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山手線・地獄行き

8月14日 10時


その日、私は用心のためにサングラスを着用して、海斗くんへのお礼の品を購入するために池袋へと足を運んだ。

サンシャインシティのスポーツ用品店へと入り、空調の利いた店内で真新しい繊維や皮素材の匂いを嗅ぎながら、彼に何を贈るべきか散々悩む。

海斗くんの試合の応援とかもしてみたいなぁ…なんて妄想しつつ、店員さんとも相談して、スポーツタオルと高性能ボトルを選んでお店を出た。

想定よりも1時間は長くかかっていたので、寄り道せずに12時56分の山手線に乗り込むと、乗車して直ぐに優先席の前まで押し込まれる。

お盆休み中の池袋は大混雑で、電車が動き出してすぐに隣のお年寄りがぶつかって来た。見ればおじいさんは必死に手摺を握っているけど、体幹が全然安定してなくて、頻繁に私の身体にぶつかっては心底申し訳なさそうに頭を下げている。

そんな状況下で視線をチラリと下げれば、目の前の優先席には気怠そうにスマホを弄る、18歳くらいの若者ら3人が座っているのだった。

座席からずり落ちそうな程に浅く座り、大きく股を広げて脚を通路側に放り出し、スマホを弄ってはそれを互いに見せ合い笑っている少年らに、『勝利の女神』と持て囃されてしまった女の変な正義感が疼き出して一言言ってやろうと思い立ってしまう。私は目の前に座っていたプリン気味の茶髪少年のスマホをつつく。


「ほらキミ、立っているのが大変そうなおじいちゃんがそこにいるでしょ?」

「あ?」


突然の指名を受けた若者が顔を上げ、それに連動して他の2人も私を見上げてくる。

揃いも揃ってその顔つきはどこか幼く、精神年齢の低さを感じさせていて、海斗くんの完成度とはえらい違いだな…と思った。

彼らの将来は微塵も心配はしないけど、日本の将来が大いに心配になる。


「折角の優先席なんだから、譲れる人は譲ってあげようよ?」


少しだけざわつく電車内で、私は『お姉さんの金言に従いなさい』と言わんばかりに髪を耳に掛けなおしてみせた。


「…死ね、デブス」


茶髪プリン頭は悪態をついて私の足を雑に蹴り、スマホに視線を落としてゲームアプリの操作を再開する。

蹴ったという事は、蹴られてもいいと云う事に他ならないので、こちらも遠慮なく彼の脛を蹴り返す。


「イっ。てめぇ…」


少年はハーフパンツから覗く脛毛びっしりの足を押さえながら首を伸ばし、凄みを利かせた顔をぐぐっと突き出してきた。


「なによ。先に蹴ってきたのはそっちでしょ?」


サングラスの力も借りつつ一歩も引かずに身を屈めながら見下ろしてやると、少年は顔を非対称に歪めて、もう怒っているんだか笑っているんだか分からないヘンテコな表情を作った。


「あ? 誰が蹴ったって? 証拠あんのかよ、証拠がよぉ!」

「は? それなら私が蹴った証拠もないでしょ。ホント馬鹿」


ブーメランを突き刺してやると、茶髪プリン頭は言葉を詰まらせ、そんな彼に代わって右隣に座る丸顔の少年が口論を引き継いだ。


「うるせえぞブス! 空いてんだから誰が座ったって勝手だろブス! 憲法で決まってんのかよブス!」


口を尖らせて言い返してくる仕草だけでなく、言葉の区切りに必ずブスを付け加えるセンスや、条文の一つも理解していないだろうに憲法とか言い出しちゃうところなんかが、本当に「子供のまんま」って感じで呆れるしかない。


「空いてるときは座ってもいいけど、必要な人が居たら譲りましょうって言う、たった2段階のルールも理解できない? ねぇ本当に大丈夫? 義務教育受けた?お姉さん心配っ」


人差し指を頬に当てて首を傾げる仕草で小馬鹿にしてあげると、一部始終を見ていた乗客から忍び笑いが漏れ始める。

自分らが嗤われている側なのを察した茶髪プリン頭はプルプルと身体を震わせ、周囲を睨んで黙らせてからこちらに向かって右手を振り上げた。

そのままブンっと横なぎに払われた彼の腕はバシッ!!と音を立たせて私の胸を叩く。


「いっっった!!!」


殴られた女が顔を顰めて叩かれた胸を手で押さえるのを見て、少年は『暴力で泣かせた方が勝ち』との原始人の理屈にのっとった笑顔を輝かせた。


「へへっ。バァ~カw」


こっちは昨日おっぱいにホームランされて痣を作ってるのに!!

痛いでしょこの馬鹿!!

私は衝撃でずらされたブラをシャツの上から整えてから、大きく息を吸い込んだ。


「あ、いまの痴漢!! ねぇ皆、この人痴漢です!! 私のおっぱいに触りましたぁーー!!」


車内全体に響き渡るように甲高く大声を張り上げ、両手で自分の胸を大袈裟に隠して大騒ぎする。

そのテンションに茶髪プリンは髪を逆立てて焦り、「はぁ? 偶然手が当たっただけだろ!」と言い訳してから優先席に深くもたれてスマホを操作し始め、「エッチチカンヘンタイスケベバカブサイクマジキモイ」と捲くし立てる私を完全に無視しだす。

このクソガキ絶対ゆるさん!

私は怒りに任せて軸足を勢いよく踏み込んで、ずっこけ座りしている少年の大きく開かれた股の中心部に膝頭をゴチン!とめり込ませると、彼は「ふんぐ!」と唸り、ちんちんを両手で押さえて脂汗を流し、切なげな表情で鼻の穴を膨らませてパクパクと空気を飲んだ。


「偶然ですぅ★」


私は鼻水を流すくらいにシビレている少年に、おっぱいのボリュームを見せつける前かがみポーズをサービスしてあげてから、何事もなかったようにつり革につかまり直す。

茶髪プリン頭は絶賛悶絶中。彼のお友達は声も出せずに硬直中。

その間に列車は巣鴨駅に停車して、事の発端であったお爺さんは私に頭を下げてから降車していった。

扉が閉まり、ガタンゴトンと揺れ出す車内。

3馬鹿は優先席に居座っていて、茶髪プリンはちんちんを揉むように抑えながら、チラチラと私を見ている。

仕返し目的で私に付いてくる気かもしれないと気付いてしまい、ドキっとするけれど、サングラスがその動揺を隠してくれる。

私は彼らの前に平然と立ったまま、逃げずに車内アナウンスを聞いていた。


『次は 駒込、駒込。お出口は左側です。地下鉄南北線はお乗り換えです…』


私が降りるのは駒込の次の田端の次の西日暮里。そこから東京メトロ千代田線で千駄木へ。

手荷物を見下ろして、海斗くんに喜んでもらえるかなぁ? なんて考えていたら、両脇に強引に割り込むようにして人が立った。

そして左右から両腕をがっしりと掴まれる。


「!?」


驚いて両サイドを交互に見れば、見たことのある顔──池袋の公園で海斗くんにこっぴどくやられた、あの三島兄弟の姿があった。

彼らが居るとすれば、当然──。


「よう、お姉ちゃん。今日はあの生意気なボディーガードのガキはいないのかい?」

「!!」


背後から不法投棄組のチームリーダーをしている男の声が聞こえて、彼の臭くて毛深い手が私のシャツの裾を掴む。


「え。やだ…」


え、なんで?

昨日は加納省吾と一応仲良くデートしてあげたじゃない!?

奴の機嫌を損ねるような真似はしてないハズなんですけど!?

私はそのままシャツを捲り上げてしまい、胸を包んでいる『大き目バスト専門の通販下着ブランド製の3/4カップブラ』が露になる。

周囲が少しどよめいた。


「ちょ!」


ここは誰も来ない路地裏のビル間とか、偶然にも人通りの無い公園とかじゃなくて、360°人にまみれた電車内。

たまらず咎めの声を上げるけど五味の手は止まらない。ブラジャーを下からスライドさせるように引き上げられて、ホールド力から解放されたおっぱいがぷるんと揺れた。

今度はどよめきは起こらず、逆に世界から音が消えて、周囲の視線が乳房の先端へと集まる。

ガタンゴトンと揺れる電車に合わせて、乳房もツンっとした乳首をアピールするみたいに揺れた。

意に反する露出をさせられた私の瞳は内に寄り、自分でもそんな乳首をシッカリと見てしまって、赤面する。


「あ…❤」


幸か不幸か、乗客の顔触れに親子連れの姿はなく、お盆期間中であるにもかかわらずスーツ姿の男性陣が大半を占めている。

視線は強まる一方で、どう対処するのが正解なのか分からずにパニックになり、顔を引きつらせながらもギャラリーに向けて愛想笑いを作ってしまうと、偶然目が合ってしまった乗客の一人が、何故か会釈を返してきた。

五味は脇から掬い上げる様にして優しく乳房を揉み始め、その間に電車が停止して、扉が開き、乗車降車が滞りなく進み、扉が閉まり、再び電車が動き出す。


『次は 田端、田端。お出口は右側です。京浜東北線はお乗り換えです…』


ガタンガタンと無機質に揺れる山手線内で、五味の異常に熱を持った手の平と戦うおっぱいが有機質に踊り続け、私を好きに玩ぶ指先が乳輪をなぞり、乳首を摘まむ。


「ほ❤」


声が漏れてしまい、肌が汗ばみ、息が弾みだす。

いつのまにかサングラスはだらしなくずり落ちて鼻に引っ掛かっている。

勇気を出して「助けてください」の視線を乗客に向けるけど、彼らは驚きながらも興味を持ってこちらを見ていて、誰一人「おい! なにやってんだ!」と声を上げてはくれなかった。


「く…!」


責めに晒されながら、『私の身体は海斗くんのものだ!』と自分に言い聞かせた。

実際にはまだそんな事実はないけれども、だからこそ幸せな未来を見据えて、海斗くんのためにも次の田端駅で逃げるために全力で抵抗しなくちゃいけない…と、気を強く持ってぎゅっと拳を握る。

暴漢に逆らって機嫌を損ねたらもっと酷い事をされるかも…なんて考える必要ない!


「や、山手線てね…ち、痴漢対策にカメラあるんだからね。あ、そこに…!」


暴漢に車内監視カメラの存在を知らせて、乗降ドアの上にある液晶モニターのすぐ横らへんへと視線を飛ばす。

神代の言葉を信じるのなら、彼らは今晩にも本業の不法投棄をして大金を稼ぐ予定で、ここで逮捕されるのは絶対に避けたいハズ。

私の脅しが利いたのか、五味の愛撫がピタリと止まった。


「はぁ…」


背筋を這いあがるゾクゾクとした悪寒にも似た余韻を吐息に含んで身体の外に逃がしてから、今度は右隣に居る三島兄の方を睨みつける。

私は彼が怒った海斗くんの姿を見てビビり、弟が叩きのめされるのを震えて見ているだけだった臆病者なのを知っていた。


「あんたもよ…その顔、バッチリと映ってるんだから…!」


彼は予想通りに日和り、腕を掴んでいた力を緩める。これなら思いっきり暴れれば拘束を脱することができるだろう。

あとは乗客たちの誰かが力を貸してくれたり、駅員さんを呼んでくれたりすれば、逃げ切れる。

窓の外の景色を確認して田端駅に着くまでの時間を計り、ここぞのタイミングで声を裏返らせながらも絞り出して最後の一手を打った。


「い、いま、いまこっちにカメラ向けてる人も、黙ってみてる人も、ど、同罪なんですからね!! 覚悟しなさいよ! 馬鹿!」


私がそう叫んだのと同時に、「急停車します。ご注意ください」とアナウンスが流れて、ガタン! と電車が急停車した。

その走行音が消えて、車内はシン…と静まり返る。


「あれ?」


もし電車が動いていたなら、まさに今ころ電車がホームに入り、痴漢の同罪にされまいと焦った乗客達が遅めの正義感を発揮して私は助かる…はずだった。


『ただいま、緊急停止を知らせる信号を受信したため、安全のため急停車いたしました。詳しい状況を調べております。運転再開までしばらくお待ちください』

「……」


なんか車内の空気がおかしい。

私が五味達は勿論スマホをこちらに向けている奴や、助けてくれない人達…つまり車内にいる全員に怒り、捨て台詞のように啖呵を切ったのは、彼らの罪悪感を刺激して味方に引き込むためで、この目論見はあの一瞬に限っては成功していたと思う。

でも電車が止まって到着までの間隔が開いてしまったことで、彼らは次第に「よく考えたら俺らが罪になるはずもないよな?」という冷徹な思考を取り戻してしまい、その結果、彼らを詰った私に対して白けた空気を醸し出し始めていた。

そんなホラーな空間に、私の弾んだ息遣いだけが、ふっ、ふっと響いている。

ククっと愉快そうに笑った五味が、臭い息を吐きながら私に囁く。


「おいおい。乗客の皆さんには何の罪もないだろぉ? 罪があるのはお前だよ、この公然わいせつ女が」

「な、なんで私が…!」


公然わいせつ罪(刑法174条)とは、不特定または多数の人が認識できる状況で、わいせつな行為をした場合に成立する犯罪のこと。該当する行為には電車内のように誰でも目撃し得る場所での全裸や、性器の露出などがある。

課せられる刑罰は 6ヶ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金、または拘留もしくは科料。

類似のものに、身体露出の罪(軽犯罪法1条20号)があり、これは公衆の目に触れる場所で、お尻や太ももなど「本来隠すべき場所」をみだりに露出し、周囲に不快感や嫌悪感を与えた場合に適用される。この場合の刑罰は1日以上30日未満の拘束または1,000円以上1万円未満の科料だ。

両方とも無理やり露出させられた場合には罪は成立しない。当然の事だ。

でも、正しい法的知識を確固たるものとして持っている人はそう多くない。

五味の言う事に流されて、一度は「え?俺も痴漢の罪に問われるのか?」との不安を抱いた男達が、今は安心するために自分達こそが「不快な場面を見せつけられた被害者である」と思い始めてしまい、さっきよりも容赦なくこちらにカメラのレンズを向け出していた。


「ば、馬鹿なの!?」


法解釈を諳んじてやろうとした時、五味の手が脇の下からくすぐる様にボディラインを辿って降り、左脇のスカートフックを手早く外してジッパーを降ろす。

スカートベルトの圧が緩んでお腹が楽になり、下衣が花開くようにして足元までパサッと落ちた。

周囲の視線が、ブラまで捲り上げられた上半身とショーツ姿の下半身とに分割される。

今日履いていたのは、履き心地を最優先した、綿混3Lのキャラクターショーツだった。

乗客らが臀部にプリントされている、大きく左右に引き延ばされた、『OLのカオルさんの家にいきなり住みついた着ぐるみのクマちゃん』の姿を見つめてくる。


「あう!!」


見なければいいのに殆どが男性客で埋め尽くされた車内を見て、皆がどこか馬鹿にしているようにニヤけた顔をしているのを確認してしまった。

え、やだ。なんで嬉しそうなの!?

もう周囲を見たくはないけど、でも目を瞑るのも怖くて、はやくはやくはやく! 電車はやく! と1秒間に100回念じながら視線を下向かせる。電車はまだ動かない。

恥辱に歪んだ私の視線を横切るように、優先席の方から手がす~っと伸びて来て、ショーツを掴んだ。


「ふえ!」


ダメ! と叫んだつもりだったのに羞恥で痺れた舌が上手く回らず意味不明な叫びになり、そのままずるるんとショーツを膝下まで引き下げられた。

ぜんっぜん、ほんとにぜんっぜん気持ち良くなんかなってなかったけど、いつの間にか股が濡れていて、愛液を吸って濡れぼそったクロッチ部が綺麗に糸を引いていた。

車内の冷気が股下をスゥっと流れて熱っぽい下腹部を冷やし、それに反して顔には火が付き温度が急上昇する。

え。これ夢よね??


「いやあ皆さんすいません。こいつ変態女なんですよ」


五味はまるで知人であるかのように振る舞ってから、意地悪く一歩引いて、私のお尻を皆に見せる。

汗をかきまくってるお尻に皆の視線が音を立てて突き刺さった。


「おえ❤」


不快感のせいか、極度の緊張のせいか、それともぎゅううう!と子宮が蠢いたせいか、こみ上げてきた吐き気にえずく。


「ただいま、近隣の路線にて列車を止める信号を受信したため、本線でも安全のために緊急停止いたしました。現在、安全の確認を行っております」


そんな報告要らない。

お昼の山手線で、暴漢にシャツとブラを捲り上げられ、スカートを脱がされ、ショーツを降ろされた無惨な姿を皆に見られながら、私は一人ではぁはぁと息を乱し、股を締めて身を屈め、ちいさく背を丸めて自分自身の存在を可能な限り消し去ろうと努力するしかなかった。

走行中は耳に届かなかったスマホカメラの疑似シャッター音が、私の心をこれでもかと抉って来る。


『大変お待たせいたしました。先ほど、新大久保駅付近で緊急停止信号を受信した影響で停車しておりましたが、安全の確認が取れました。運転再開まで、もうしばらくお待ちください』


安全確認が取れたと言いながら車両は更にこの後2分間は沈黙を維持し、私はもう早くして! とも思わなくなっていた。


「お待たせいたしました。運転を再開いたします。電車が動き出しますので、お立ちのお客様はつり革や手すりにおつかまりください」


ガタン! と大きく揺れた電車は緩やかに加速してからすぐに減速し、ものの十数秒の間に田端駅のホームへと滑り込んだ。


「急停車いたしまして、大変ご迷惑をおかけいたしました。この電車は、安全確認を行いました影響で、ただいま約15分ほど遅れて田端駅に到着します。お急ぎのところ、ご迷惑をおかけいたしますことをお詫び申し上げます」


遅延時間の15分。

いつもなら、ストレスを感じながらもしょうがないかとスマホを見て過ごしていた程度の経過時間で、私を取り巻く事態は『お詫び』で済む範囲を大きく超えていた。

扉が開くと同時に、三島兄弟が私の手を放す。

終わった…の? と呆けながら振り向くと、五味が脚を振り上げている姿が目に飛び込んできた。


「あっうん!!」


嫌というほどの勢いでお尻を蹴飛ばされ、そのまま優先席に突っ込んで、茶髪プリン頭の上にのしかかる。その間に五味達は電車を降りて姿を消していた。


「ご、ごめんなさい…!」


萎縮しまくっていた私は、痴漢行為に参加していた少年に反射的に謝ってしまいながら彼の上を離れ、ブルブルと震えて全然力が入らなくなっている身体を動かして、シャツの裾を掴んで下げ、必死にショーツを手繰って持ち上げる。

何とかスカートを履き直して着衣を整えた後は、盛大に髪を乱れさせたまま両手で顔を覆って西日暮里駅までの2分間を過ごした。

ざわつく乗客たちから逃げるようにホームに降り立つと、優先席の3人組も一緒に降りて追いかけてくる。


「おい、待てよ!」


その声を無視して、尋常じゃない火照り方をしている顔を伏せたまま真夏のホームを死力を尽くして走り、改札を出て東口のタクシー乗り場でドアを開けて客待ちをしていた黒い車両へと身を滑り込ませた。


「せ、千駄木駅までおねがいします!」


汗だくになりながら後ろを気にする私を見て、運転手さんは何かを察して「大丈夫ですか? 警察にいきますか?」と声をかけてくれる。

3人が付いてきていない事を確認した後で、でも心の中にある僅かな不安を払拭するために、「少し大回りしてもらってもいいですか?」とお願いした。

運転手さんは良い人で、こちらの気を紛らわせようとあれこれと話しかけてくれて、通常の3倍ほどの時間をかけて千駄木まで到着した時には、私の身体の震えもなんとか収まっていた。

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