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ブラック企業奴隷の俺は異世界転生して奴隷を解放してみた  作者: ヒゲ博士
第4章 新たな素材はビジネスチャンスのチャンス

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仕事人は眠れない

 いつもとは違って、窓の外からは日差しと料理の匂い、それから人の声が漏れてくれる。

 ここは商業都市アキナイにある商業ギルド保有の宿。その角部屋だ。

 オーセンティックな部屋には漆が全壁に塗られている。怪しく照り返すシックな色合いが目立つ床や壁と、高級なソファ。

 ソファの大きさに合わせたのだろう。長方形の大きなモダン机に、コーヒーが7つ並べられていた。

 俺は目の前の小さなマグカップを取り、一口呑んでから言葉を放つ。


「俺たちはこの半月はとても苦労した。」


 椅子に座り込むポコ、ヘビ獣人のヤクトが大人しく耳を傾けている。


「だが仕事がある。いろんな出来事、気持ちを置き去りにしてでも、俺達は自分達の仕事を成し遂げないといけない。」


 机に腰をかけ、足を遊ばせるマリアナは聞いているかどうか怪しいものだ。

 幼い見た目も相まって、危なっかしいその様子を心配そうに見つめるのは、エゾシカ獣人のカシオペ。こちとしては、頭の大きな角がマリアナに刺さらないか心配だ。

 4人の様子を全く無視し、犬獣人の太郎と、同じく犬獣人の女の子アヤメはふたりでジャンケンをしている。何してんだコイツラ。


「生き残った子供たちを幸せにするために。みんな、ついてきてくれてありが________ちょっとは落ち着いて話を聞けよ!!」


 堪忍袋の緒が切れて、怒りをぶちまけてしまった。みんなが一斉にビクつく中、マリアナだけが平常運転だ。軽いため息を交えて鋭いツッコミを入れる。 


「いちいち硬いのよコンクエスタ。そんなこと言わなくてもわかってるわよ。」

「マリアナちゃん…ご主人様はね。心配してるのよ。」


 カシオペは立ち上がり、優しくなだめに入る。流石はみんなよりも1つ上のおねぇさんだ。いいお嫁になるだろう。


「だって朝ごはんは、あんなにカチカチなパンだったから。怒ってないかなって、心配になって。」

「全然そんなことはないぞカシオペ。ありがとう。座りなさい。」


 少ししょぼくれた様子で座るカシオペを、マリアナは笑っていた。


「どこか抜けたところも素敵よ。カシオペお姉さん。」


 ちょっと嬉しそうな様子だが、それで良いのかおねぇさん。

 子どもたちの相手をしていては時間がいくらあっても足りないので、咳払いを1回、話を繋げていく。


「今回の仕事はいつもの商業じゃない。お前達の能力やスキルに依存した【汚れ仕事(ダーティーワーク)】になる。」


 俺の言葉の意味を理解しているのは転生者であるポコと転生者の知識を受け継いでいたマリアナのみで、その他は口を開いたままだった。

 最初と聞いていた話から大きく変わった事に気づいたマリアナが言及する。


「急ね。最初の話じゃ護衛任務だったじゃない。」

「……仮面の男ですか。」


 勘の鋭いポコが答えを出してしまった。隠すつもりはないが、このままでは印象が悪いので説明をしなくてわ。


「そうだ。仮面の男の報告が最近増えているらしいんだ。この仕事に関係する馬車屋や、貿易商の店主まで、同じように襲撃されたらしい。だから雇用主のダビデさんは国家に支援を要請したんだ」

「え…なにそれ。せっかくの個人の販路を、国に吸収されたってことじゃない。」

「そういう事…かわいそうだけどな。だから護衛任務ではあるものの、俺達は怪しい人物を消す為のガードとして機能しなくてはならなくなった。」


 当初の話では積み荷を運ぶ馬車列の護衛だったのが、今回は近づいたものを排除する役割を持つことになった。国命という大きな権力の元、俺達の手には生殺与奪の権利を履行できる。所謂国家事業という話なったのだ。

 期せずしてインフラに携わる事になったのは大きい。ここで失敗はできない。とはいっても殺人をしたいわけでもないため、そうならないように考えたのが今回のパーティーなのだ。


 するとカシオペは視線を落として呟いた。


「できることなら、人殺しはしたくないですね…。」


 気づけば簡単に人を殺していた。塗り替えられた普通を、押しつけるつもりはない。


「わかってるよカシオペ。だからこのメンツなんだ。」


 俺はカシオペの頭を優しく撫でてから、丸めていた紙を机に広げた。

 ゆるやかなカーブを描く線が階段のように並び、その線に沿うように点が並ぶだけの絵。地図とはいい難い単なる絵に、マリアナにはそれが何なのかすぐに理解した。


「あら、等高線ね。」

「よくわかったな。そのとおりだ。」


 等高線は地図の地形を線で表し、山の標高などを表しただけの物。転生者ならではの技術なので、この地図を一見したこの世界の住人には意味が分かるはずもない。

 それを利用したダビデさんも目の付け所がいい。これなら地図を取られてもルートがバレることはないだろう。


「この7個ある点が行商の列。俺たちの護衛対象になる。最前線には太郎、お前だ。」

「わ、私ですか!」


 ジャンケンに没頭していたのか急に名指さしされ、太郎は耳を立てる。


「相手は少なからず瞬間移動の魔法に長けているからな。匂いに敏感なお前が1番適任だ。」


 結構なムタゃぶりだと理解はしてる。もともと連れてくるつもりではなかった為に、きっと準備もしていなかったろう。


「任せてくださいませ!ご主人殿の期待に応えますぞ!!」


 それでも太郎は胸に手を当て、目を輝かせていた。無茶に答えることに気概を立てる。俺の周りにいる子どもたちはこんな気質ばかりだ。


「2両目はポコ。お前のマサカリの射程範囲は広い。攻撃力もあるし、このあたりがいいと思うけど、どうだ?」

「問題ありません。」

「3両目はカシオペだな。物事を落ち着いて判断するサブリーダーの役割だ。」

「さ、さぶりーだー?」


 小首を傾げて、頭の上にクエスチョンマークを作っている。思っていた反応ではないが、それは俺の落ち度だ。

 何故なら忘れていたからだ。カシオペはナチュラルなこの世界の住人。転生者と何処かでは血が繋がっているのだろうが、知識も血も薄く、現地人とは大差がない。


「そうだな…俺の次にエライ人って感じ。」

「ポ、ポんこさんですそれは!!その御役目は!!」

「焦るなよ。誰だそんなギリギリ卑猥な言葉」


 焦り散らかすカシオペは、大かな身体と角を小刻みに震わせている。


「ポコもそうだが、いつだって君達の近くにいるわけじゃない。そろそろ誰かにも同じ役目を担ってほしい。その為の練習だ。」


 意図する事は読み取れたのだろう。カシオペは不安そうに眉間に皺を作って、拳を作り、大きな声を上げた。 


「わかりましたぁー!!任せてください!!」

「すごいやる気は伝わった。なんだその体力会系の会社みたいな声は。」

「えへへ。」

「………まぁいい。次はアヤメ、ヤクト、マリアナ、最後尾に俺だ。これは行商の列が二分したときに、戦力のバランスが偏らないようにするためだ。その事はみんな認識しておいて。」


 みんなが頷く姿を見て、より一層気概を持たないといけないと感じる。

 普段の行商ならば、列を長くするのは避けるべきだ。分断分裂を回避するため、千鳥に配列するか2列になるのが一般的。だが今回は一列の長蛇であり、隙も多い。分断を狙われてしまっては成す術がないのは明白。

 もし仮に分裂してしまったとて、俺がいなくても動けるような配分にしたのだ。

 とまぁここまで話した所で、会話を切る。今日の夜になる。集中力を途切れさせてはいけないな。

 

「作戦会議は終わり。なんか質問あるか?」


 みんな特に無いと首をふるばかり。なのでここで解散をし、夜まで自由時間にした。





 












「失礼します。」


 ダビデは寝室の扉を開いて、言葉を放つが反応はない。

 暗い部屋の中で、一際目立つ大きなベッドの上に、着物を着た髪の長い女性が座っている。だが指先一つすら動くことはなく、暗闇に溶け込むようだった。


「……もう少しです。」


 彼女の前まで足を進めて、片膝をついた。それはまるで王女に謁見する臣下のように見える。


「この土地を離れ、貴方を守るための旅にでる。それまでどうかご辛抱を。」


 深く頭を垂れる。


「あの人から受けた仕事は必ずやり切りる。安心して下さい。我が転生者よ。」


 光に晒されない忠義がここにあった。闇に閉ざされた静かなる部屋で、誰にも知り得ない気持ちが居座り続けた。

 

 

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