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骨の髄まで  作者: 國生さゆり
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シーン22 興味



  シーン22 興味



 赤松と染矢の前にした岡田総裁は、隣に座る女の膝頭ひざかしらでていた。大人しくでられている女は万智子が赤松に紹介した女だった。源氏名は友里絵ユリエという女で、身持ちも口も硬く、赤松が店を持たせて岡田に紹介した女だ。そしてどこ吹く風で友里絵の膝を撫でている岡田は、ついさっき、かん子の5代目襲名の後見こうけんを買ってでた見返りとして、文字通り赤松から小切手で7億円を受け取ったばかりだった。




 そんな岡田に、赤松が「今後とも宜しくお願い致します」と言って丁寧に頭を下げると、どこか突き放したつれない態度で「お前はもう、俺の力なんぞいらんやろ」と岡田は抑揚よくようの少ない口調でつぶやいた。それを魅力的な笑みで受け止めた赤松が「総裁、総裁あっての自分らです」と言った赤松は何を思ってか、その顔を染矢に向ける。岡田も染矢にチラリと視線をくばる。居心地の悪さを感じた染矢は岡田から食事に誘われたかん子の困惑こんわくを思い出した。亮治アカマツはあの頃から……、代行の5代目擁立ようりつを考えていたのか……、違う。亮治アカマツは行き当たりばったりなんてしない。こいつは周到だ。もっと前から計画していたし、実働もしていたに違いない。




 「隣に座っている中村さんもこれからは5代目付きだ。赤松よ、お前の周りは盤石ばんじゃくそのものだな」若干ジトリとする言い方をした岡田に、赤松は「総裁、俺らの世界でも血は水よりも濃いなんて話、今じゃ時代遅れだと雑にして私利私欲に走るの奴が大半ですが、総裁と私の盃は完全無欠です」と超一流売れっ子アイドル並みの上品な笑みで言った。




 こんな事もこともなげに言えるようになったのかと、驚きの目で赤松を見そうになるのを、染矢は誤魔化すためにテーブルの炭酸水に手を伸ばす。そんな染矢のやり過ごしを見逃さなかった岡田は「アルコールに代えてもいいんだぞ、今夜は無礼講なんだから」と言い、染矢が酒をすすめられるだなんて久しぶりだと思いながら「飲めないわけでは無いのですが、ザルでして意味がないんです」と言うと、岡田は「それじゃあ、飲んでもいいと言うことになるなぁ」と言って、友里絵に「一杯作ってくれるかい」と言いつないだ。




 テーブルに置かれたグラスを手に取った染矢は「頂きます」と言って、一気飲みしながら“クソジジイの古るたぬき“と思いつつ飲み干し「ご馳走様でした」とロックグラスをテーブルに置いた。




                 ★




 6杯目だった。岡田は次を作ろうとする友里絵に「もういい」と面白くなさそうに告げ、染矢に「5代目があんたを側に置く理由がわかった気がする」と言った。赤松は岡田がどこまで染矢を見抜いたと知っておきたく、横から「理由って?」と聞く。岡田は岡田でそんな赤松に顔を向け「こいつは誰も信用していない。だが信じた奴は絶対に裏切らない。ただ本性をあばかれたくないからこいつはザルなんだ」と言って、染矢を独特な稼業の目で射抜いぬき「そうだろう、中村さん」と言ってみせた。染矢は「無作法なだけです」とその場をにごした。そしてふた呼吸間をおくと電話が入ったフリをして、上着の内ポケットから取り出したスマホに視線を落とすや「申し訳ありません。この電話には出ないとなりませんので」と岡田に頭を下げて、人を駄目にする心地いいソファから立ち上がった。




 …、岡田総裁と赤松は少なく見積もっても、一年以上前から連絡を取り合っている。それを俺に見せつける為に赤松は俺を同席させたんだ。俺はそれを目の当たりにしても、けな会話を耳にしても、赤松を阻止そししようとは…、思わない。5代目の側近でありながら……、俺は…。心のどこかで亮治アカマツが描く世界を見たいと思っている。俺は、魔が刺すすきまねせているのだろうか…。




 椎田に電話をかける。ワンコールで出た椎田に染矢は「5代目は?」と聞く。「皆さんを送り出した後、女どもとラウンジに移動されました」と言った椎田は不機嫌を隠さない。女たちの襲名披露出席を椎田はこころよくく思っていなかった。それを染矢にわかってほしかった。



 「そう声をとがらすな、誰の耳が立っているかわからないんだぞ」といさめた染矢に、椎田は思わず「襲名披露は男の場です、染さん!」と声をあらげてしまい、早速後悔し、「…すみません」と力なく続け、その変化に染矢は「お前の気持ちは分からんでもないが、俺らは組長付きになった。感情を表に出すな。今はいつも以上に、普段よりもさらに静寂でいろ」と口にしてから、誰しもがそう思っているのだろうか……とゆきあたる。「なぁ、椎田。皆不満に思っているのか?」と聞いた染矢の声は柔らかい。椎田は「染さん、すいません。愚痴なんかこぼして…、不満に思っている奴は…、多いです」とヒリヒリとする気恥ずかしさで告げ、染矢は「そいつらの動向どうこうを探ってくれないか」と言った。




 実直な男、椎田が「はい」と判然はんぜんたる声で返事を返し、「頼りにしてる、お前を。頼んだぞ」と言った染矢は考えいた。反乱の機運をはかる赤松に遅れを取ってはならないと。





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