(1)
高い鈴の音が響く。
側室の暗闇からドナウが現れたのはしばらくしてからだった。
気配を感じ見つめるトルクとアルバドアンザールの視線の先、暗闇からドナウが小鳥を咥えて現れた。
ドナウは小鳥を地面に置くと左足で逃げないように押さえつけた。
「にゃーあ」
「よかった。間に合う。だいぶてこずったようだね。さあ、ナイルを放すんだ」
「にゃぁ・うにゃにゃ、にゃあ」
「いいから放しなさい。分ったから。また今度買ってあげるからにゃ」
「にゃ、にゃあ」
「うん~ん」
「にゃあああ」
「にゃ、にゃー。それも大丈夫だよ。心配するにゃ・わかったから。ちゃんとアンドジョンに頼んどくにゃ・・」
ドナウは少し考え込んだ後、ナイルをゆっくりと放した。
ナイルは少し羽根を繕うとすぐさま飛立ち、横たわるサルナの上を旋回した。
「猫と鳥を僕にしてるのかい。驚いた。レイヤー遷移アルゴリズムを使ってやってくるなんて。やっぱり隅に置けないなあトルクは」
「さすがだな。ドナウが珍しく本気で警戒してる」
「あれで?何処に警戒色があったんだい・・・そもそも意思の疎通ができるのかい。驚いた。いや、トルクのやることには昔から驚かされてばかりだ」
そうこうしている間にナイルはサルナの足に取り付いた。
そのさまは吸血蝙蝠が家畜に飛びつくようだった。
大きく羽を広げて外からは何をしているか見えない。
「ナイルは我が儘で言うことを聞かないフィンチ。バグ取りが得意なんだけどウィルスにも目が無い」
「何をしてるんだい。見えないな」
アルバドアンザールがナイルを覗き込んだ。
「やめたほうがいい」
「秘密なのかい。怒るかな」
「いや、グロいから」
見る見るうちにナイルは3倍ほどの大きさになっていた。
サルナの毒を吸い終わると飛立って今度はドナウの上を旋回する。
もともとナイルとドナウは仲が悪い。
体が大きくなったナイルはドナウに一太刀浴びせようとドナウに襲いかかる。
後ろ足で立ち上がったドナウに敢え無く迎撃される。
もともと小さかったナイルだ。スズメがハトのサイズになったところでドナウには敵わない。
しばらく旋回すると地上に繋がる穴から夜空に消えていった。
手を差し出すアルバドアンザールを無視しつつドナウも側室の暗闇に消えていった。
最後に鈴の音を響かせて。




