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新次元紀行  作者: 木戸攘夷
第32章 最後のイベント
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(3)

 [・・・未来も過去も人の手中に落ちている。だが永遠の命も芽吹き始めた。私が初期の実験体だった。

 偶然の被検体は200年も生きた。これはアナザーワールドの副産物だ。


 この世界に入るためにエミュレータに入っただろう。そしてエミュレータの中で君たちがどのような状態にいるか説明するまでもないだろう。

 初期のエミュレータはポンコツそのものだった。なんと棺桶の形をしている。生を永らえるために死の箱に入る。皮肉なものだ。だがそれが幸いした。


 感覚はほとんど伝達されない。意識のみが、脳のみが発達する。

 人は脳を一生、約100年で使い切ることはない。重力と外力で体の方が先に参っていく。エミュレータに入ることにより制約を受けない脳のみが動き続けることが実証された。

 いずれ人にして永遠の時間を動き続けることが可能になるだろう。


 14人いるマスターは秩序と発展を望んでいる。

 決して退屈な神様ではない。我々の現実世界、リアルワールドが現実の神のアナザーワールドでない限り、人は未来を探し、生きていかなければならない。


 人間が劇的な進化を遂げる前に現実世界はカオスに近づきすぎた。

 望まれるのはカオスを回避するほどの劇的な進化だ。

 DNAという名のプログラムが停滞を許さない。緩やかな進化は人間を確実に今もカオスへ追いやっている。

 急いで進化の結論を導かなければ人間は終わってしまう。


 だが我々はアナザーワールドがエントロピーの増大を、その加速度を抑えるために使えることを知った。

 我々の言うカオスとは即ち発散。我々マスターは命を賭してコントロールしてきた。いや力の限り押さえ込んできたのだ。


 決して退屈な神様ではない。決して、何度でも言う、決して退屈な神様ではない。その目的がある限り。


 気がついたら最年長のマスターになっていた。

 他のマスター達は既に何代か代替わりしている。これでもう設立当初の歴史を語る者はいなくなる。

 だが私は悲観してはいない。私の知識と経験は君たちのいずれかに受け継がれる。


 私の脳も限界に達した。安らかに眠るとしよう。このイベントが最後だ。君たちのどちらかがマスターの座についてくれることを望む。

 なぁに最初は大した事はない。5万語のコマンドを覚えてもらうだけだ。君たちには十分に才能がある。検討を祈る。


 まもなく正のエレメントからエネルギーを奪った制御水が膨張を始めるだろう。暫くの後、この坑道は負の遺産共々埋もれる運命だ。

 だが案ずるに及ばない。制御水が地上へ導いてくれるだろう。

 最後にアルよ、幸せな時間をありがとう・・・では、さよならだ・・・]

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