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新次元紀行  作者: 木戸攘夷
第32章 最後のイベント
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(1)

 生前のコーラマバードが仕掛けたイベントが発動したのは暗くてよく分らないが日の出の時間になっていた。


 地上に繋がる穴から見える空はいつの間にか白んでいたし、サルナも起き上がるまでに回復していた。


 地上からの光に照らされるように立つ老人は確かにそこにいた。

 明らかに立体映像なんかではなく、質量を持った人間として。3人にまったく気づかれることなく。


 白髪に丸眼鏡。スラリとした老紳士。

 彼はこの世界の創造主だ。何を起こしても不思議はない。


 [・・・よく来たなトルクコンカラット。

 そして今まで苦労をかけたなアルよ。もうお前の自由にしてよい。私を気遣う必要もない。トルクとマスターの座を争うも、放棄して自由になるのもお前の自由だ。

 お前がマスターなどになりたがっていないことは知っていたよ。養子にする目的を知っていたらお前は私の元には来てくれはしなかった。

 お前と過ごした数年は私にとって宝だった・・・]


 アルバドアンザールはコーラマバードを前に静かに涙を流していた。

 二ヶ月前に埋葬したはずの見慣れた老人が確かにそこにいた。

 アルバドアンザールにとってはマスターである前に父だった。


 「俺は争うなんて言ってない。たまたま巻き込まれて此処にいるだけさ。大体200年も生きてたって言うからもっと仙人みたいな爺さん想像して損したぜ。200歳の爺さんにしては若すぎる。パラダイムルール違反もいいとこだ」


 トルクは姿勢を斜にしてクールを装っていはいるが言いたいことはあった。


 「だめよ、トルク・・・そんなこと・・・言っ・・・ちゃ・・・」

 サルナは予想だにしないトルクの言葉に慌てていた。


 [・・・雲にでも乗っていたら満足かね、トルクコンカラット。それから一つ訂正するが200歳ではない。261歳になる・・・]

 「自分たちは易々とルールを破る。竜に乗ることだって容易いだろう。世界は自分たちの為にあると思ってる。200年以上も生きてるのがその証拠さ」


 [・・・その通りだ。思っていた通りの人物だな、トルクコンカラット。

 アナザーワールドもパラダイムルールはそもそも我々が作ったものだ。

 我々の、現実の人間の為に。その思いが我々を傲慢にした。素直に認めざるを得ない。

 だがアナザーワールドが現実を模倣するために、このパラレルワールドを制御するには必要なルールだったのだ。この世界に住むと同時にこの世界を導いている。

 私は良くも悪くもこの世界を維持してきた。それも事実だ。判ってほしい。

 大体雲にも、亀にも、鯉にも乗り飽きたがね・・・]

 「・・・・」

 トルクにはコーラマバードの真意が測りかねた。


 [・・・そちらの美しいお嬢さんはどなたですか。アルよ、紹介してくれないか・・・]

 「すいません。私、内務省のサルナ東郷といいます。お邪魔でしょうか?」


 [・・・いや、そんなことはない。

 あなたも恐らく成し難い使命を背負ってやってきたのでしょう。

 ぜひ成り行きを見守りなさい。そして成り行きを内に秘めるも、詳細に報告するもあなたの自由です。一切の制限はありません。

 もちろん使命を果たすも自由です。ですが使命を最後まで果たす必要はないでしょう。

 この場に無事辿り着けただけでトルクコンカラットには十分に資質があります。そしてアルにも・・・]


 サルナは何時ぞやショルダーバッグデバイスに忍ばせた朱字だらけのペーパーを思い出した。

 ケリー長官に渡された殺人許可書。

 そしてコーラマバードの言葉に安堵を感じる。


 コーラマバードは何故サルナがこの場に居るのかよく把握していた。

 不測の事態に陥ったときに誰かが事態を収拾しなければならない。そう、世界の意にそわない人物を殺すためだ。


 ここで言う世界とは、そうコーラマバードのことだ。そして意に沿わない人物はとはトルクか・・・それともアルバドアンザールか・・・。


 [・・・セレクションというのは名ばかりで私は選別したりしない。これから少しだけ私の話に付き合ってもらうがよろしいかな・・・]

 「かまわない」

 トルクがぞんざいに答える。

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