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ブラック企業奴隷の俺は異世界転生して奴隷を解放してみた  作者: ヒゲ博士
第4章 新たな素材はビジネスチャンスのチャンス

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西部劇

 大きな山をくり抜いたような道の真ん中で、我らが勇者は腕組みをして立ち塞がっている。僕はその姿を、切り立った崖から眺めていた。

 立ちふさがると言っても彼は一人。一人にしては広すぎる道で、しかも鎧を着て丸腰。腕組みしながら少しづつ見えだした車列を眺めているだけだ。このままこの状態を変えなければ惹かれて死ぬのは避けられない、なのに勇者は動こうとはしない。

 こんな光景は誰が見ても異様だろう。隣にいる少年もその感想は変わらないようで、不安そうな顔で僕に話しかける。


「な、なぁ隊長。勇者様はあんな張り切ってたけど…本当に大丈夫なのかよ。」


 彼は勇者を知らず、育ってきている。彼がこの街に残した歴史に触れるだけで、本当の彼には触れたことすらない。

 少年の心持ちも含めて愛らしく感じ、僕は坊主頭を乱雑に撫で回した。


「な〜や〜め〜ろ〜。」

「安心していい。あいつは一度言い出すと、誰の話も聞かない性格だけど、ちゃんとやり切るやつなんだ。勇者になって帰ってくるといえば、本当に勇者になって帰ってきちゃうんだから。」


 あの日、村を出ていく背中を止められなかったのは送り出すためなんかじゃない。黄金に輝く鎧の姿、ジークフリードに並ぶ後ろ姿が見えたからだ。


「・・・すごいんだ。」

「そうだ。僕の幼馴染はすごいんだから!!」

「おーーーい、次期村長殿。あの車列でいいんだよな。」


 砂煙を立てながら、馬7頭が引く大型の荷馬車を指さした。

 

「いいよ!聞いていた話とは違う車列だし!やっちゃってよ!!」


 最近ギルボアでは鎖国を開くという考え方が広まっている。あれほど頭の硬かった村長ですら、その考え方に賛同を始めている。ふざけるな。

あの車列を見てみろ。いつまでも襲撃しようと、どこからか聞きつけてきた野党が迫ってくる。


「ふぁ〜めんどくせぇなぁ。」


 彼の気質に合わないことはわかっている。だがこれは勇者の責任でもある。恒久的平和がもたらしたのは、中身の甘いところだけを吸いつくされて腐った果実なんだ。


「_____おっ。この感じ。」


 勇者の反応が変わった。黄金の兜で表情は読めないけど、彼が何を考えているのかはわかる。母親が作る料理に、たまたま好物が出てくるみたいな、そういう高揚感に似てる。


「おい!ちょっと目をつぶってろ!!」

「え、なんでそんな__」

「全力全開で行かせてもらう。」


 勇者はなにもないはずの空間から剣を引き抜いた。身の丈ほどあるその剣を腰の横まで落とし、膝を少しだけ曲げた。上段から振り下ろすときの構え方だが、彼の武器と能力が合わされば、地形が変わりかねない。

 まずい状況に落ちていくことがわかっても、先程行った通り、彼は人の話を聞かない。


黄金道(ゴールデンロード)は辞めといてやる。だから全力の剣戟を____」

「おい!ダイキ!!何しようとして」

「うけてみやがれぇぇぇぇぇぇぇええええ!!!!」


 振り下ろす大剣は素早かった。瞬く暇を与えず、剣は地面に切っ先を当てていた。


「はやっ!!うわあああ!!!!!」


 軌跡をなぞるように、なにもない空間に切れ目が入る。その切れ目から視界のすべてを埋め尽くす光を放った。その光はなんの理屈があるのかわからないが、周りの空気を吹き飛ばし、あたりの木々を横薙ぎした。


「わっ!ちょ!!助けておねぇちゃ___」

「マコ!!」


 体が軽いマコは身体を浮き上がらせていた。反射的に腕を伸ばし、手を掴む。まるで災害のような攻撃は、暫くの間、止まることはなかった。





















  御主人様の命令で前方の車両へと飛び移った。木の骨で構成される荷馬車の屋根に乗り、目を細める。すると御者の隣で座っている犬獣人の太郎が様子を伺った。


「ポコ、どうですかな?」

「間違いないわ。最速よ。」


 遠くの場所で煌めく鎧。間違いなく最速のジークフリードだ。まだ射程圏外であるのが幸いして、準備を進められる。


(御主人様。どうしましょうか。……御主人様?)


 テレパシーを飛ばしてみるが、反応がまったくない。頭の中の静けさが怖くなって振り返る。

  

「…うそ。いない。」


 馬車が一台足りていなかった。一番最後尾の馬車だ。我が御主人様とダビデ様を載せた車だけが、まるで最初から居なかったように消えている。


「だれか!!だれか御主人様を見たやつはいないのか!!!!」


 ざわつく心が止まらなくて、誰彼構わずテレパシーを飛ばす。皆口々にいうのはさっきまで居たのみで、なんの役にも立たない。_____こうなれば全広域テレパスで御主人様を探すのみだ。

 居なくなるわけなんてない。国を滅ぼしかけるような御仁が、太ったオスなどに騙されるわけがない。何が何でも見つけ出して謀った人間の喉笛を食いちぎってやる。

 水のように込み上げてくる呪詛が、視界を真っ黒に染め上げる。耳にしていた馬の蹄が鳴らす音すら、耳を通り抜けて聞こえない。

 半自動的に生み出され続ける言葉(のろい)が勝手に口から吐き出して、思考がどちらに向かうのかすら、自分でもわからない。


「ポコ。落ち着きなされ。」


 いつの間にか隣に居座っていた太郎が優しく声をかけてくれて、怒りに沈みかけていた私は、思いの外冷静に現実へと戻って来られた。

 

「ここは先頭です。後ろにいるのは御主人様だけではない。貴女が御主人様の相方という自負があるなら、個々を取り持つ責任を果たしなさい。」

「…。」


 わかっていた。わかっていたことなのに、支えが抜かれただけでこんなにも簡単に落ちてしまえた。想い直せ。あの人が守ろうとしたモノを守るんだ。


(ポコ殿の聞いていた性格とはかなりかけ離れた言動ですな。愛ゆえの憎しみ化か、転生者とパスを繋がれた獣人への影響なのか。どちらにせよ気をつけねば。共倒れしかねない。)


 太郎は柔和な笑顔のまま、刀を抜き取り、掲げる。


「偽法魔術【指揮取り棒】。」


 刃部の形が変わり、刃から単なる鉄の棒へと変貌していく。太郎の偽法魔術は魔法よりもワンランク下がる魔術。周囲の魔法という性能を真似て、モノへと転写する。

 だが目の届く範囲で参考になる特異があること、想像に極端に近い物が手元にないと発動できない縛りがあるが、仲間が多ければ多いほど有用だ。そして、そのサポートアイテムが、彼の手に持つアーティファクトの【含有魔力変形二型妖刀マサムネ】だ。


「今回、私は指揮に回ります。貴女が最速のジークフリードを打つのです。」

「…でも私なんかじゃ。」

「それはそうです。あんな傑物に一人では無理だ。だが仲間が6人いれば話は違うし、その内の一人はコンクエスタの右腕たる貴女だ。やってやれないことはない。」


 太郎の話が言い終えると同時に、強烈な寒気が身体を撫で回して去っていった。殺意なんて雑多の言葉では言い表すことができない圧倒的な何か。間近で龍にでも睨まれたようなプレッシャーだ。

 それはあの日、商会ギルドで味わったものと同じで、御主人様がいたから生き残れたのだ。

 視界の先で、鎧が空間から剣を引き抜いていた。ジークフリードはまた黄金剣を引き抜いている。


「迷ってる暇はない…。」


 私も意を決し、自分の相棒である巨大な斧を空間を捻じ曲げて引き抜いた。


「ポコ殿、良いですか。相手はおそらく遠距離攻撃を放ちます。黄金道でない限り、貴女のマサカリなら凌げるはず。時間があれば私が指揮を取り、どうにかして差し上げます。ですから____耐えなさい。」


 私の考えなんか聞いてもらえるほどの余裕はない。なぜなら遠い場所で最速は剣を振り下ろしていたからだ。


「いくよ、マサカリ。」


 だから斧の柄を両手で握り込む。それから刃部を後ろに待機させて、腰を落とす。


「…私の想いに答えなさい。握り込んだ柄から伝わる私の魔力を吸い上げて___」


 黒フードさんから魔法のことを教わった。私は転生者だから魔法を使えない。だから、技術とシステムを委託する魔術を使えばいいと。

 だからこの斧の柄には、モロキーという職人からもらった誕生日プレゼント、最古のアーティファクトが仕込まれている。その効果は【想いを受け取り、答える】。

 アーティファクトはすぐに発動した。周囲の魔力と私の力を吸い上げて、緑色の光が輪郭をなぞり始めた。


「迫りくる敵を打ち砕きなさい。我らが居城を守るために___マサぁぁぁぁ______」


 思いを汲み取ってもらうためには、それなりの時間が必要。想いが成し遂げられる前に、射出目前に、事態が動き始める。なぜなら、遠く煌めく黄金の鎧が強烈に瞬いたのだ。

 絶望の淵で何故か時間がゆったりと流れ始めた。私は今更早めることもできない。これでは___

 間に合うか間に合わないかの瀬戸際で、太郎は指揮取り棒を優雅に振る。


「やはり一瞬だけ間に合わない。カシオペ殿。」

「がってんしょうちーーーーっ!とかいうけどもうやってたりして〜〜」


 カシオペは転生者ではなく現地の者人間なのでだから、私とは違い、魔法が扱える。だがカシオペの家系的なもので魔法としては少し歪な力だ。

 無から有を生み、最速で結果をなすのが魔法なら、彼女の魔法は対局に位置する。

 詠唱も手のポーズも道具も使わない。見たものなら、好きなように、そして全てに作用される半自動的な力。動き、現象が結果に行き着くまでひたすら長引かせるという魔法だった。


「ほんと、少しだけしかむりだったかも〜〜〜〜〜。」


 突然瞬いた光は一瞬の遅れを見せるが、押し寄せて光は目と鼻の先まで迫っている。死を実感するも、まだ死んでいない。

 突然生まれた空白に、思いがけないチャンスに、私のすべてを打ち込んだ。


「カリッ゙!!!!」


 一挙に振り抜く。斧は眼の前の光と触れて、関節に衝撃が突き抜けていく。痛みで手を離しそうになるが堪えた。歯を噛み締めた。青筋を立てて握り込んだ。


「マ゙ザガリ゙ッ!!!!!」


 ギリギリのラインで踏みとどまる。この柄が、私の手が、想いが折れない限り、絶対に負けない。

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