例なのだ。
雫さんに落ち度なんてない。
理性ではそう分かっていても、先ほど見てしまった痴漢被害画像が目に焼き付いてしまっていた。
痴漢されているのに。
他の男に触られているのに。
大勢に見られているのに。
エロい顔を作って股を濡らしてしまっていた彼女の姿に、この女は俺のモノだと言わんばかりのどす黒い支配欲が湧き上がってくる。
そんな傲慢な感情を抱いてしまっているから、誰よりも傷付いているのは彼女である事は痛いくらいに分かっているにもかかわらず、どこか裏切られたような…自分だけは彼女を責める資格があるような気分になっていた。
キツクお仕置きをしてやる。
16歳の「橘海斗君」だからと、無防備にバスタオル一枚姿で甘えて来た成人女性に、当然の対応を返してやる。
僕はタオルを剥ぎ取ろうと彼女の胸に触れた。
雫さんはビクンとその身を仰け反らせて吐息を漏らし、まるでこちらの手にその大きなおっぱいを押し当てる様に差し出してくる。
その様が凄く可愛く愛おしく、そして同時に憎らしい。
めちゃくちゃにしてやりたくなる。
この人になら欲望をぶつけてもいいはずだ。
文句は言えないはずだ。
泣かれても喚かれても構うもんか。
それが雫さんの今後のためにもなる。
『全部が終わったら責任を取る代わりに、男の怖さを教えてやる──』
そんな思考に陥りながら、乳房を揉みしだきたいのを堪えて、タオルだけを掴み力任せに引っ張った。
彼女の身体を包んでいたそれは、滑らかにシュルリと解けるのではなく、一度突っ掛かり、彼女の身体ごと一度持ち上がるように動いてからバラリと解けた。
タオル生地が擦れてどこかに小さく火傷をさせてしまっただろうか、彼女の顔が苦痛に歪んだのを見て「あ、まずい」と思ったが、彼女を抱くには怒りのボルテージの助けが必要だったので、それに気付かぬ振りをしたまま、その裸体を一望する。
汗ばんだ白い肌がほのかに赤に染まり、乳房がたぷんっと揺れて左右へとその形を崩す。
目を引く乳輪は奇麗なピンクで、そして本能的に奥歯で甘噛みしたくなるような大きさと形の乳首がツンッと勃起して僕を誘っていた。
視線を受けた彼女のお腹が恥ずかしそうに動いて、腰から太腿にかけての曲線が、驚くほど艶めかしい。
お臍の下から流れた汗と一緒に視線を下げて少しボリュームのある下腹を辿ると、そのお肉を受け止めるようにぷくっとした恥丘があり、陰毛が彼女の大事な所を隠そうとしていた。
女性の裸を見るのは初めてじゃない。そんなものはネットで幾らでも見れた。
しかし、実際に目の前にした雫さんの身体のあまりの生々しさに、息をするのを忘れて圧倒される。
そんな彼女の身体から甘い香りが立ち上って、僕の全身を包んだ。
股間が痛みを伴う程に怒張して、忘れていた呼吸を思い出した僕は「ぶは!」と息継ぎをしながらズボンに手をかける。
女性に男性器を見せるのは当然だが初めてで、躊躇する気持ちもゼロではない。
それでも今は暴力的な気分が遥かに勝っていた。
こんな時に限ってベルトが外れず、力任せに引っ張るとどこかが裂けたような音がした。
武者震いしながらズボンを下ろすと、その下のボクサーパンツはもう性器を収めきれなくなっていて、臍まで反り返った赤銅色のペニスが情けなくカウパーを零しているズル剥けた頭をのぞかせてしまっていた。
パンツに手をかけて、身体の下に横たわっている雫さんを見ると、彼女は頬を真っ赤にさせながら肌を上気させ、震える息遣いをしながら恥ずかしそうにその瞳を潤ませてこちらを見ていた。
それは信じられない位にエッチだった。
❤
最初はこのまま首絞めセックスでもされるのかと思う程の男の子の勢いに、心臓を掴まれたような恐怖を覚えた。
でも、タオルを剥ぎ取り私を全裸にした彼が文字通りに息を飲み、その目を欲望に輝かせる様子を見ていたら、最初に身体が変化して彼の為に濡れだして、次に心が変わっていった。
恐怖が薄れてこれから我が身に降り掛かる暴力的な営みに対する期待へとすり替わり、羞恥と一緒に愛されるために可愛くあろうとする私の性癖の根幹がどんどん大きくなっていく。
海斗くんは猛然とベルトを外して、下着に手をかける。
ぎゅっと身体が身構える。
私、今日…16歳の男の子とエッチしちゃうんだ。
海斗くんには出会ってすぐに心惹かれて、1ヶ月近く視線で追い続けていたけど、お話をしてから10日で彼に裸にしてもらったんだ。
私を見る彼の視線に絡めとられて、恥ずかしくて、とてもじゃないけど「来て…」なんて口には出せなかったけど、それを態度で示して返した。
そんな淫らな私に応えて、海斗くんの目が欲望に燃える。
はぅううん! 私本当に海斗くんとエッチしちゃう!
火照った頬を両手で押さえた。
もう心臓が止まりそうで、自然と私の息も弾んで、キス待ちみたいな顔にされちゃう。
これ恥ずかしぃいい!
人生最悪とも言える痴漢被害にあったその日の夜に、そんな忌まわしい記憶を根こそぎ上書き出来る程の、『初体験』がある。
だ、大丈夫かな?
上手く彼の欲望を受け止めてあげられるかな?
私は7歳上のお姉さんなんだから、もし彼が上手くできなかったとしても、ちゃんとフォローしてあげないと。
やぁん。でも海斗くんのすっっつごい大きそうだから私に余裕なんてないかも…!!
アヘリ散らかしてドン引きされたら、本当に死ぬしかない。失禁とか絶対したくないけど、自信ない。
もういい兎に角なんでも。彼のしたいことなら、なんでも…!
胸がいっぱいになって、涙で滲む視界の中で男の子がパンツを脱ぐのを見る。
ブルン!! とバネ仕掛けの跳ね橋が持ち上がるみたいにそのペニスが持ち上がり、バチンと彼の腹筋を叩く。
ぱっと飛び散った無色透明な体液が、一文字に私のお腹の上を走る。
彼のソレは、思わず両目を内側に寄せて凝視しちゃうくらいに大きく太く逞しかった。
そして──。
「ぐああああああああ!!!!」
突然彼が激しく呻きだして、目の前でビクンビクンと破裂しそうなほどに膨れて血管を浮きだたせた男性器を蠢かせながら先端の艶々したプラムみたいな鈴口からビュビュ!ビュルルル!と凄い勢いで白く濁った精液をほとばしらせ始めた。
「う、くあ!」
海斗くんは端正な顔をちんちんに負けないくらいに真っ赤に歪めて、痛みを堪えているみたいに額に汗を浮かべている。
歯を食いしばって首を強直させ、腹筋を浮き上がらせている彼の様子は、なんかブルルルン!!みたいな、発電機とかチェーンソーとか、オートバイのエンジンの始動音に似たような音を幻聴で聞くほどの迫力があった。
男の子は制御できないペニスに振り回されるかのようにその腰をヘコヘコと動かし、その度にビュ!ビュ!と射精して、私の身体の上にねっとりと生臭い体液を振りかけ続けてる。
漫画の影響でもっと熱い体液なのだと勝手に妄想していたけど、驚くくらい優しい冷たさに感じられる精液が、頬に、胸に、お腹に、そして下腹にと振りかけられ、お臍の穴にも貯まる中、私は目の前で何が起きているのか分からず、彼の身体を心配したまま固まっていた。
「はぁ…はぁ…」
暫し続いていた射精が途切れ、彼の巨根がヒクヒクと上下し始める。
四つん這いのまま顔を歪めて呼吸している彼の下から這い出して、「くるしいのかな?」と考えてその背中をさする。
どう接するのが正解なのかわからないので、「大丈夫?」と声をかけるすら事も躊躇われた。
「ゔぅ!!」
彼がまた大きな声を出したのでびっくりして、手皿を作って16歳男子のちんちんの先っぽにサッと差し出し、手の平にいっぱいの精液を受け止めた。
深夜1時──。
抜け殻のようになってしまった男の子をひとまず浴室に送って、私はスマホを弄って色々なサイトをめぐり、目の前で起きた男性の症状が世に聞くところの『早漏』なのだと知った。
「挿入してすぐにイッちゃう事なんじゃないの!?」
男性の神秘に思わず口元を両手で覆う。
私の友達、対話型AIさんによると、『初めての性交渉では、男性は想像以上の緊張と強い性的刺激を受けます。病気ではなく、誰にでも起こり得る生理現象です』とのことだった。
更に注目すべき事項として、『その男性は物凄いショックを受け、プライドが傷付いてしまっているから、しっかりとケアするように』との提言がなされていた。
はわわわ! と大いに焦る。
え? どうしよう?
パニックのあまり何でも知ってて何でも何とかしてくれそうな神代に電凸しそうになる。
今まさに五味らを罠に嵌めているであろう所に私が緊急電話して、『海斗くんが早漏になっちゃった!!』とか泣いて縋りついたら多分絶交されただろう。
「海斗くん…」
心配して浴室を見つめつつ、はたと自分の周囲に漂う匂いに気付く。
よく「男子がイカ臭いw」とか言って笑っている一軍女子らの会話を耳をそばだてて盗み聞いていたけど、身体に付着したそれを掬い取って嗅いでみると、どっちかというと塩素系漂白剤みたいな感じがした。
癖はあるけど、それが海斗くんのものだからか、汚いとは思わなかった。
彼が沢山射精した場面を思い出してキュンキュンしながら、指先を口元に運んで舐めると、甘党の私には甘みは全然感じなくて、苦味の中にほのかな潮味のある生臭さが広がる。
直後にそれが自分の大好きな味だと分かってしまった。
海斗くんの脈打つ海洋生物みたいなペニスを思い出し、あの呻き声と辛そうな顔を思い浮かべつつ、ドキドキしながら肌をなぞって海斗くんの精液を集め、それをローション代わりにしてクリトリスを摘まむ。
「ひん…❤」
これを触った手でオナニーしたら、子供が出来ちゃうんだろうか。
浴室に彼がいるのに恥ずかしい行為が止まらなくなり、男の子が浴室から戻ってきてしまう場面を想像して恥辱に震えながら3度アクメする。
その時浴室からの物音が聞こえて、今はこんなことせずに海斗くんを心配しなくちゃと下腹に力を籠めて立ち上がり、急ぎオーバーサイズのシャツと、マキシ丈のAラインのスカートを着こんで雑に身体を隠すと事務所を飛び出す。
お向かいのコンビニに駆け込んで、掴んだ男性用のパンツとシャツをセルフレジに通そうとしてやっぱり精算エラーを出されて、仕方なくレジに持って行く。
いつもの男性店員に、深夜の二時に男性用パンツを買いに来て本当にすいませんね!、と逆ギレ気味に商品を突きつけて急ぎ事務所に戻ると、ゾンビのようになった海斗くんが着衣を済ませた姿で浴室から出てきていた。
彼は12Rで全力を出し切って戦って負けて戻って来たボクサーのようにタオルを頭から被り、力なく所定の位置に座っている…。
私にも経験が無さ過ぎて、どう接していいか分からない!
「あ。出たの? じゃあ、お部屋まで送るね?」
彼はこくりと頷く。
冷たく冷えちゃっている彼の手を引いて地下駐車場へ降りる。
車に乗せてシートベルトを付けてあげてから運転席に乗り込み、夜道を飛ばして急いで彼の学生マンション前に着ける。
今度はシートベルトを外してあげて、支える様にエントランスまで寄り添う。
「だ、だいじょうぶ?」
またまたこくりと頷く彼に、「じゃあ、また明日ね」と笑顔を見せてからエントランス前の階段を下り、車に乗る前に振り返ると、海斗くんの姿はロビーには無く、無事にお部屋に向かったであろうと推察された。
私は事務所に帰った後で、冷蔵庫を開けて100%りんごジュースを飲んで一息つく。
つけっぱなしだったTVはいつの間にかローカル芸人がドタバタしてる番組になっていて、「ウルサイ」と言いながらリモコン操作でそれを消す。
そして窓に映る自分の姿を見てから頬を押さえてしゃがみ込んだ。
「え? 私たちこれで終わり?」
唖然と呟く。
だってもしかしたら彼を深く傷つけてしまったかもしれない…。
海斗くんにとって私は見るたびに苦い失敗を思い出す過去の女になり下がり、この事務所はトラウマの聖地として、見るだけでメンタルを抉る禁足地となる。
最悪「琥珀」のバイトも辞めちゃうかも。
「うそでしょ…?」
深夜3時、千駄木の静かな夜。
立ち並ぶ駅近ビルの中で一つだけ明かりが灯っている第三パラダイスビルの2Fにある事務所で、23歳の女探偵は一人頭を抱えたのだった。




