表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
骨の髄まで  作者: 國生さゆり
35/39

シーン35 身上経歴調書



 私、今井哲治は1966年12月22日に青森県の田舎館村で生まれました。田舎館村は青森県の南津軽郡にある人口約7000人の小さな村です。広大な田園風景が広がってましてね、今じゃ全国的に有名な観光スポットですよ。毎年夏には様々な色合いの稲を使って、巨大な絵が田んぼに描かれるんです。冬にはスノーアート、春は石アートと四季を通じて楽しめるそうです。私が8歳の時、父の友治が胃癌で急死して、母・恵美子と2歳下の弟いさむとで、父方の叔父を頼って東京に出てきました。貧しいながらも幸せな幼少期でした。ですが、私が15歳の時、母が再婚しましてね、連れ子同士の再婚だったんですが、私と同じ歳の逸美はいさむにも私にも優しくて、母に対しても本当の親子のように接していました。家族になったのに、私にとってはこの逸美との出会いがよくなかった。



 恋仲になったんです。母から「穢らわしい」と罵られ、義父から半殺しの目に遭わされて、家を追い出された私は悪友の家に転がり込んで、そこでシンナーを覚えて、坂を転がり落ちるように生活も荒んでいきました。挙句、家出してきた逸美と一緒に暮らすようになって、私は何でも屋の売人になりました。二人で生きてゆく為に金が必要だったんです。逸美が死んだ年、17歳になった私は通り名を持つほどに仕上がってまして、地元のヤクザの事務所に出入りするようになってました。そこで知り合ったのが、親父の四代目の大河原朱鷺さんです。親父はなにかと私に目を掛けてくれました。親父と親子盃を交わし、私の渡世人生が始まったんです。



 親父は何をするにも豪傑でして、男の中の男でした。親父に会わなかったら、どうなっていただろうと考えます。薄ら寒い気持ちになります。そんな親父を陰で支えていなのが、かん子姐さんです。親父の代から会社の事、組内のいざこざ、金まわり、そんなあれこれはかん子姐さんが取り仕切っています。姐さんの承諾がなければ、組も金も人も一切動かせません。



 あれは1年前の春だったか、組の遠縁にあたる叔父貴から、開発計画書に載っている国有地の不動産投資の話が舞い込んで来ました。親父は政治家との仕事は何かあった時に、返りもでかいと危惧していまして、金が動く間柄は避けていましたが、表には出せないことの面倒は見てました。この不動産投資に姐さんは乗り気だったです。約230億の利益が見込めましたから、この旨みを姐さんが逃すわけがないでしょう。もちろん姐さんは何度か転がして値を釣り上げて売り抜きました。凄い人です。



 その時できた縁で正政党の二世議員・今河総士氏と姐さんは親しいです。今河氏をゆくゆくは正政党の党首にと、後押しもしています。今河氏も何かと姐さんを頼りにしてます。しょっちゅう三田ひろし氏の愚痴を電話してきていますよ。その度に姐さんは「ちょっと待っててんか」となだめてました。三田氏が写真雑誌に不倫報道されたの知ってますか?今年の衆議院選挙直前です。子飼いのフリーライター高橋を使って、姐さんが撮らせたものです。姐さんの賢いところはこの件で三田氏に恩を売り、今では三田氏を空気よりも軽く、好きなように使えるようにした事です。ええ、そうです。正政党の党首と若きホープを影で操っているんですよ。骨の髄までしゃぶるのがヤクザですが、あの人は、姐さんは男の俺たちより極道です。だから親父も、姐さんが牛耳ってる本家に足が向かなかったんですかね。



 ああ、そうだった、姐さんが不動産売買に使った印鑑はアーク信用金庫、駅前支店の貸金庫に預けてあります。この件の書類も、姐さんが関わった他の裏取引の書類もこの金庫にあります。側近中の側近の中村染矢だって、この貸金庫の存在を知らないです。わたしが、なぜ知ってるかって、そこは弁護士さんの指示がありまして黙秘させてください。



 それから、ここではっきり申し上げます。わたくし今井哲治は今日を持って任侠から引退させて頂きます。悔いはありません。親父の供養はどこにいても、どんな立場になってもできますから。




                                     0000年00月00日

                                        今井哲治 


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ