(3)
トルクの頭の中は今高速で回転していた。
もちろんサルナのお尻のことではない。アンダー・ザ・ルールについてだ。
昔恐らくそこに居たものが今はどこに行った。いや、まだそこに居るのか。居るとしたらどうやって空撮や衛星写真から逃れているのか。
『80キロ先の小さな鉱山跡地』に深い意味はない。恐らくその言葉のままだ。光学的に隠しているのか。いや、世界がシステムを挙げて隠蔽しているものがそんなに簡単な隠し方をしているはずがない。
アンダー・ザ・ルールの存在確率の低さを裏付ける手法。そんな手法があるのだろうか・・・。
(どうする。極秘の写真を探すか・・・)
トルクにとって時間さえかければ探すことは不可能ではない。ただそんな時間はない。そして役人の前でやっていい事でもない。
申請すれば許可が下りるような種類のものではないことは明らかだ。許可するマスターがいないわけだし。
(まあ、いっか・・・)
トルクは何かを思いついたのか再びコンソールを叩き始める。
「ミスターコンカラット、それ何してるの?あんまり勝手なことするとリーガルマシンに利用権利剥奪されちゃうよ」
ジエフが立ち上がって覗き込む。ジエフはトルクの作業に興味津々だった。
データオペ室という性質上セキュリティも堅牢なこの空間でハッカーと呼ばれる人間に何か出来ることが果たしてあるのか?サルナに言われるがままにハッカーをデータオペ室に入室させ、端末を与えてよかったのだろうか。
いつもは付き纏われてうざったいリーガルマシンもなぜかあまり近寄って来ない。
(まあ、それは言わないことにしよう。長官も何も言わなかったし・・・)
トルクはパワーオフしたかのような真っ黒な画面に盛んにコマンドを打ち込んでいる。
「イメージをローグランのラプラタに送ってレイヤ解析する。まず数万層のレイヤを分離しレイヤ毎の歪を時系列で測る」
「?・・・」
予想可能な範囲から大きく外れるトルクの言葉にジエフは言葉がない。
「ここじゃあツールが足りない」
「なんか・・・なんかしてますよ。明らかに。だだ・・・だ大丈夫なんですか・・・サルナさん・・・」さすがに心配になって小声でサルナに囁くジエフ。
真っ黒な画面に視認できるか出来ないかのごく薄い波紋が現れる。
「・・・」
サルナは答える術を持たない。だが波紋には見覚えがある。
「通常はレイヤの歪なんてのは一定の発生周期と確率に支配されてるはずなのさ。それにしたってホンの僅かだけれどね。通常は」
そして一瞬ジエフは我が眼を疑った。目を擦る。
サルナは気づいていない。トルクが覗き込んでいる画面の奥から何かが現れたのだ。
それは魚だった。確かに真っ暗な画面に魚が迷い込んできた。
画面の奥からやってきたその魚は画面の手前でターンし、一瞬で消えてしまった。
一瞬だが確かにそれは銀色のアロワナだった。ペットショップでよく見るあの魚。
(目の錯覚かな・・・?)
ジエフはもう質問の言葉すら思い浮かばなかった。
[PROCESSING・・・;の文字のまま数分近く経っただろうか。
「そしてこのレイヤを解析するとこうなるっ!」
モニタのバックライトに浮かび上がったトルクの顔は嬉々としていた。
大量のコードが暗闇に流れ込んできた。そして物凄い勢いで原始コードの羅列がスクロールし始める。




