事件① 正義の味方
8月11日
その日はいつもよりちょっとだけ早い朝8時に起き出して、由香さんを行動調査した時の美大生スタイルで着用したオーバーサイズの白いリプロコットンシャツ、マキシ丈のボリュームデニムスカートに身を包み、トートバッグには缶バッチを付け、ピンクのストローハットにピンクのスニーカーを履いて事務所を出た。
名付けて…『オタク女子コーデ』!
つい2日前にあんな目に遭った教訓を生かし、あえて男受けを完全に排除して世を忍ぶ姿になり、大きな黒縁度なし眼鏡をきらりと光らせて、開店1時間前の9時に「琥珀」へと降りる。
九条さんは朝の8時くらいから、こちらで自分の時を過ごしつつの開店準備を進めているのが常だった。
ちなみに海斗くんが来るのは10時からだ。
準備中のドアプレートに構わず店内に入り、カウンターで新聞を読んでいる九条さんの所へ向かい、「池袋に行ってくる」とだけ伝えて、心配顔の老マスターに笑顔を見せてからお店を出た。
千駄木駅に向かいながら、ピンクのイヤホンを耳に付け、流す楽曲はYOASOBIの『ラブレター』。タイトルで勘違いされるけど、この曲は大好きな男の子への気持ちを歌った甘々なものではなくて、自分の好きな音楽という文化への愛を込めた楽曲だ。乙女ロードで限定品を得るために呪縛を打ち破った私のテーマソングとして相応しいものだろう。
池袋駅到着は9時半を少し回った頃で、私はそのまま東口を出た。
「……」
やはりなんだか視線を感じる気がする…。
流石に「ああ! あれは2日前にサンシャイン60通りで裸になっていた女だ!」みたいな事は無いだろうけど、背筋がヒヤリとした。
ひるみそうになったけど、お目当ての限定品を手に入れるためにも脚を前へ前へと動かす。
「ねぇお姉さん! ちょっといいかな? スタイル良すぎでしょ。モデルとか興味ない? 雑誌とかじゃなくて、もっとガッツリ稼げるやつもあるよ! 興味ない?!」
突然の声掛けと同時に目の前に立ち塞がったのは、ミルクティー色の髪を派手に遊ばせた若い男──それは2日前の事件当日にも私に声をかけて来たスカウトの内の1名だった。
「あ」
思わず声に出してしまってから、慌てて視線を切る。
確か『ケン』とか呼ばれていたっけ。今日も鏡の前で1時間くらいかけてセットしてきてそうな凄い頭だ。見せるためにちゃんと頑張る。自分を飾る。そういった所はまあ、評価してあげられる。
「お姉さん、ちょっとだけ、30秒だけでいいからさ! 乙女ロードいくの? オタ活も大変でしょ? お金があればアレもコレも買えちゃうよ!」
私の身なりから行き先を察するとは中々やるなお主。
そしてなるほど、ダイレクトにお財布事情を突いてくるか。確かにオタ活をしているとお金が無限にあればいいなと思うから、これはきっとオタク女子を落とす正攻法なのだろう…。
私はこの前の教訓──もしかしたら彼らとやり合った結果、仕返しの為にあの汚くて臭い男達が呼ばれていたかもしれない可能性──を考えて、頭を天真爛漫な『如月るな』モードに切り替える。自然と声もすこし高くなった。
「あの、10時開店のお店で、限定品買いたいから…歩きながらでもいいですか?」
「ぜんぜんいいよ! 限定品いいね。それっていくらくらいするの?」
恐らく幼稚園の頃から陽キャとして生きて来たであろうケンくんが本心ではオタク女をどう思っているかはわからないけど、こちらの趣味に理解を示そうとしている気概は感じられる。
ただしその視線は歩く度に大きく揺れる私のバストに吸い込まれていた。
「チョーカーなんですけど、グレードが3段階くらいあってですね…私が欲しいのはその、15万くらいするやつ…」
「うわっ。結構するね~。彼氏に買ってもらえばいいのに」
「そんな素敵な人居ないんですよ。オタクなんで」
「いやいや。言うよ? 君相当可愛いって。ねぇどうかな? 俺、割がいいけど危なくない仕事も紹介できるよ?」
このケンさん。意外と話し易くて、案外結構いい奴かもしれない…?
まあでも相方さんは私の事『ブス』って言いましたからね。
突っぱねないと決めた代わりに、お店に着くまでは彼から逃げられそうにない。
『如月るな』の人当たりの良さもそれに拍車をかけていて、下手をすれば会話が盛り上がってしまいそうだ。
「興味はあるけど、でも恥ずかしいから」
「恥ずかしいよね。でも俺の知ってる女の子たちは…」
「おいケン、いつまでそんな芋くせぇのと油売ってんだよ」
一定の譲歩をしたうえで上手に断ろうとしたその時、ケンの後ろからあのHIROが姿を現し、会話に割って入って来た。
彼はオタク女子への偏見を滲ませたセリフと共に、私に値踏みの視線を向けている。
いやまあ確かに、今日の私は芋臭い格好を『あえて』してますがね。なんかムカつくな…。
でもとりあえず、今は芋女としてリリースしてくれた方が嬉しいか。
「ひどいなぁ、この子、15万のチョーカー買うために貯金してるガッツある子なんだぜ?」
「……15万ねぇ。その格好でかよ」
HIROは鼻で笑いながら私を頭の上からつま先まで眺め…そしてその目の色を僅かに変えた。
「お前あの時の─」とか言われるんじゃないかとドキドキしながら、オドオドと視線を逸らして、少し落ちてきていた黒ぶち眼鏡を、左右からフレームに両手を添えて持ち上げ直す。
「あ、あの…限定品売れちゃうと困るから…行きます…ね?」
笑顔を作りコソコソと歩き出すと、何故かHIROも並走してきた。
彼の視線が、私の首元から、歩くたびに大きく揺れるバスト、そしてマキシ丈のスカート越しでも存在感を隠しきれない、でっぷりとしたお尻のラインへと執拗に絡みついてくる。
「なぁ、お前。そのチョーカー、そんなに欲しいのか?」
「え、あ、はい。……ヴィクトールの、限定品なので……」
私は意図せず震える声で答えて、結果的に内気なオタク女子を演じた形になり、HIROはその口元に、メンヘラ女を籠絡し慣れた男特有って感じの、嫌~な笑みを浮かべた。
「お前さ、自分のことブスだと思ってんだろ?」
「はえっ……(あやうく『は?』って言う所だった)」
「隠したって分かるよ。卑屈な顔してるもんな。でもさ……」
HIROはその手を伸ばして私の頬に触れながら横髪を掬い上げた。
ええい、触るな触るな。
その口から吐き出されたのは2日前の罵倒とは正反対の、甘く、毒を含んだ囁きだった。
「お前……身体のラインは最高にエロいぜ。顔だってよく見りゃ悪くない。特にその胸と尻。俺はアンタに断然AV出演をお勧めするね。地味女のお前を『女王様』として崇める男が山ほど現れるぞ…たった一本出るだけで1000万円も夢じゃないぜ」
AV出演料はよくわからないけど、流石に1000万円はないでしょ…。
彼は、自信のないオタク女の私が「褒められることに飢えている」と踏んだのだろう。 少し「素材」を褒められただけでコロリと落ちる。そんな成功体験を何度も繰り返してきた男の淀みきった自信を感じる。
HIROの手が私の腰のラインをなぞって背後に回され、そして人目の多い通りを歩いている最中なのに、片手で鷲掴みするようにしてお尻をむっちりと揉んできた。
「ん!!」
「いいケツしてんじゃん…」
私は驚き、お尻に手を回して立ち止まる。
電車内での痴漢と同じ吐き気がするほどの嫌悪感が背筋を走る。彼も痴漢と同じ。内気そうだからとかオタク女だからとか、そんな理由で「触れてもいい」と思うんだ。
それに加えてこんな通りで堂々と痴漢行為をされるのは「そんな扱い方をされても仕方がない芋女」なんて嘲りの視線と、「どんな顔した女なんだ?」 みたいな好奇の視線を集める結果になる。
地獄耳が災いし、「おいあれ」「尻デケー…」「エッロ」なんて声が耳に届いて恥ずかしさに顔が赤くなった。
「いいよお前…そんな恰好でいるのは勿体ねえぜ………特別俺の名刺をやるからよ、買い物の後で連絡しろよ。わかってるな? 絶対だぞ…うんっといい目を見させてやるからよ」
「おいおいHIRO君何してんだよ流石にマズイって…」
ケンに窘められたHIROがようやく私のお尻から手を離し、キザな動作で名刺を取り出すと、強引にトートバッグへ差し込んだ。
ケンが「よかったじゃん、HIRO君がここまで言うの珍しいよ!」と必死になって相方の痴漢行為を誤魔化そうとする中…私はスカートをパタパタ叩いてから、若干涙目になった顔を彼らに向けた。
「……ます」
「え? なんだって?」
HIROが上機嫌に聞き返してくる。
「迷惑防止条例違反で訴えます…」
私は恥辱に肩を震わせながら、眼鏡をとって彼を睨む。
「あ。お前──」
HIROは驚きの声を上げ、焦った顔でキョロキョロと周囲を見渡した。
なんだそれは…今更周りの目が気になったのか。それとも逃走ルートでも探してるのか。
「映ってます。今の。あの店舗の防犯カメラとか、あっちの店の入り口側向いてる奴にも。株式会社 Brilliant Promotionsの廣瀬尊さん…」
私はゆっくりとトートバッグに手を差し入れ、これが二枚目になっていた(一枚目はその場で捨てたけど)彼の名刺を人差し指と中指に挟んで取り出すと、それを見ずに初見で暗記していた情報を口にしたのだった。
5分後─。
私は無事に限定品の深いロイヤルブルーのサファイア(模造石)を、銀細工の茨が締め付けるようなデザインのクロステイル・チョーカーをゲットする。ちなみにこれは観賞用で、私が身に着けるものではない。羨望の眼差しを浴びながら店から出ると、外に待機していた『二人』に声をかけた。
「じゃあ約束通り、東口まで送ってね」
「何で俺らが…」
「私がこの前ここに来てた時、変質者が出てたのよ」
私は訴えない事を条件に彼らを従えていたのだ。
そのついでに探りを入れて情報を収集する。
「ああ、なんか…2日前だっけ。女の子を裸にした奴がいたんだよな。この辺りで起きたらしくて俺達にも影響出たよ。女の子たちが怖がって寄り付かなくなっちゃってさ~…」
ケンくんが私の話に反応する。しらばくれている様子はない。
なるほど…ここら辺で何かそういった事件が起きたら、スカウト業にも影響が出る…か。
私は荷物持ちをしてもらっているHIROにも声をかける。
ここら辺で幅を利かせて来た彼は、『オタク女』に顎で使われている屈辱をしっかりと噛みしめているようだった。
じっくり味わってね。
「えーとHIROさん。スカウトってムカつく女がいたら『パパ』に泣きついて復讐してもらったりとかしちゃうもんなの…?」
「そんなお願いしたら大変なことになるわ…」
彼はさも呆れた様な視線をこちらに向けた。
ふむ。それもそうか…。
『ケツモチ』というのは便利な使いっパシリではないのだ。「ムカつく女が居たんで裸にして写真とってやってくださいよ!」とか、そんな雑な頼みごとをすれば…恐ろしい目に遭うのは彼らなのだろう。
あの暴漢三人組はHIROの依頼で動いていたわけではないっぽいな…。
では一体誰が…??
「オイ、もういいだろ」
東口に到着してHIROからトートバッグを受け取ると、このまま険悪に別れるよりは安全の為にフォローをしておこう…という気分になり、彼らとLINEを交換することにした。「LINE教えてよ」と私がスマホを取り出すと、彼ら二人もスマホを取り出した。
「ありがと。じゃあ今後私がなにかを「スカウトさん」に頼みたくなったら、HIRO…じゃなくて、ケンくんにお願いするわ」
「お前あんま調子乗んなよ…」
「きゃー! ケンくん助けて!」
などとふざけた後で二人と別れて、私は西口方面へと向かう。
ふっ。またつまらぬ人脈を作ってしまった…。
『最悪最低』を見た後では、あんな二人でも頼もしく感じるから不思議よね。
10時30分─。
足を運んだ池袋駅の西口は、東武百貨店やルミネ池袋でゆったりと買い物を楽しめる環境や、東京芸術劇場なんかの複合芸術文化施設に立教大学などのアカデミックな施設もあって、東口に比べて落ち着いた大人の雰囲気を持っていた。
「へぇ…こっち側こんな感じなんだ」
面白いのは、「東口にあるデパートが西武、西口にあるデパートが東武」という、東西逆転現象だ。そんな街の様子を愉しんで観察していると、私の眼の前を一台のリムジンが通り過ぎてメトロポリタン通り沿いの高級レジデンスの車寄せへと滑り込んだ。
本当に何気なく、そのリムジンが景色から浮いているような気がして目で追って……後部座席から降りてきた人物の姿を見た瞬間、私は驚きのあまり、眼鏡を鼻までずり落としてしまった。
一分の隙もないグレーのスリーピースに、彫刻のように整った横顔。
「ほんとに居た……!」
私自身、彼を見つけられる確信なんて蟻の触角の先ほども持っていなかった。
運命的とも言えるその再会…といってもこっちが一方的に見つけただけだけど、兎に角その二度目の遭遇に腰を抜かさんばかりに驚いてから、急いで道路を横切り、男性を追う。
奇しくも、今の私はあの時とほぼ同じファッションであり、ここで顔を合わせれば「ああ、あの時のスコーンのお嬢さんか」なんて感じに思い出しても貰えそうだった。もしそんな事になったら、いっその事面と向かって「貴方と加納由香さんの関係は?」と言っちゃおう!
彼はその要塞のようなレジデンスの入り口へと消えていき、私は緊張に震える足で、吸い寄せられるようにその建物のエントランスへと近寄る。コンシェルジュデスクの脇にある入居者一覧のプレートを、大きな眼鏡を直しながら食い入るように見つめた。
そこには、この街の「上流」を象徴するような名前が整然と並んでいる…。
『鳳凰法務会計事務所』
『グローバル・キャピタル・マネジメント』
『一般社団法人 日本次世代戦略研究所』
『銀座・真珠商事(池袋出張所)』
『セントラル・ウェルス・コンサルティング』
『岩隈エステート・ホールディングス』
そして…冷たい金属の光沢を放つ一つの名札に、私の眼は止まった。
『神代特別調査事務所』
急ぎスマホで検索してみても、該当する情報はない。
これは『神代特別調査事務所』の格を示す間接的な証拠だ。
私なんかの、ホームページから仕事の依頼を受け付けるような個人探偵事務所とは違う…なにか、この事務所の評判を聞きつけた顧客が大物の紹介を得て仕事をお願いするような…そんな仕組みが予想できた。
同業者なのだとしたら住む世界が違いすぎる!
なにしろ一方は千駄木の雑居ビル内に事務所を構え、片方は池袋西口駅前の高級レジデンス内に事務所を構えているのだ。
私よりも年上だろうけど、それでも30手前くらいだろう。果たしてその年齢で、自分の事務所をこんな所に──。
不意にうなじに嫌な予感が走って、化粧直しのフリをして取り出したコンパクトミラーで背後を見る。
「!!」
信じられない事に…そこにはあの『汚くて臭い男達』の姿があった。
レジデンスの入り口の垣根付近に身を隠すようにしながらこちらを窺っている。
ビル警備員も備えたこのレジデンス内に踏み込んでこそ来ないものの、私は彼らの姿を見ただけでパニックに陥り、出入り口を塞がれる前に急いで外に駆け出してしまった。
前回のヒールとは違うピンクのスニーカーで後ろを振り向きながら必死に走る。
恐怖のあまり身を隠してやり過ごすとか、そんな風に頭を使う余裕もなかった。
え? 何? どうして??
人にぶつかりながら、「ごめんなさい!」と叫んでそのまま走り続けて、一回派手に転んで、親切そうなサラリーマンの男性に「大丈夫ですか」と助け起こされた。
私はそんな親切な男性に満足にお礼も言えないまま、また走り出す。
嫌だ。
もうあんな目に遭うのは絶対に嫌。
あんな目に遭うなら死んだ方がマシ。
本当に必死に、命懸けで走る。
奴らが後ろから迫ってきてるのに脚が縺れ出す。
どこへ向かっているのかも分からない。 ただ、あの臭い、粘つくような暴力の気配から逃げたい一心で、私はメトロポリタン通りの裏路地へと折れた。
視界に僅かに緑が見えた。都会の隙間に取り残されたような小さな公園──元池袋史跡公園だ。あそこなら人がいるはず。助けてくれる誰かが……。
「はぁっ、はぁっ、……っ!」
口の中には血の味が広がってる。
公園の入り口にある石碑を通り過ぎ、公園内に踏み込む。
…けれどそこには誰もいなかった。 あるのは、真夏の暴力的な日差しを受ける13羽のふくろうのオブジェが止まっている「梟の樹」というモニュメントだけだった。
背後で、パタパタと乾いた足音が止まる。
「逃げ足速ぇえなぁ、お嬢ちゃん……」
フラッシュバックで何度も聞いたあの濁った声。
怯えて振り返る私のすぐ前に、彼ら3人がいた。
私はその場にへなへなと座り込んでしまう。
いつだったかの時と同じように、彼らは私を取り囲んで、まず煙草を一本、悠々と吸い出した。
「……なんで…私別に…、ど、どうしてここに……っ」
「お前がどこで何してようが関係ねぇんだよ。こっちは『お前をきっちり仕上げろ』って言われてんだよぉ」
上からの命令? 誰の? 一瞬、先ほどレジデンスに消えていったあの男…『神代』の顔が脳裏をよぎる。
まさか、彼が私が探りを入れていることに気づいて、この獣たちを放っていたの?
「……やだ、助けて、誰か!!」
続けて叫ぼうとした口を、あの脂ぎった掌が塞いだ。
背後から羽交い締めに抱き起こされて、私は公園の中央にある「梟の樹」の冷たい金属の支柱へと押し付けられた。
「大声出していいのかぁ? またサンシャイン60通りの時みたいに皆が寄って来ちまうぞぉ? ? じゃあ今日は…この公園の新しいオブジェになってもらおうか。散策に来た奴らが拝めるように、このモニュメントに裸で縛り付けてやる。池袋の新しい名所の出来上がりだ」
サアッと血の気が引いて脳貧血を起こし、ぐにゃりと膝が折れる。
男の1人がスマホを構え、レンズを私の顔に向けた。
ニタニタと笑うその口には茶色いボロボロの前歯が見えて、物凄い口臭が漏れている。
「い~い顔してるな。あの人がエロ画像を欲しがるのも納得出来るぜ~」
「……や…めて……お願い……」
「嫌なら、自分から協力しろ。……ほら、自分でパンツ脱げよ。それとも、俺たちがもっと酷い目に遭わせてから脱がせてほしいか?」
耳元で囁かれる逃げ場のない二択。抵抗すればより無残な姿で晒されると言われて、涙で視界が歪む。
13羽のふくろうの像が、何も言わずに私を見下ろしている。
真昼の池袋。喧騒がすぐそこで聞こえる場所で、私は一人絶望の淵に立たされていた。
奴らへの生理的な嫌悪感で凍り付いている指先を震わせながら、自分の腰元に手をかける。彼らに取り囲まれながら、自らスカートを持ち上げ中のショーツを掴んで 降ろして、脚から抜く。
震えながら汗ばんだショーツを差し出すと、彼ら3人はそれを回して匂いを嗅いだ。
「うぉ。やっぱお前マンコ臭っせぇ~な」
ギャハハハと大声で笑われる。その屈辱は、力ずくで奪われるよりも深く私の心を切り裂いた。
「よし、じゃあこの場でオナニーしろや。いつもやってんだろう? スカートの裾を自分で咥えて持ち上げてだな、そのぶったるんだ下腹を俺達に見せながら、両手で弄るんだ…オラ! 泣いてねぇでさっさとヤレ馬鹿! な~に安心しな、ちゃんと綺麗に動画に収めて──」
その時──私の左耳に足音と跳躍音が聞こえたと思った直後、ガツンと何か固くて重たいもの同士がぶつかった衝撃音と同時に、私に向けられていた中年男のブサイク顔が尚も醜く歪み、首から捩れんばかりに右方向へと吹っ飛んだ。
体重90キロはありそうな中年男性の身体が、ドオッと音を立てて石畳の上に横倒しに崩れる。
男の顔があった位置には、拳が伸びている。
飛び込んできた誰かが、私の髪がなびいてストローハットが落ちるくらいの、突風が吹いたかのような勢いでこの暴漢を殴り倒したのだと理解するのに、僅かな時間を要した。
スカートの裾を掴んだ手をお臍くらいまで持ち上げていた状態で固まって、足元で男が低く呻く声を聞きながら、暴漢を殴り倒したその腕を辿って視線を動かす。
「海斗…くん?」
「テメェら…」
そこには、見たことも無い表情で毛を逆立てんばかりに怒っている、「琥珀」のアルバイト学生さんの姿があった。




