静かすぎる村
消えるとき、人は必ず何かを残します。
それが何もないということは、逆に不自然なのかもしれません。
村へ続く道は、あまりにも静かだった。
風は吹いている。草も揺れている。空も晴れている。
それなのに、音だけが足りない。
鳥の声がない。
家畜の鳴き声もない。
人の気配もない。
フィアは歩きながら、少しだけ眉を寄せている。
今日は淡い茶色のコートを着ていた。秋の終わりに合わせた落ち着いた色合いだが、表情はいつもの柔らかさを欠いている。
「……変だね」
「静かすぎる」
カイルの声も低い。
村の入り口には、荷車が置かれたままだった。
倒れてはいない。
壊れてもいない。
ただ、使いかけで止まっている。
広場に出る。
井戸はそのまま。
洗濯物は干されたまま。
家の扉は開いている。
だが——
誰もいない。
レオンたちが遅れて到着する。
「状況は?」
ガルドが周囲を見回す。
ミリアが地面に触れる。
「……魔力は残ってる」
セレスが小さく祈る。
「でも、人の気配がない」
そのとき。
村外れの畑で、巨大な魔物の死骸が見つかる。
胴体が、一直線に両断されている。
断面は滑らか。
まるで空間ごと切られたような痕跡。
全員が同時に沈黙する。
レオンが低く言う。
「……見覚えがある」
ガルドが顔をしかめる。
「まさか」
ミリアは否定しない。
セレスは視線を落とす。
フィアは死骸を見て、静かに首を傾げる。
「これ、私たちじゃないよ」
当然のように言う。
だがその一言が、逆に空気を固める。
レオンは何も言わない。
だが視線が揺れる。
疑っているわけではない。
だが、否定もできない。
風が吹く。
村の中心で、空気がわずかに歪む。
カイルが目を細める。
「……ここ、裂けてる」
誰にも見えないほど、微細な亀裂。
だが確実に“削られている”。
フィアが小さく息を吐く。
「実験してるみたい」
その言葉が、村の静寂に重く落ちる。
レオンが顔を上げる。
「実験?」
フィアは空を見上げる。
いつもの軽さはない。
「誰かが、裂け目を広げる練習してる」
村の中央に、目に見えない“空白”がある。
そこだけ音が薄い。
そこだけ風が止まる。
消えたのは、人だけ。
殺されてもいない。
倒れてもいない。
“削られている”。
村の空気が、さらに重くなる。
そしてその中心で——
誰の仕業にも見える“斬撃痕”が、冷たく光っていた。
ここから疑惑が始まります。
次話:
勇者側の視点で
「二人の強さは危険ではないのか?」という揺れが生まれます。
いきますか。




