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一か八か

8月14日 19時30分


「雫さん、何かあったんですか?」

「え?!」


私が「琥珀」に入店していつもの座席に着いた後、ウェルカムコーヒーを運んできた海斗くんは、開口一番にそんな疑念を口に出した。

普段通りにしていたつもりだけど、やっぱりなんかヤバイオーラが出ちゃっているのかもしれない。

手鏡を出して確認しても自分では普通に見える…気がする。


「な、何か変かな?」


焦りを隠し笑顔で尋ねると、海斗くんは確信を持ってしっかりと頷いた。

それだけ私を理解してくれているのだと、勝手に解釈して嬉しくなる。

心配させまいと思っても、こんな状況では逆効果になってしまうだろうと考えて誤魔化すのを諦め、ため息をついて肩を竦めた。


「うん。まあ、ちょっと…ね。でも取り合えずの手は打ったから、それはもう気にしないでもいいの。それよりも野球観戦チケットのお礼をしたいから、今日もバイトの後で…上がって来てくれない?」

「わ、わかりました…」


素直に認め、でも追及はさせず矢継ぎ早にお部屋に誘うと、16歳の男の子は驚き、照れ臭そうに視線を泳がせつつも快く返事をしてくれた。

彼にとって、2Fの敷居はグンと低くなっているのだろう。

それはつまり、私があの手この手で彼を事務所に誘っている事の裏返しでもある訳で…。

きゃっ。恥ずかしい❤


「じゃあ待ってる。えーと、今日はガッツリ行きたいから、カレーライスと、ミルフィーユセットにしようかなぁ…」


私は笑顔で信頼している彼にオーダーを伝える。


「今日はっていうか、結構いつもガッツリですよね」

「あ、このっ」


彼は少しだけ私に意地悪を言って、楽しそうに戻っていった。

最初は…御三家と呼ばれる中高一貫に通う秀才で、フィジカル面でも色々とお願いできそうな男の子であり、「琥珀」でバイトする姿を見ると擦れてなくて真面目な年下クンだから、私みたいな陰キャでも関係を維持しやすいだろう…と考えて彼に助手の話をした。

助手になりますとは言ってもらえてないけど、その後にちょっと相談にのってくれないかと頼んだら引き受けてくれて…実際に接した彼は予想通りの良い子で、ピュアで、頼りがいがあって、そしてちょっとエッチで、驚くほど真摯で、一生懸命で、7歳も年上の私の身を懸命に守ろうとしてくれた。

まあ…好きになっちゃうよね。

一緒にいると気分が上がるし、今となっては少し彼に依存しているレベルで、勝手に密かな心の支えにしちゃってる状態なのだ。

様々なシチュエーションで夢にも出てくるようになってしまている海斗くん。

昨日なんか、私は高校生時代に戻っていて、クラスメートに彼がいて、現実とごっちゃになって大混乱…なんてのを見た。


「まいったなぁ…」


私は彼の背中を見送ってから、仕事をしなくちゃと頭を切り替え、ノートPCを広げて探偵日誌を書き綴り出す。

そして今回の加納省吾に係る件で私に残された仕事を考えた。

神代から聞かされていた作戦はこうだ…。

今晩五味達は不法投棄を行う。

その現場を警官に扮した神代らが摘発して、トラックを押収する。そして彼らを故意に逃がす。

五味達は車内に残した手がかりから事務所に踏み込まれ、お金の流れから加納省吾のペーパーカンパニーとの繋がりが明らかとなり、カノウ・エコロジクスを巻き込んだ大事件に発展すると予想して、急ぎ姿をくらますだろう。

由香さんの狙いはあくまでも加納省吾の不法投棄を秘密裏に止めることで五味らを裁く事ではないから、ここで彼らが東南アジアにでも高跳びしてくれればそれが一番良い。

その後由香さんと神代は、五味らが所持していた証拠と、黄金の車に入っていた加納省吾が不法投棄に関与していた事実を示す音声データを揃えて奴に突き付ける。

ちなみに、なぜあんな音声データを加納省吾が大事に所持していたのかと言えば、それは事が露見した時に、五味達に何も知らなかった、騙されたと主張させないための手段だったに違いない。

…ともあれ、こうして明日明後日にでも由香さんと神代は、加納省吾に言い逃れ出来ない証拠を突き付けて、不法投棄を止めさせるのである。


「でも…そううまくいくかな?」


神代の事だから何とかしちゃうんでしょうけど、相手はあの人格破綻者。

「この不法投棄が明るみに出ればカノウ・エコロジクスもお終いだぞ」なんて言いながら、盗っ人猛々しくも逆に由香さんを脅したりしそうなものなのだ。


「神代さん…奴を黙らせるのにどんな手を使うつもりだろう…」


そしてこの流れだと、私は最後の最後に、去勢されてやつれた加納省吾の前に姿を現し、行動調査の最終報告として、「ごめんなさい。やっぱり由香さんは浮気なんてしてなくて、一緒に居たのは探偵さんで、加納さんの社内犯罪について調べていたみたいですよぉ。加納さんこれから大変ですね★」と笑ってバイバイする事になるのが既定路線か。

うーん…正直もう少し奴を懲らしめてやりたい。

出来れば裸にして山手線に放り込んでやりたいが、それは無理だろうからせめてあの顔面に思いっきりパンチを見舞うくらいの反撃はしたい。

そうじゃないと私が可哀想すぎる。

そんな怨念を抱えながら、カツカレーとミルフィーユセットを運んできてくれた九条さんには上品な笑顔を作って会釈を返した。


「ああ、やっぱりいい香り」


おかわりしたくなるほど美味しいカツカレーを胃袋にしまい込んで、ミルフィーユを「私本当に食べたっけ?」って悩んでしまう程のスピードで平らげてから、食後のカフェオレに口を付け、いつもより混雑していて忙しそうな店内を眺めた。

静かな日常を愉しんでから時計を見れば20時を回っていて、私はそっと席を立つ。

カウンターの前で頭を下げて、もう普通に調理場に入っている海斗くんの様子を見ながらお店を出た。

22時からのお部屋デート気分に浸り、意中の男の子にお出しする用のチーズケーキを専門店まで買いに走り、事務所に戻るとまず掃除、そして私自身もシャワーを浴びる。


「はっ…!」


シャンプーしながらコーデはどうしようかと考えた時、禁断の「バスタオルを巻いたままお出迎え」って奴をやるチャンスなのでは!? と気付いてしまった。

この際なので、22時に彼が来るのが分かっていて「ごめんなさい! 今シャワー浴びてて」なんて言い出す事になる細かい整合性の取れてなさは無視してもいい。

寧ろ不自然な方が海斗くんに私の意図が明確に伝わるはずだ。

ここで私に気の置けない同志(女友達)なんかが居たら、「今日年下の男の子をお部屋に呼ぶんだけど…どうしたらいいかな? 」なんて馬鹿な相談も出来るんだけど、人生でそんな友達は一人も作ったことがない。

仕方ないから対話型AIに「今日の22時過ぎに男の子がお部屋に来るからいい雰囲気を作りたい。シャワー浴びてた風を装ってバスタオル姿でお出迎えするのって、アリかな?」なんて質問をぶつけて「アリだよ、かなり効果的!」というご解答を頂いた。






22時 泉美雫探偵事務所


20時前に雫さんに誘われてから、その日はなんだか色々と手に付かないままにアルバイト勤務を終えた。

閉店作業を終えて、九条さんに頭を下げて別れた後で、不忍通りから二階の探偵事務所の灯を見上げ、深呼吸してビル入り口に足を踏み入れる。

多少の緊張感はあれど、どちらかというと浮ついた気分の方が勝っていた。

僕自身、彼女一人の事務所に押しかけることへの抵抗がほとんどなくなっているのは驚きだった。

それを実感したのは昨日だ。

22時に皆でサクッと別れて部屋に帰った後、物足りないような、何か落ち着かないような不思議な感覚を覚えた。

お礼の品…とはなんだろう?

チケットだってちゃんと割増しで買い取ってもらってるし、バイト代だけでも十分すぎる額を貰っていたので、なんだか気が引けてしまう。

コンコンコンと扉をノックして、「橘海斗です」と声掛けをすると、重厚な木枠のドアに埋め込まれた曇りガラスの向こうで人影が動き、ガチャリと開く。


「思ったよりも掃除に時間かかって、今ちょうどシャワー浴びちゃってて…★」


衝撃の一言と共に、湯上りバスタオルスタイルの女性が姿を現した。


「んが…」


思わず立ったまま鼾をかくように鼻が鳴る。

僕の頭には走馬灯に近い何かが流れて、46億年前に地球が誕生し、原始生命が誕生し、それが化石として確認できるまでに進化し6億年前のエディアカラ動物群が栄える時代を経て、約5億年前に魚類、約4億年前に両生類、約3億年前に爬虫類、そして約2億年前に鳥類と哺乳類が生まれ、悠久の時が流れて700万年前に人類の祖がアフリカの大地に二本の足で立つ壮大なドラマが展開された。

そして現在、2026年8月14日。橘海斗はバスタオル姿の女の前に立つ。

赤い顔をして…首や鎖骨や肩や腕は勿論、おっぱい半分放り出して…。

脚なんかもう…これ振り向いたらお尻がはみ出ちゃっていやしないか。

何を…しているんだこの人は。

どこか浮世離れした所があるのは知っていたけど……流石に…予想外だ…。

ゴクっと音を立てて唾を呑んでしまう。


「あはっ★」


雫さんは笑顔を作り、大胆な姿と裏腹、遠慮がちに僕の袖を引いて中に誘う。

拒否できるはずもなく、足が勝手に敷居をまたいで中へと入った。

バタン、と扉が閉まると、彼女の髪から優しいシャンプーの香りが鼻腔に届き出した。

目がどうしてもその胸の谷間を見てしまう。

咄嗟に反面教師として加納省吾の情けない姿が浮かび、男としてああは絶対ならないぞ! とキリリと顔を引き締める。

くそ! 中学時代に女子マネと付き合ったとき、「なんかつまんねーな」とか思わずにもっと真剣に女子と向き合うべきだった。

チェリー海斗なんて二つ名を拝命するハメになったら全てが終わってしまう。

彼女は僕に無防備に背を向けて、執務デスクの上の包みを取りに行く。

バスタオルの一枚では、その身体を十分に包めていない。タオルの裾から、予想通りにたぷんとしたお尻肉が見えていた。

僕の心の中で何かが猛り、「ぐああああああ!」と 吠える。


「あ、でね。これ、プレゼントなんだ。今日の午前中に池袋行ってきて…私よくわかんないからさ、店員さんに一緒に選んでもらったんだけど、部活なんかで使える…カナ?」

「え? あ、はい。ありがとうございます」


目がくらくらして、プレゼントの包みを受け取る際に目測を誤り、彼女の剥き出しの肩を正面からがしっと掴んでしまいそうになった。


「今開けちゃってもいいですかね」

「もちろん!」


気を紛らわすためにこの場での開封を申し出て、包みを解くと、出てきたのはフェイスタオルとマフラータオルのスポーツタオルセットと、真空断熱ボトルだった。

タオルは、1996年にアメリカで設立された革新的で高機能なスポーツウェアブランドとして人気のあるUNDER ARMOURの商品で、バスケ部でも定番の品。

バイト代で購入する品物の候補にも入っていた品物だった。


「あ、嬉しいです。アンダーアーマーのタオル欲しかったんですよ! 目標にしてる3年の先輩たちが使ってて、いいなぁって思ってたんですよね!」

「あ、よかった!」


彼女の嬉しそうな顔を見て、ちょっとだけ照れてしまう。

タオルとか、なんぼあってもいいですからね。

何か変に高い物をプレゼントされたりしないか心配したのが馬鹿みたいだ。

もう一品は、あの品質ナンバーワンのタイガーの真空断熱ボトルだ。


「こっちのボトルも嬉しいです。俺、中学からのをずっと使ってるんで」


特にこだわりが無く今のままで十分だと思っていたけど、改めて手に取ってみると、新品はいいなぁ…と思ってしまう。


「ありがとうございます」

「いいえ。いっぱい使ってくださいな」


嬉しさから爽やかにお礼を言う事が出来た。

だがしかし、改めて微笑んでいる彼女を見て次の言葉が出なくなる。

眩しい。

彼女は7歳ほど年上だけど、僕から見たら本当に「女性!」って感じで凄く眩しくて、どうしてもその肌をいやらしい目で見てしまう。

自分自身、女性の好みは特に無いつもりだった。

女優とかアイドルグループを前にして「どのタイプが一番好みか」なんて雑談をする時には、本心は「みんな美人だし、みんな可愛い。えり好み出来ん」みたいなテンションになるのが常だった。

でも、今はその一つの理想が、彼女とピッタリ重なっている気がする。

顔と、大きな胸、柔らかそうな身体と……まあ、お尻には少し迫力を感じるけれど…昔はもっと細くて弱そうな子が好きだったような…気もするが…。

今でも一日に一回は見てしまっている「まんぐり返し写真」の影響か、ここ1週間の間に少し趣味が変わってしまったのかもしれない。

こんな事は口が裂けても言えないが、彼女で「した」回数なんてもう1回や2回ではないし、8月4日に言葉を交わしてからの10日で、夢に出てくるようにもなっていた。

どこかネジが飛んでるけど、美人でエロいのに気取りのない人だから、まあ一緒に居たらこうなっちゃうよな…。

意識してないと言えば嘘になる…どころか、ハッキリ言えば異性としてバリバリに意識してる。

好きか嫌いかで言えば当然好きだし、っていうかコレ多分彼女の事が好きだ。

彼女が加納にベタベタされているのを見たり聞いたりするだけで、少し嫌な気分になってしまうから、愛とかの綺麗な感情じゃないのかもしれないけど…。

雫さんの様子を見ると、次はチーズケーキと紅茶を用意して持ってきていた。

それらをガラステーブルに並べていく生活感に、バスタオル一枚のエロスが掛け合わさり、なんかもう無敵に見える。

ここにきて僕はついに「据え膳食わぬはなんとやら」の境地に足を突っ込み、見せてるんだから見てやろうじゃないかの精神で彼女に性的な視線を投げかけた。

刹那、当然のようにバケツをひっくり返したような性的刺激が降り注ぎ、本能をつかさどる大脳辺縁系に作用して視床下部へと情報が流れ、電気信号が背筋を下って股間に届く。

未使用な愚息が「ぎゃおおおおん!」と吠えながら稲妻をバックに自立する。

そうか。もしかして『ほっておくと勝手に自立する』から、息子というのかもしれないな! なんて脳内で大喜利してハハハと笑った。

ダメだ! 僕はこのままではおかしくなる…!





23時。

海斗くんは選んだプレゼントを凄く喜んでくれた。

私はそんな彼の隣に腰掛けて、チーズケーキを食べて、お茶を飲む。

7歳年下の男の子がいつもより熱っぽく私を見てくれているのは分かっていて、でもそれに気付かぬふりをしていた。

だって恥ずかしいもん❤

いや、ぶりっ子するならバスタオルでお出迎えとかするなよって話だけど、それはそれ、これはこれ。

海斗くんはきっと今、男としての余裕なんてものを見せようとしているのだろう。

どこか能面のような無表情に近い感じを維持しつつ、「そう言えば雫さん。さっきミルフィーユも食べてましたよね…」なんて私を詰める。


「だから紅茶はストレートで飲んでるの。これで糖質プラマイゼロです」


無茶苦茶な理屈でそれをかわし、またあのエッチなドラマやってないかな~なんて思いながらTVを付ける。


「……世界がどうなっても、私はもうここから動かない」

「俺の心はもう決まってる。……全部捨ててでも、お前を離さない」


やってた。

マンションの一室で、スローモーションで二人がベッドへ倒れ込む。男の手は迷いなく彼女の体に滑り込み、女性は歓喜に満ちたかすれた声を出す。

「……ずっと隣にいてくれる?」

そんな女性のすべてを包み込むように、男性が覆い被さる。

言葉での返事ではない、荒々しくその身体を求め、強く強く互いに手を握って、二人はお互いの存在を完全に確かめ合うように激しく、一つの命になるように溶け合っていく───。


「……こ、こーゆーのの共演がきっかけで…結構付き合っちゃったりするのよね」


恋愛経験ゼロの女が、何か言わなくちゃとの使命感から口を出す。


「ですね…やっぱり疑似的とはいえ、普通の関係ではしない事をしちゃうと意識したりするんじゃないですかね…」


そんな会話の中、私は彼の股間がすっごい感じになっているのを目にしてしまった。

少し不自然な座り方をしている海斗くんの姿を見て、彼が焦っていたり、恥ずかしがっていたりするかもしれないと考えたら、不意に私の身に起こった事を知って欲しくなり、迷いつつも口が勝手に動いて喋り出してしまった。


「あ。あのさ…私今日、池袋行ったじゃない?」

「あ、はい。プレゼントありがとうございました」

「で…その。あの加納省吾の手下のあいつ等。海斗くんがボッコボコにしてくれた、あの男達が…」


自分で言って泣き出してしまうんじゃないかとの不安があったけど、隣に彼が居てくれるからか、心はさざ波が立った程度の穏やかさを維持していた。

スマホを弄って、問題の掲示板を出して、彼に手渡す。

海斗くんは恐る恐るそれを受け取る。

彼の目には、好奇心よりも焦りみたいなものが強く出ていた。


「……」


彼が情報を閲覧する間、私はまるで自分自身への査定を待つ気分だった。

処女作を編集者に見せる漫画家とか、水着で審査を受けるアイドル志望者の気持ちってこんな感じの緊張感なのだろうか。

そして端的に言えば「こんな女もういらねーや」と言われてしまうのではないかという恐怖もあった。

勿論海斗くんはそんな事言わないだろうけど、これを見せたことで抱きしめてもらえるハズ…みたいな打算に満ちた期待はしていなかった。

この先に何があるとしても、私の身に起きたことを彼に黙ったままなのはヤダなと思ったのだ。


「雫さん…」

「は、はいっ」


海斗くんの語気は少し荒かった。


「これ…全然ちょっとじゃないじゃないですか…」

「あ、うん…ご、ごめんなさい!」


海斗くんの身体が微かに震えている。

確かに私は「うん。まあ、ちょっと…ね。でも取り合えずの手は打ったから、それはもう気にしないでもいいの」と言っていた。

確かにその通りです…大火傷しています。っていうかそれ致命傷です。


「雫さんを責めるのは違うけど……悪いのはコイツ等ですが…」

「あ。うん…」


どんどん何かに怒りの焔を燃やしていく彼の様子にたじろいで、胸の前で両手を合わせ、可愛く小首をかしげる防御姿勢を取った。


「前から思ってたんですが、雫さんは少し悪意に無防備がすぎるんじゃないですかね…」

「はい…す、すいません…」


怒られた。ひぇーんと心の中で泣く。

前にもこんなやり取りをして、その時は私がガーッと攻め込んで優位になったけど、今は状況が違いすぎる。

だってさ、そんなこと言ってもさ、襲われたら仕方ないし、服装だって普通だったし、私から怖い所に寄って行ってる訳じゃないし、今後電車乗らないとか無理だし、怖かったけど頑張って抵抗したし…そんな弁解がいくらでも湧いて出てくるけど、きゅっとお口にチャックする。

彼が言いたいのは、私にこんな目に遭って欲しくないから気を付けて欲しいってお願いだからだ。

ちがうかもしんないし、ちがったら泣くけど。


「ご、ごめんなさい❤」


彼の怒りを茶化したつもりではなく、一度クールダウンして欲しくて、『どうぞこの供物でお怒りをお鎮め下さい橘海斗大明神様!』と祈りながら、上体を跳ね上げて彼の大好きなおっぱいを揺すって見せる。


「雫さんっ!!!」

「きゃっ!!」


次の瞬間、私はめっちゃ叱られる感じに名前を呼ばれながらガクンと肩を押され、彼に伸し掛かられる様にしてソファに横倒しとなっていた。

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