(2)
「この空間は時空を歪めて存在しています。地球の皮の下にある半円形の領域です。ちょうど連続したレイヤの連なりの間に挟まった非連続のレイヤと考えてください」
「うんーん。ぜんっぜんわかりません」サルナが怪訝そうに直ぐ答えた。
「このレイヤ外では空間や時間さえ曲がってみえます。いや、正しくはこのレイヤ内の空間が曲がっています。曲がりながら閉じています。だから外の世界からはこのレイヤを見つけることは普通には不可能です」
「はっはーん。解ったわ、こういうことね。メビウスの輪のような・・・」
自信満々にあごの下に手を組むサルナ。
「いえ、違います」きっぱりと素早く否定するアルバドアンザール。
(ちがぅんか~ぃ)吹き出しそうところを必死に小さな声でつっこむトルク。
「歩き続けても元に戻ることはありません。有限の空間を無限の時間を掛けて歩き続けるようなことになります」
「なんとなく隠れていることだけは解りましたけど・・・」
「いえ、それでいいと思います。技術は使う人のためにあって積み上げるものです。使う人はパスワードとマニュアルのありかだけを知っていればいいんです」
アルは屈託のない笑顔をサルナに向けた。サルナが怪訝そうな顔を変えることはない。
「何でこんな非合法・・・いや、無作法な空間が許されて存在しているのかそれがわからない」トルクは窓から外を見ながら問いかけた。
外は星明りがきれいなだっだ広い世界。だが衛星からも飛行機からも見ることが出来ない。まして外の世界からは触れることすら出来はしない。
「残念ながらこの空間は僕が生まれる前から存在しています。僕が作ったわけではありません。君たちの本当の目的であるアナザーワールドのフォースマスター、コーラマバードが作ったのです。マエストロにはそれが許されている。まあ、許すも何も自分達が作った世界だからね」
「あまり関心しない。やりたい放題じゃないか。バーの女性は死んでからもずっとイベントを待っていた。見るに耐えないクソイベントだったぜ」
アルバドアンザールは何が起こったかを考えていた。そして色々なことをトルクの口調から悟ったようだった。
「・・・すいませんでした・・・。あなた方に謝っても仕方がありませんね。元はコーラマバードが始めたことですが責任があると言えば私も同罪です。悪しき設定の元凶を後でお見せしましょう。そうすればその理由も理解してもらえるでしょう」
「なんとなく察しがつくよ。隠蔽に隠蔽を重ねて作り上げた世界がここなんだろ」
「ふふ、それにしてもトルクはビッグシューターの頃と変わりませんね。何か安心しました」
「アルもな。変わってないよ。昔から俺はアルの小利口なところが好きじゃなかったんだよ」
「そうやって面と向かって悪態を付くところなんか全然変わってない。ビッグシューターを思い出すよ」
「思い出したくもない」
「正直言ってトルクの自由な発想には嫉妬したし、いつも周囲の関心を引いていたよ。でも皆の注目を集めるのが嫌だから天邪鬼でどんどんコアな方向に走って行った」
「別に嫌だった訳じゃない。それに優等生に言われる筋合いはないよ。社会的にはアルの方がよっぽど変わり者で通ってる」
「トルクから社会的なんて言葉が出るとは思っても見なかったよ」
「いや、ちょっと待て。俺の知ってる社会は三千世界のことだけどな」
「それは光栄です。僕は人付き合いが苦手なだけさ。本当さ、サルナさんもそう思ってるでしょ」
「トルク・・・自由・・・で天邪鬼なのはどうかな・・・そうかな・・・何と無く・・・」突然振られて困ったサルナは少し考えながら言った。
(余計なお世話だよっ)
トルクは苦虫を嚙みつぶしながら口をへの字に曲げて見せた。




