(2)
果たしてパスワードは当たっているのか。それともはずれか。
フィールドが完全にボールで埋め尽くされ真っ白になった後人影が浮かび上がった。
人影はドットが荒すぎてモザイクのようになっていた。確証は持てないがトルクはその人物に見覚えがあった。
端正な顔立ちの美青年。コーラマバードに見いだされ、養子となった青年。
次第にモザイクは波が収まるように端から消えていった。
若干面影は変わっていたが間違いなくアル。アルバドアンザール。
その人物はしゃべり始める。
「やはり君だったのか。少し痩せたかい。久しぶりだね。ガンジス。いや、トルクと呼んだほうがいいのかな」
「懐かし名前だろ、アル」
「忘れたことはないよ。実は探していたのは僕のほうさ。会いたかったよ。僕は君ほど人を探す能力に優れていないからね。探してくれるのを待っていたよ」
トルクは予想外のアルバドアンザールの言葉に戸惑っていた。
なぜ自分をアルが探そうとしていたのか?。
そしてトルクは戸惑いを隠そうとしていた。こちらが戸惑いを見せれば会話はアルのペースになっていく。昔からアルの小利口な物言いがあまり好きではなかったからだ。
「どうすればいい?」
「少し困ったことがあってね。よく解らない人達に結界を囲まれているんだ。出向こうにも出られない状況でね。恐らくレイヤの縁を感知して入り込もうとしている。どうやってるのか解らないのだけれど」
恐らくそれはエルメルだ。レイヤを根城にする奴なら有り得る事だった。
「多分、エルメルという殺し屋です。すごく凶暴です。気をつけてください。あっ、初めまして、私、内務省のサルナ東郷です」
「やあ、こんにちは、アルバドアンザールと言います。トルクを導いてくれて感謝します」
「いえ、それより気を付けてください」
「結界ならば大丈夫です。そう簡単に結界の中には入ってこれません。ここは100年以上生き永らえた結界の中です。時間は古臭い結界発生装置にある種魔力を生じさせています。十分な時間稼ぎになるでしょう」
「私たちコーラマバードに会いたいんです。コーラマバードにも会えるでしょうか?」
「会えるかも知れませんが会えないかもしれません」
「・・・」トルクがアルをあまり好きでない理由はこういうところだ。
「私は結界から出て行けませんがお二人にパスを発行しましょう。唯の設定でしかありませんが。その場所から東北東の方角へ真っ直ぐ進んでください。ある場所を境に結界が包んでいることがわかるでしょう。お迎えにあがれなくてすいません」
アンティークピンボールは急に光を失い始めた。
フレームは酸化色に変化していく。
ガラスにひびが入り、砕け散る。最後は瓦解してしまった。
それと同時にアンティークピンボールに支えられていた燃え殻たちが崩れていった。
あたかも火災の中で燃え尽きたかのように。




