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骨の髄まで  作者: 國生さゆり


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34/40

シーン34 落日


「裏で話せますか」


 声をかけたのは。


 経済班班長の。


 絵島だった。


 服部が。


 うなずく。


 その様子を見ていた服部班の一人が、すぐに服部のそばへ立った。


 ほかの要員は。


 速やかに。


 動き始め。


 一人。


 また一人と。


 会議室から。


 退室してゆく。


     *


 会議が終わったのは。


 ほんの十分ほど前。


 まだ。


 解散しきれていない。


 人目もある。


 その中で。


 絵島が声をかけてきた。


 ――急ぎか。


 服部は。


 席から立ち上がりながら。


 室内を見回すと。


 絵島班の人員は。


 もう。


 誰も残っていなかった。


 ――会議の前から。


 ――申し合わせていたか。


     *


 たまたま。


 目が合ったのは。


 風見鶏の本部長。


 梅沢だった。


 服部と絵島が居並んでいることに興味を持ったのか、こちらへ歩み寄ろうとした。


 だが。


 指揮官である東京地検特捜部の山本に話しかけられ。


 足を止めた。


 服部は。


 隣に立つ刑事へ。


 小声で言う。


「山本を連れて来てくれないか。梅沢には気づかれないようにな」


 一拍。


「それから、四課の内藤の欠席理由を山本から聞き出せ」


 それを聞いた絵島が。


 露骨に。


 嫌な顔をした。


 服部は。


 絵島を見上げる。


「こうも膠着状態が続くと、揃いも揃って笑い者だ」


 そして。


「そろそろ垣根を外して、意見交換した方がいい。お前もそう思って俺に近づいたんだろう」


 小声で告げて。


 歩き出した。


     *


 裏口を出て。


 右手へ行けば。


 廃棄物置き場がある。


 廃棄物とはいっても。


 元は税金だ。


 要らぬ詮索をされぬよう。


 敷地を囲むフェンスには。


 そこだけ。


 目隠しのためなのか。


 工事用のビニールシートが。


 ご丁寧に。


 縛り付けてあった。


     *


 そんな。


 閉鎖的な場所で。


 中央の絵島に倣って居並んだ。


 経済班の男ども。


 服部を中心に。


 鶴翼の陣を敷く。


 二課の男たち。


 向き合いながらも。


 言葉を吐く空気さえ。


 惜しいとでもいうように。


 沈黙している。


 寝不足の。


 赤い目。目。目。


 不機嫌で。


 無遠慮で。


 太々しい。


 そんな男たちが。


 十人。


 ただ。


 突っ立っていた。


     *


「こんなところで雁首揃えやがって、話って?」


 と。


 せかせかと歩きながら言ったのは。


 服部班の刑事に伴われて現れた山本だった。


「絵島」


 服部が。


 山本へ。


 アゴをしゃくる。


 絵島が。


 話し始めた。


「埠頭で水死した是枝組組長の是枝夏生を覚えてらっしゃいますか? 大河原組の執行役員だった男です」


 絵島の隣に立っていた刑事が。


 A4封筒を。


 山本へ。


 差し出した。


 服部班が。


 先ほど目を通したばかりの。


 書類のコピー。


 それが入っている。


 封筒だった。


 服部は。


 苦々しく。


 恨めしく。


 その封筒を。


 睨め付けた。


     *


 山本は。


 面倒くさそうに。


 中を覗く。


「で、これがどうした?」


 言いながら。


 コピーを取り出した。


「説明を続けろ」


 疲れた声で。


 ぼやく。


     *


 絵島が。


 服部を。


 チラリと見た。


 そして。


「是枝の愛人、須賀今日子が持っていたものです」


「なんでお前がそんな書類を持ってる?」


 コピーへ尖らせていた視線を。


 山本が。


 絵島へ向ける。


「大河原の本部長だった今井の弁護士から渡されました」


「今井の弁護士は、組の顧問弁護士だった田中優から川崎由美子に代わっている。川崎から渡されたで間違いないか?」


「はい。間違いありません。経歴を調べましたら、去年弁護士資格を取ったばかりの新人です」


 山本が。


 右手を上げた。


 絵島の。


 次の言葉を。


 止めた。


 山本は。


 コピーを。


 読みふけった。


     *


 誰も。


 口を開かない。


 誰もが山本へ。


 視線だけを。


 預けている。


 やがて。


 山本が。


 顔を上げた。


「ふぅ――」


 大きく。


 息を吐いた。


 暮れゆく。


 夕焼けを。


 見入る。


 その目が。


 ふと。


 服部へ向いた。


「お前は、この線でいいのか?」


     *


 服部が。


 狙うのは。


 正政党党首。


 三田ひろし。


 だが。


 コピー紙に。


 刻まれていた名は。


 違った。


 正政党の。


 若きホープ。


 二世議員。


 今河総二。


     *


 今河は。


 開発計画にある国有地の払い下げに口を利いた。


 その土地を。


 転売し。


 さらに転売し。


 値を。


 釣り上げていた。


 表に立つのは。


 別の人間。


 その先には。


 大河原朱鷺へと。


 つながる。


 大手不動産会社があった。


 そして。


 その会社は今。


 かん子が。


 相続している。


     *


「今井が事情聴取に応じると言って来ています」


 絵島が。


 意気揚々と。


 告げた。


 服部は。


 苦虫を噛んだように。


 表情を。


 渋らせる。


     *


「大河原朱鷺が生存していた時のものだろう」


 山本が。


 絵島を見る。


「どう大河原かん子につながるんだ?」


「朱鷺の生前から、実務はかん子が取っていたそうです」


 絵島が。


 答える。


「かん子は、朱鷺が勝手に物件を動かすのを牽制するため、朱鷺には知らせないまま実印を変えたそうです。その印鑑は、かん子が管理していたそうです」


     *


 山本が。


 黙った。


 そして。


「今井の聴取を許可する」


 男たちを。


 見回す。


「今井は本庁移送とする。段取りは俺が組む」


 一拍。


「今井の証言を確実に、速やかに、公判に耐えうるものに仕上げろ。だが、そうなったら今井は必ず命を狙われる」


 山本の。


 目が。


 一人ずつを。


 なぞる。


「ここにいる全員に箝口令を敷く」


 誰も。


 動かない。


「俺は迷信深い」


 山本が。


 言った。


「今井が雷に打たれても、交通事故に遭っても、この中の誰かが誰かに話したと俺は思う」


 上着の。


 右ポケットへ。


 手を入れ。


「そうなったら」


 タバコと。


 ライターを。


 取り出す。


「刑事でいることが嫌になるぐらいのことを、俺はするからな」


 タバコを。


 咥えて。


 火を。


 点けた。


 コピー紙の。


 端にも。


 ライターの炎を。


 移した。


「解散しろ」


 燃え盛る紙を。


 足下へ。


 落とした。


「法務省はもとより、印鑑屋の裏取りは慎重にな」


 紙が。


 縮み。


 黒く。


 崩れてゆく。


「服部。お前は残れ」


 完全に。


 灰になるのを待ち。


 山本は。


 靴底で。


 踏みつけた。


     *


 山本が。


 うまそうに。


 紫煙を吐き出した。


「吸うか?」


 服部へ。


 聞いた声は。


 穏やかだった。


「もらおう」


 二人は。


 同期だった。


     *


「宅地建物取引業法違反。詐欺。横領。脱税。犯罪収益の隠匿」


 山本が。


 煙を吐く。


「調べを尽くせば、そんな諸々一切合切が出てくるだろう」


 服部は。


 黙って。


 聞いている。


「今回は、お前に泣いてもらう」


 一拍。


「ホープで手を打たせて、すまない」


     *


 服部は。


 笑うしかなかった。


 笑いながら。


 考える。


 ――大河原かん子の。


 ――落日は近い。


     *


 その笑いを。


 一瞥した山本が。


「その代わり、人事には俺から話を通す」


 笑った。


     *


「今後、部下を守るためにも、捜査を思い通りに進めるためにも、階級は上の方がいい」


 服部は。


 タバコを。


 咥え。


「ありがたく頂くよ」


 と。


 嘯いた。




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