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骨の髄まで  作者: 國生さゆり


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22/40

シーン22 興味


 赤松と。


 染矢の前に。


 座した。


 岡田総裁は。


 隣に座る女の。


 膝頭を。


 撫でていた。


 女は。


 大人しく。


 撫でられている。


 源氏名は友里絵。


 万智子が。


 赤松に紹介した女だった。


 身持ちも。


 口も。


 硬い。


 赤松が。


 店を持たせ。


 岡田へ。


 紹介した女。


 そして。


 どこ吹く風で。


 友里絵の膝を撫でている。


 岡田は。


 つい先ほど。


 かん子の。


 五代目襲名の。


 後見を。


 買って出た。


 その。


 見返りとして。


 文字通り。


 赤松から。


 小切手で。


 七億円を。


 受け取ったばかりだった。


     *


「今後とも。よろしくお願い致します」


 赤松が。


 丁寧に。


 頭を下げる。


「お前はもう。俺の力なんぞ。いらんやろ」


 岡田は。


 どこか。


 つれなく。


 抑揚の少ない声で。


 呟いた。


 それを。


 赤松は。


 魅力的な笑みで。


 受け止める。


「総裁」


 一拍。


「総裁あっての。自分らです」


 そう言って。


 何を思ってか。


 赤松が。


 染矢へ。


 顔を向けた。


 岡田も。


 チラリと。


 視線を配る。


 ――なんだ。


 居心地が。


 悪い。


 染矢は。


 岡田から。


 突然、食事に誘われた。


 かん子の困惑を。


 思い出す。


 ――亮治は。


 ――あの頃から。


 ――代行の五代目擁立を。


 ――考えていたのか。


 違う。


 亮治は。


 行き当たりばったりなど。


 しない。


 こいつは。


 周到だ。


 もっと。


 前から。


 計画していた。


 そして。


 実働も。


 していた。


 間違いない。


     *


「そちらの中村さんも。これからは五代目付きだろう」


 岡田は。


 染矢を。


 値踏みするように見ながら。


 言った。


「赤松よ。お前の周りは。盤石そのものだな」


 またも。


 ジトリと。


 言い放つ。


 赤松が。


 笑う。


「総裁」


 一拍。


「俺らの世界でも。血は水よりも濃いなんて話は。今じゃ時代遅れや言うて。私利私欲に走る者が大半です」


 そう言うや。


 超一流の。


 売れっ子アイドル並みの。


 上品な笑みを。


 浮かべた。


「せやけど。総裁と私の盃は。完全無欠です」


 言って退ける。


 ――こんなことも。


 ――こともなげに。


 ――言えるようになったのか。


 思わず。


 染矢は。


 赤松を。


 見そうになった。


 誤魔化すように。


 テーブルの。


 炭酸水へ。


 手を伸ばす。


 その。


 やり過ごしを。


 岡田は。


 見逃さなかった。


「アルコールに代えてもいいんだぞ」


 岡田が。


 言う。


「今夜は。無礼講なんだから」


 ――酒を。


 ――勧められるなんて。


 久しぶりだ。


「飲めないわけでは。ないんです」


 染矢は。


 答えた。


「ザルでして。意味がないんです」


「それじゃあ」


 岡田が。


 口元を緩めた。


「飲んでもいい。ということになるなぁ」


 友里絵へ。


 目を向けた。


「一杯。作ってくれるかい」


     *


 テーブルに。


 置かれた。


 なみなみロックグラスを。


 染矢は。


 手に取った。


「頂きます」


 一気に。


 呷る。


 ――このクソジジイの。


 ――古狸。


 ――噂じゃ。


 ――イケおじだと聞いているぞ。


 ――この蛆虫め。


 飲み干した。


「ご馳走になりました」


 空になった。


 ロックグラスを。


 テーブルへ。


 置く。


     ★


 六杯目だった。


 次を。


 作ろうとした。


 友里絵へ。


「もういい」


 岡田が。


 面白くなさそうに。


 言った。


 そして。


 染矢を見る。


「五代目が。あんたを側に置く理由が。わかった気がする」


 赤松が。


 わずかに。


 動いた。


「総裁。その理由を教えていただけますか?」


 岡田が。


 どこまで。


 染矢を。


 見抜いたのか。


 知りたかった。


 そんな赤松へ。


 岡田が。


 顔を向ける。


「こいつは――誰も信用していない」


 染矢の。


 指先が。


 止まる。


「だが。信じた奴は。絶対に裏切らない」


 岡田は。


 独特な。


 稼業の視線で。


 染矢を。


 射抜いた。


「ただ」


 焦らすように。


 一拍おく。


 そして。


「本性を暴かれたくない男には。ザルっちゅうのは。都合がいいよな」


 なぜか。


 険を。


 滲ませた。


「そうだろう。中村さん」


 染矢は。


 表情を。


 変えなかった。


「無作法なだけです」


 そう言って。


 その場を。


 濁す。


 一呼吸。


 二呼吸。


 染矢は。


 上着の。


 内ポケットへ。


 手を入れた。


 鳴っても。


 振動してもいない。


 スマホを。


 取り出す。


 画面へ。


 視線を落とす。


「申し訳ありません」


 岡田に。


 頭を下げる。


「この電話には。出ないとなりませんので」


 人を。


 駄目にする。


 快適で。


 心地いいソファから。


 染矢は。


 立ち上がった。


     *


 ――岡田総裁と。


 ――赤松は。


 少なく見積もっても。


 一年以上前から。


 連絡を。


 取り合っている。


 こうして。


 顔まで。


 合わせている。


 それを。


 俺に。


 見せつけるために。


 赤松は。


 俺を。


 同席させた。


 それを。


 目の当たりにしても。


 明け透けな会話を。


 耳にしても。


 赤松を。


 阻止しようとは。


 思わない。


 五代目の。


 側近でありながら。


 俺は。


 心の。


 どこかで。


 亮治が。


 描く世界を。


 見たいと。


 思っている。


 ――興味が。


 ――ある。


 ――なにを。


 ――考えて。


 ――いるのか。


 ――その先に。


 ――何があるのか。


 ――見てみたい。


 俺は。


 魔が差す隙を。


 招き寄せている。


     *


 椎田へ。


 電話をかける。


 ワンコールで。


 出た。


「五代目は?」


『皆さんを送り出した後。女どもとラウンジに移動されました』


 椎田は。


 あえて。


 不機嫌さを。


 隠さなかった。


 女たちの。


 襲名披露への。


 出席を。


 椎田は。


 快く。


 思っていない。


 男の。


 場だと。


 思っている。


 それを。


 染矢に。


 知らせたかった。


「そう声を尖らすな」


 染矢は。


 諫める。


「誰の耳が立っているか。わからないんだぞ」


『襲名披露は、男の場です。染さん!』


 食いしばって。


 押し殺していた。


 思いが。


 はち切れた。


 直後。


 椎田は。


 後悔する。


『すみません』


 抑揚に欠ける。


 声だった。


「お前の気持ちは。分からんでもない」


 染矢は。


 静かに。


 言う。


「だが。俺らは組長付きになった」


 一拍。


「感情を。表に出すな」


「今まで以上に」


 念押しする。


「普段から、より静寂でいろ」


『……はい』


 染矢は。


 黙った。


 ――誰しもが。


 ――そう思っているのか。


 そこへ。


 行き当たる。


「なぁ。椎田」


 声を。


 柔らかくする。


「皆。そんな風に不満に思っているのか?」


 電話の向こうで。


 僅かな。


 息が漏れる。


 沈黙が。


 訪れる。


『染さん。すいません』


 返ってきた。


『愚痴なんか。こぼして』


 再び。


 間が。


 空いた。


『不満に思っている奴は……多いです』


 やっと。


 認めた。


「そいつらの動向を。探ってくれないか」


 と。


 言ってみる。


『はい』


 実直な。


 男。


 椎田が。


 答える。


「頼りにしてる、お前を」


 スマホ越しに。


 息を飲む。


 気配を感じた。


「頼んだぞ」


 さらに。


 口にする。


『はい』


 いつもの。


 声色が。


 聞けた。


 安心して。


 電話を。


 切る。


 染矢は。


 スマホを。


 握ったまま。


 考える。


 赤松は。


 もう。


 動いている。


 反乱の。


 機運を。


 測っている。


 ならば。


 俺も。


 赤松が。


 何をしようとしているのか。


 知る必要がある。



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