そうは言っても…ねぇ?
洞窟から程なく歩いた場所に、渓谷というには狭い道を歩く。広大な坂を登り、無心に、ただひたすら足を進めた。
「マサヨシさん。着きました。」
流れ行く地面の模様に飽きた頃、右隣を歩いていたダビデが言葉を落とす。
顔を上げると、目の前に出てきたのは、盆地の入口で待ち構える瓦の屋根を持つ大きなお店だった。
大きな瓦の屋根は堅牢だが、色合いによって無骨に感じない。玄関口は設置されていないため、居抜きが丸見えとなっている。奥には畳が敷かれており、着物を着た人たちが居心地良さそうに居座っている。
「これは…まるきり日本だな。」
建物だけの話ではない。金髪の美人などが着物を着ているので異国感があるものの、黒髪と面長な日本人そのものもが多数を占めている。
今までのイギリス味のある世界から代わって、今度は江戸中期にでもタイムスリップした気持ちだ。
「ええ。元々ここは日本人の転移者によって開拓され、発展したのです。その血、感性は日本に近しい物ですよ。」
「手に技術があれば、まぁこんな感じに成長するわな。」
ダビデが生易しい目で広間を見渡していると、何処からか声が飛んできた。
「ほら!あの人だよタヌキのお嬢ちゃん!」
声の方に振り返ると、赤い着物を羽織る女性が女の子の手を引いて現れた。その女の子は、紛れもなくポコだった。
「お!!やっぱり生きてたなポ____________」
名前を呼ぶ前にポコは駆け寄り、俺の胸に飛びついた。まるで小さな子どもが、お父さんに飛び乗るみたいだ。
「________おいおい、どうしたんだポコ。」
「勝手に消えないで。」
「いやいや、たしかにそうだけど…ダビデが勝手に。」
胸元に感じるポコの体温は温かい。小刻みに震えていて、体も軽くて、こんな小さな体に、ポコは不安を押し込めていたのが伝わってきた。
俺はポコのことを見誤っていた。いつも隣りにいて、俺の負担を分け与えるに足る強さを持ち合わせていると勘違いしていた。この体に感じる全てが、彼女が子供だと認識させてくた。
だから不安にさせたことが申し訳なくて、俺は頭を優しく、体温がわかるほどにゆっくりと撫でながら褒める。
「悪かったな。でもよく頑張った。偉いぞ。」
「・・・もっと撫でてください。」
「はいはい。」
可愛げのあるやつだと思っていると、周りの空気が変なことに気がついて頭を上げた。
通りすがる住民たちがニヤついていて、気恥ずかしさに耐えられなくなってきた。限界を迎えそうな俺に、ダビデが後ろから耳打ちを囀る。
「良き、伴侶になりそうですね。」
「うるせぇ!!てめぇにだけはわたさねぇよ!!!」
「おやおや…。」
「ポコはもっといいとこ嫁がせんだよ。てめぇいがいのとこでな。」
分け隔てなく見守っているつもりだ。
だけど、いくら取り繕った言い方をしても、俺にとってポコは特別だ。
弟くんのことも、色んな苦難を一緒に乗り越えたことも色あせぬ記憶だらけ。だから幸せになってほしい。そういう気持ちを向けるのは間違っているだろうか。
「それでは…面子を集めましょうか。」
黄金の騎士は脇に少年と少女を置いて、監視台から征服者達を見送っていた
「親方様〜!クスクス」
少年は征服者の後ろに並んで歩く、子供たちを指差し数えて笑った。黄金の騎士はあまりに誠実さが欠けると思い、低い声で優しく叱咤した。
「リュウヤ、辞めなさい。人に指をさすんじゃない。」
「だって親方様!たかだか子供6人と大人1人でガンニバルと戦うんですよ。何ができるって言うんですか?クスクス。なめすぎ。」
「……お前たちは征服者の実力を見ていないからそう言えるんだ。」
「獣人風情に。あのタヌキはやりそうだけど、他の子供はパッとしないですよ。」
単なる奴隷商と言う奴もいる。様子のおかしい狂人だと言う奴もいる。リュウヤもその1人であることに黄金の騎士はため息がでてしまった。
「彼奴らは俺の武を受け止め、生き残った者達だ。アイツと力試しをしてからそういう口を聞くんだな。」
「クスクスクスクス!僕だって親方様の攻撃を受け止めたんですよ。クスクス。村一番のこの僕の相手が務まるとは思えませんよ。クスクスクスクス」
跳ねっ返りと言うには邪悪だった。純粋故にひた走る事をやめられないリュウヤの性格は、悪い方向へとひた走っていた。
「クスクスクスクス!ぜひお相手をした_______いでぇ!!!」
いつまでも調子良く笑っていたリュウヤの頭に、少女の拳骨が降りてきた。
「いっでぇ………なにすんだ!!!」
「いい加減鼻を高くするのはやめてよ。私まで怒られるんだから。」
いい意味でも悪い意味でも正直な少年を、うまくコントロールしていたのは少女だった。
「姉貴面して…」
「お姉さんですから。」
「……チッ。」
2人のやりとりを見ると、変わってないなと思う反面、これからの成長が楽しみになる。
黄金の騎士は腕を組み。征服者の背中を眺めながら、祝福した。
「苦難多き道を歩くか。幸多い事を祈ろう。わが戦友よ。」




