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新次元紀行  作者: 木戸攘夷
第21章 死か付与か 
63/95

(1)

 サルナとトルクが瓦礫の前で立ちすくんでいると1台のパトカーが到着した。


 幅広で見た目に燃費とクッションが悪そうなパトカー。補助動力に化石燃料内燃装置をいまだに装備している車。


 警察のパトカーは現地での足を確保したかったが為にサルナが事前に手配したものだった。

 サルナは大きく膨れたショルダーバックデバイスを持っている。


 何やら色々入っているらしい。時たまショルダーバックを覗いてニンマリするサルナの目が不気味だった。


 「ご苦労さま、北へ向かってください」

 「北というとこっちですか?」

 警官は道のない遥か水平線に指を指した。


 道のない、目的地も見つからない方角へ進めという秘密捜査官の言葉をあからさまに訝しがってみせる。

 点けたラジオはノイズが酷く聞くに耐えない。時たま入りの悪いラジオのチューニングをやり直す。


 「この辺は特に衛星電波が拾いづらくて申し訳ありません。まだいいほうです。時期によっては全くダメな日もあります」

 それでもパトカーは悪路を進み始める。


 後部座席はソファが固く、病み上がりでしかもアバラにヒビの入っているトルクには堪えた。


 小さな凹凸を越えるたびに脂汗が滲み出るような激痛が走る。グリップに捕まっていないとアバラ骨が飛び出そうなほどお構いなしに車は上下に暴れまわる。


 『私を探したいと思う人とは会うことがないだろう、パスはヒドュンユニバースだ。私と宇宙を語りたいと思う人には私から迎えに上がるだろう』

 サルナの頭の中にはバーの婦人が言っていた言葉がぐるぐると廻っていた。


 最初は世間話をしていた警官も2時間、3時間と経つうちに殆ど口を効かなくなった。

 トルクもサルナも兎の群れを追いかけたりリスに餌をやったりワシを見上げたりして車をいちいち降りていたがそのうちに疲れ果てて遠くを見つめて動かなくなった。


 尚もパトカーは土埃を巻き上げながら縦横無尽に走りつづける。

 何せこうだだっ広ければ何かを探そうという気力も薄れてくる。探すまでもなく数十キロ先まで見通せるのだから。


 (見通しが良すぎるのも考えもんだな)


 二人はメモを翳しながら大きすぎるハンバーガーにかじりついていた。ピクルスは薄く、しかもアコーディオン並みに繋がっている。

 警官は馴染みのマスターとカウンターで立ち話に興じている。


 警官がランチタイムにしたいというのでドライブインに立ち寄ることにしたのだ。

 ドライブインは観光客とトラックドライバーが数組いるだけでBGMはノイズの混じったラジオの音。


 走り回った距離は優に100キロを越えていたし、サルナに至っては鎮痛剤が効いているのか遠くを見ながらウトウトし始めた。

 トルクはアバラが痛くてそれどころではなかったが。


 「ローグランじゃあクリーンミートしか入ってこないからな」

 「それってもしかして違法なやつ?」


 「さあな。しょうがないだろ安いクリーンミートしか入ってこないんだから。でも缶詰されたクリーンミートもなかなかいけるんだぜ」


 ポテトをつまんで口に放り込むトルク。

 クリーンミートが生体に与えるその危険性に言及されたのはかなり前。開発に半世紀をかけ、長い間食糧問題を解決し続け、世界の食料危機を救ったクリーンミート。

 危険性を言及されてから世界的に禁止されるまでに一年もかからなかった。


 「『私を探したいと思う人とは会うことがないだろう、パスはヒドュンユニバースだ。私と宇宙を語りたいと思う人には私から迎えに上がるだろう』って探して回っても逢えないってことかしら」


 サルナのストローが小さく音を発て、トルクのポテトが口を外れる。

 「『宇宙を語りたいと思う人・・・』ってもしかして何かイベントを逃しているってことだろうか」


 「でも婦人は死んじゃったしね」

 「婦人以外の何か・・・」


 サルナのストローが勢い良く音を発て、トルクの指が弾いたポテトが口を逸れ大きな弧を描いた。

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