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新次元紀行  作者: 木戸攘夷
第30章 獣の見る夢
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(2)

 巨大な針葉樹が生い茂る中で少年は鹿を追っていた。

 若き日の人間だった頃のエルメル。


 それがどの世界での出来事なのか、何時の出来事なのか断片的にしか覚えていない。


 少年は富豪の下男だった。役割は犬と共に鹿を追い詰めることだった。

 追い詰めた鹿を馬上の主人が散弾銃で仕留める。


 もともと色が青白く見目の良くない下男の少年。だが足が速く犬と共に森を駆け抜けることが好きだった。


 屋敷ではボロボロの布を身につけ、他の下男や主人に虐げられたが森では誰も、犬以外は下男に付いてこれなかった。


 少年は森に入るとそのリーダ格の鹿を追うことに執念を燃やしていた。

 この大きな鹿を仕留めることで主人に気に入られたい。いや、それ以上にいつも軽々と逃げ去っていく鹿に勝ちたかった。


 体重1tを優に超えるオスのエルク。

 森の悪魔と恐れられ、蹴られて死んだ犬は後を絶たない。蹴られて殺された狩人もいる。


 エルクは一匹崖の方へ逃げていった。群れの仲間を逃がすために。

 少年がエルクを崖に追い詰める。下はオーバーハングで100m以上の絶壁。

 落ちれば助からない。


 銃声が轟いた。

 エルクがよろめく。


 同時に少年は腹部に違和感を覚えた。

 横腿から横腹にかけて血が滲んでいる。銃声の方へ目をやると馬上の主人が少年を見ていた。薄笑いを浮かべている。


 再度銃声が轟く。

 エルクが嘶く。


 少年は左手の感覚がおかしいことに気づいた。

 血が噴出していく。

 少年は散弾で撃たれ、倒れる寸前のエルクにふらふらと近寄っていく。

 エルクが無表情に少年を一瞥をくれると少年の肩口に噛み付いた。

 そのまま崖下に二体で落ちていく。抱き合ったまま。


 数日の後、一匹の、いや、鹿の角を生やした怪物が泣きながら主人と他の使用人を引きちぎり、屋敷に火を放った。

 この夢が自分自身の夢なのか覚えていない。

 虐げられはしていたが、それでも認めてもらいたいと願った主人に裏切られ、鹿に道連れにされた夢。

 その夢も虚無に塗り潰されていく。

 もがいていた右手はその力を失った。


 坑道の4箇所、起爆センサーの切れ目から仕掛けられたルームフィックスはトルクによって改造されていた。

 トラップとして利用できるようにセンサー起動する。


 エルメルの移動速度を甘く見ていた。感知してから起動するまでおよそ2秒。30メートルの区間で十分なはずだった。

 頭が空間から出てしまえば恐らく空間は食い破られていた。

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