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新次元紀行  作者: 木戸攘夷
第33章 森羅万象のコマンド
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(2)

 暗闇の中でデジタルの時だけが刻々と進んでいく。

 そしてただそれを見つめる、いや、感じるだけの世界。


 考えることを止めなければ永遠に苦しみ続ける。1秒が1年にも、10年が1日にも感じる世界。

 ルームフィックスの中で一切の奥行きのない暗闇を感じ続ける。

 夢さえも虚無に押し潰される。


 僅かな時間でありながらエルメルはもう何日も捕らわれていた感覚に襲われていた。

 その中で殺意という感情のみがかろうじて現実と繋がっていた。


 考えることを停止していたが人は死の瞬間の衝動を死んでからもきっと覚えている。

 それが怒りであり衝動的な殺意だった。


 そして虚無の苦痛が突然吹き飛んだ。徐々に明かりが戻ってくる。

 暗い坑道の中でさえ虚無よりは明るい。


 殺意の衝動がエルメルを現実へ連れ戻す。

 まだ生きていた。いや、活動領域に奇跡の復活を遂げた?と言った方が良いのかもしれない。

 入り口に仕掛けた起爆センサーによって坑道が緩んでいたのだ。


 エルメルを捕獲したはずのルームフィックスの空間が崩落により破壊された。

 本来その程度では破壊されることはない空間。隔壁の閉合に大きな有機不純物が混入していたことで弱くなっていた。

 エルメルの右腕だ。


 暗闇から側室にゆっくりと浮かび上がるエルメル。


 坑道の崩落にも致命傷は受けていなかった。血を滴らせ目を血走らし、重いスチームのような息を吐きながら。


 「ほんっと、しつこいな」

 「もう終わったわ、あなたの出る幕じゃない。後継者はもう選ばれた」

 「き・・さ・・ま・・引・・裂・・・」

 エルメルの言葉は既に人語の呈を成していない。

 怒りに言葉を失った獣。


 あらかた武器も使い終わった。トルクとサルナにはもう戦う手段がなかった。

 じりじりとにじり寄るエルメルに成す術が無い。


 トルクが覚悟を決めて特殊警棒を斜に構える。

 両手を広げたエルメルが腰を若干落とし飛び掛る瞬間を、間合いを計っていた。


 「もうやめなさい。無意味です」

 アルの意識はこの世界に戻って来ていた。


 「・・引・・裂・・・」エルメルはトルクから矛先をアルに向けた。


 「サルバドールも新しいマスターを殺そうとは思っていないでしょう。

 もう終わったのです。マスターである私にこの世界では叶いません。本来私はあなたのようなパラダイムルール違反者は排除しなければいけません。

 このまま立ち去れば見逃しましょう。マスターである私にもあなたの憎しみと殺意を解くことはできないようです。でも理解することはできます。

 あなたは1番目の世界の住人ですね。世界に弄ばれた人間。自己淘汰を始めた世界の人間。

 自分の世界にお帰りなさい。あなたの生まれた悲しき世界に。あなたの安住の地はそこにしかありません」


 「・・・殺・・・・殺・・・・殺・・」

 怒りで増幅された病的な殺意。


 「今の私はこの世界と直に繋がっています。私の唱えるコマンドはあなたをどうとでもできます。それがたった今得たマスターの力です。森羅万象の力を最初に試してみますか・・・」


 次の瞬間エルメルはアルバドアンザールに飛び掛っていた。


 空中で固定されるエルメル。

 あたかも時間が止まったかのように。

 唱えられたアルバドアンザールのコマンドはエルメルを空間に固定する。

 フリーザとは違う管理者のみが扱える高速コマンド。


 手の先、足の先から色あせていくエルメル。凶暴な殺人鬼が岩のように空間で固定されていく。セピア色に空間に縫い取られていく。


 最後まで抗っていた口先は歯をむき出したまま叫ぶようにその動きを止めた。


 殺意のみを口角に残して。

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