(3)
揺らぐ煙幕。低くスチームのような鼻音。身に覚えのある雰囲気。
「生きているとは驚いたぞガンジス。そして結界を破るのは苦労したぞアンダー・ザ・ルール。まだ、生きているだろうな」
「ああ、まだ生きているよ。あなたの手下は分からないけど」
「役立たず供め」
聞き覚えのある声が煙幕の中を木霊する。
3度目の遭遇。暗闇を満たす緊張の波。
持ちきれずに入ってきた色違いのヘラ鹿の角を生やしたボス。
アルがライフルを入り口に向かって発砲する。
それに答えるかのようにテーブルが叩きつけられる音が響き渡る。
トルクの横をソファが猛スピードで通り過ぎ、壁に当たって砕け散る。
「借りを返すぜっ」
ソファの弾道から当たりをつけたトルクが突っ込んでいく。
奥には超強力鳥もちで身体を『へ』の字に折り曲げた黒服の影が身動き取れずに居るのが幽かに見えた。
そして手前に奴の影がはっきりと見える。
脇から抜いた特殊警棒が微かだが獲物の気配を捕らえた。
(当たる!)
「どうやって助かったか判らんが懲りん奴だ。今度は心臓を握りつぶす」
異形な影が長い両腕を振り回す。じりじりと間合いを詰め始める。
あの手に触れば切り裂かれてしまう。
(奴は微妙に間合いを掴み切れていない。何とかなる)
間合いの外でトルクが少しずつ前後する。
エルメルが押し寄せてこないのは特殊警防を恐れているからだ。身体全体を絶縁している訳ではないことが推測できる。
トルクは大きな影の急所、間合い負けしない箇所に狙いを定める。
僅かな時間だった。薄くなりつつある煙幕の中でゆっくりと異形の影は手を広げ、体勢を低くした瞬間、押し寄せる瞬間。
「く・た・ば・れ!」
刹那にすり足で間合いに踏み込んだトルクの特殊警棒の先がエルメルの喉元を突いていた。渾身の手ごたえ。
エルメルは体毛から閃光と火花を散らし暗い室内を明るくした。
一歩、二歩とよろけながら下がるエルメル。
「少し出力が足りなかった・・・な」
「カッコつけてると恥かくぜ」
「来るとわかっていれば意識ぐらいは保つことができる。だがそれが総てだ。そして貴様にとっては終わりだ」
よろけつつも膝すら着きはしない。
「やせ我慢するなよ、シカ野郎」
「貴様とはもう終わりだ」
1度は不覚を取ったが電撃に対する耐性を確認済みの今になって、とっくにエルメルにとってもう恐れるものではなかった筈だった。
「・・・なんだ・・・こ・れ・は・・・」




