王都への道
疑われるというのは、不思議なことです。
何もしていなくても、距離ができてしまうことがあります。
王都へ向かう馬車は、思ったよりも揺れなかった。
石畳の整った街道を進むため、車輪の音も一定で、規則的な振動だけが続く。夕方に出発した一行は、すでに森を抜け、遠くに王都の塔が見え始めていた。
特務第七部隊の騎士が前後を固めている。
だが緊張した空気はない。
誰も剣を抜いていない。
それでも、拘束されているという事実は消えなかった。
フィアは馬車の窓から外を見ていた。
今日は茶色のコートのままだ。袖を少しだけ握りながら、流れる景色をぼんやりと眺めている。
「王都、久しぶり」
声は穏やかだった。
だが少しだけ、元気がない。
カイルは向かいに座ったまま答える。
「前は市場に行った」
「うん。パン美味しかった」
小さく笑う。
その笑い方が、いつもより静かだった。
馬車の外では、レオンが騎馬で並走している。
何度も馬車を見ている。
だが中には入らない。
言葉を探している。
それが分かる。
ガルドが隣で低く言う。
「お前のせいじゃない」
レオンは答えない。
ミリアが続ける。
「でも、きっかけではある」
正直だった。
セレスが少しだけ困った顔をする。
「責めてるわけじゃないわよ」
だが、レオンの表情は変わらない。
馬車の中で、フィアが小さく呟く。
「疑われるのって、ちょっと変な感じ」
カイルは静かに聞いている。
フィアは窓の外を見る。
夕焼けが森の端に沈んでいる。
「私たち、そんなことしたことないのに」
責める言い方ではない。
ただの感想だった。
少しだけ沈黙が落ちる。
馬車が揺れる。
遠くで王都の門が見えてくる。
高い城壁。
夕日に染まる塔。
大きな街だ。
カイルが短く言う。
「気にするな」
フィアは少しだけ笑う。
「うん」
けれど完全には消えていない。
それを、カイルは見ている。
王都の門が開く。
騎士団が道を開ける。
夜の灯りが一つずつ灯り始める。
人の多い街の匂いが流れ込む。
馬車はそのまま中央区を通り、王城の外郭へ向かう。
そして見えてくる。
石造りの高い塔。
王都監獄塔。
上層ほど窓が小さくなり、夜風が強く当たる場所。
だが一番上の階からは、街全体が見渡せる。
フィアは塔を見上げる。
「高いね」
「そうだな」
カイルも見る。
王都の夜景が広がり始めている。
馬車が止まる。
騎士が扉を開く。
丁寧な動作だった。
敵意はない。
だが仕事としての距離はある。
フィアが降りる。
夜風がコートを揺らす。
塔の上を見上げる。
窓から月が見えていた。
「景色、きれいそう」
ぽつりと言う。
カイルは少しだけ空を見る。
月は高い。
王都の灯りも広がっている。
「……そうだな」
その一言で、フィアは少しだけ元気を取り戻す。
二人は並んで塔の入口へ向かう。
拘束されたまま。
だが足取りは重くない。
レオンが後ろから見ている。
言葉はまだ出ない。
だが、心の中で決めている。
もし間違いだったなら——
必ず、取り戻す。
その決意だけが、王都の夜風の中で静かに固まっていた。
次は物語的にかなり面白い回になります。




